適応策の取材ノウハウ
地域に根ざした適応策を把握し発信することは、適応の普及啓発の観点からも重要です。オンライン記事や事例集などを制作し広く共有することで、一次産業従事者や企業が適応を理解し、具体的な行動を始めるきっかけになります。さらに、市民にとっても身近な地域の取り組みを知ることは、自らの暮らしや地域社会にどのような影響があるのかを理解し、日常の中でできる適応の一歩を考える機会につながります。
ここでは、そのような適応策の事例を、オンライン記事や冊子に掲載する際に役立つノウハウを整理しました。実際の取材の進め方を順を追って見ていきましょう。
1.取材を始めるにあたり必要なこと
【取材対象者の選定】
まず地域の適応に値する対象事例を集めます。地域特性を考慮し、特産品や一次産業に係る取り組み、暑熱健康や自然災害、経済活動などの分野別でバランスよく把握できると良いでしょう。資料だけではわからない点は、直接対象の機関や事業者に問い合わせるのもお勧めです。
●対象事例を集めるにあたり参考となる資料
- 過去の気候変動関連の講演記録や資料
- A-PLAT 関係省庁、研究機関の適応に関する取組ページ
- A-PLAT 気候変動適応広域協議会ページ
- A-PLAT 適応策インタビューページ
- 報道メディア媒体(新聞・インターネットニュース等)
2.取材対象者が固まったら…
【取材依頼】
電話番号がわかる場合は、あらかじめ電話でこちらの希望を伝えた上で、担当の方にメールで取材依頼書を送付します。
●取材依頼書作成の際に気をつけるべきこと
- 掲載媒体と、掲載したい理由を述べる。
- 訪問者とその肩書きを列挙する。
- 取材したい時期や掲載までの大まかなスケジュールを記載。幅を持たせておいたほうが先方も判断しやすい。
- 取材当日は、撮影を含めてだいたいどのくらいの拘束時間があるかを伝えておく(例:取材1時間、撮影しながらの質疑応答やポートレート撮影の1時間、計2時間など、依頼書の段階ではイメージで構わない)
- 取材の許可が降りてから、当日の流れを細かく記した「香盤表」を送る(後述)
- 何を撮影したいのか、どんなことを聞きたいのか、先方がイメージできる範囲で述べること。取材の許可が降りたら、具体的な質問表を送る。
- 取材したい取り組み内容に関して、取材対象者が適応の概念を意識していないケースがあるため、事前に打ち合わせの機会を設けるか、気候変動適応に関する資料等を添付するのが望ましい。
●香盤表について
取材当日の段取りを、時間の明記も含めて表にしたものを「香盤表(こうばんひょう)」と呼びます。これを送ることで、取材に慣れていない人でも取材当日の流れがイメージでき、安心材料になります。取材の許可が取れたら、香盤表と、具体的に伺いたい質問事項を併せて、事前に送りましょう。
●香盤表の作成例
| 9:00 | 現地集合 ご挨拶と取材行程の確認 |
| 9:05 | ロケハンと撮影準備。取材に関連する圃場や施設の撮影、商品等の物撮り、取材対象者のポートレートを撮影 |
| 10:00 | インタビューの実施 事前送付した質問票に沿い、話を伺う |
| 11:00 | 今後の流れ(原稿確認と掲載までのスケジュール等)を共有し、終了・解散 |
3.撮影について
●取材時間を設定する際に気をつけるべきこと
夕方以降、外での撮影を予定している場合、光の関係で適さないケースがあるため注意が必要です。室内撮影でも、環境によっては暗い可能性がありますので、光が入る部屋かなどを確認しておくと安心です。また季節によって変化する日没の時間を考慮しておきましょう。冬場であれば、15時を超えると光に赤みがかかってきます。
●何をどう撮るべきかのコツ
- 文脈に沿ったものを撮る。
- 対象物に寄ったものと、引いたものの2種類撮っておくとバリエーションが生まれる。
- なるべく話に関係ないものは避けて撮る。
- 取材中の人物カットも、会議室より圃場などの現場で撮影すると臨場感が出る。
- 人物はインタビューカットのほか、カメラ目線のポートレートを撮っておくと誌面構成の際に使いやすい。
4.原稿ができたら…
原稿ができたら、内容に齟齬がないか、対象者に必ず確認を取りましょう。レイアウト(構成)されたものであれば、写真も組み込んだものを併せて確認してもらえるためスムーズです。
まとめ
ここでは現地取材のノウハウをまとめましたが、必ずしもこの通りに実施する必要はありません。対象者のスケジュールや現場の撮影可否など、状況に応じて臨機応変に対応しましょう。特に、現場にはプロでなければ撮影が難しい被写体もあります。また、季節によっては望ましい映像を撮影できない場合もあるでしょう。その際には、対象者が保有する画像データ等の借用を相談するのも一案です。
地域には、気候変動適応の文脈でまだ十分に情報化されていない取り組みが数多く存在しています。自治体や地域気候変動適応センターが中心となり、事業者や市民に地域の適応策を丁寧に発信していくことは、関係者の適応の理解醸成にも繋がり、引いては地域全体の適応推進の一助になるはずです。ぜひ取り組んでみてください。
参考:山口県気候変動適応センター「やまぐち気候変動適応事例集2024」