インフォグラフィック
イラストで分かりやすい適応策
気候変動の影響と適応策

海藻養殖*

農業・林業・水産業分野|水産業|沿岸域・内水面漁場環境等
協力:水産研究・教育機構 水産技術研究所

影響の要因

気候変動による海水温の上昇は、養殖期間の短縮や生長不良、食害等による生産量の減少をもたらす。

現在の状況と将来予測

現在、ノリ養殖では、秋季の高水温による種付け開始時期の遅れや芽落ち等による収穫量への影響が各地で報告されている。ワカメ養殖では、一部地域で異常気象等による種苗生産の不調や秋季及び収穫時期の水温上昇等により、育苗中の芽落ちや、収穫盛期の生長・品質への影響等の報告がある。また、藻食性魚類のアイゴやクロダイ等による食害の影響も深刻化している。

将来、更なる高水温化や栄養塩不足により、ノリ養殖やワカメ養殖での養殖期間の短縮(養殖開始時期の遅れと終了時期の早期化) と生産減が予測されている。一方、水温上昇の程度によっては収穫量の増加が予測される海域もある(Kakehi,S. et al.,2025)。

また、アイゴが低温斃死水温に達しない年が増え、ノリ・ワカメへの食害増加を予測した研究結果が示されている(広島大学他2019)。

有明海・八代海における将来のノリの日増加率予測(現在の日増加率(1.00)に対する比率)
有明海・八代海における将来のノリの日増加率予測
(現在の日増加率(1.00)に対する比率)**
**温度上昇幅が大きいRCP8.5シナリオ下では、養殖期間の
初期から中期にノリの生長の大きな減少が予測されている
出典:九州環境管理協会他(2019)

適応策

養殖現場では作業効率化やICTの活用等による生産管理の工夫と食害対策を同時並行で進めながら、研究機関の成果(適応的な種苗生産技術、新品種の開発、新たな対象種の利用等)も積極的に導入し、養殖業の継続・振興を図る。

分類
生産管理
  • 養殖工程での工夫等

    <生産性の向上>
    短縮された養殖期間内での生産性向上

    支柱式/浮き流し式

    <種苗生産の安定化>
    気象条件に影響を受けない効率的な種苗生産

    フリー配偶体によるワカメの種苗生産
  • ICTの活用

    漁業者への海況に関する情報発信

    漁業者への海況に関する情報発信
  • 陸上養殖
新品種の開発・他種の導入
  • 新品種の開発

    高水温条件下で生育可能な品種の開発等

    フリー配偶体を用いた交雑育種
  • 新たな対象種の利用

    トサカノリ等の暖海性種の利用

    トサカノリ
食害対策
  • 藻食性魚類からの防除

    防除網の設置

    防除網の設置
  • 食害生物の捕獲や活用

    刺し網による食害魚の捕獲

    刺し網による食害魚の捕獲

    アイゴ料理

    アイゴ料理
分類
生産管理
新品種の開発・他種の導入
食害対策
方法
[ 養殖工程での工夫等 ]

①生産性の向上
ノリ養殖では海上作業の省力化や、海上・加工作業の共同化等の取組が進められている。ワカメ養殖では、作業を大幅に効率化する各種装置の開発(岩手県)等が行われている。

②種苗生産の安定化
ノリ養殖ではバイオスティミュラント(生物刺激剤)による育苗期種苗の環境耐性(高水温耐性等)を強化する技術開発が行われている。

ワカメ養殖では、屋外水槽で粗放的に行われていた従来の種苗生産法に代わる、フリー配偶体*を活用した気象条件に影響を受けない種苗生産手法の開発と普及が行われている(徳島県等)。

*環境が制御された恒温培養庫においてフラスコ等の容器で育成・管理されている配偶体。

[ ICTの活用 ]

漁場付近に設置された自動観測機器からのリアルタイム情報(水温や塩分、潮位等)や水温予報等をポータルサイト(例:沿岸海域水質・赤潮観測情)等で発信する取組が各地で行われている。

[ 陸上養殖 ]

周年生産が可能な陸上養殖も技術開発が進められており、沖縄県のクビレズタや高知県のスジアオノリ等が事業化されている。

[ 新品種の開発 ]

①ノリ
高水温(24℃)でも生育可能な品種の開発が進められており、「みえのあかり(三重県)」や「ちばの輝き(千葉県)」等が実用化されている。また、水温上昇で拡大が懸念されるアカグサレ病耐性株の作出も期待されている。

②ワカメ
左記のフリー配偶体の技術を用いて高水温に耐性のある品種が開発されている(徳島県では、暖温性ワカメとの交雑により「鳴門わかめ」の新品種を開発)。

[ 新たな対象種の利用 ]

暖海性の海藻(ヒジキ、トサカノリ)の試験地での養殖実験が行われている。ヒジキは冬季温暖な宇和海で成長が大きかった一方、激しい食害を受け、トサカノリは現在の瀬戸内海の低水温では育たなかったが、カゴ養殖により食害を受けず、温暖化進行後の有望な養殖対象種であると考えられた等、知見の蓄積が進められている。また、ノリについては南方系野生種の導入やそれを素材とした新品種開発も想定される。

[ 藻食性魚類からの防除 ]

藻食性魚類(アイゴ、クロダイ等)による養殖ノリやワカメへの食害を防ぐため、養殖場の周囲を囲むように防除ネット等を設置する取組が行われている。防除ネット等の設置は重労働であり、防除効果と省力性を備えたネットの改良等が進められている。ネット以外(威嚇による追い払い等)の方法の開発も進められている。

[ 食害生物の捕獲や活用 ]

①捕獲
定置網で獲れた食害魚類の回収や、新たに刺網を設置し捕獲・駆除する取組が行われている。

②活用
藻食性魚類の有効活用の検討が行われており、新たな加工食品の開発等も行われている。

時期

*有明海(佐賀県)、**三陸地方(岩手県)

コスト
低(情報利用等)~高(機器・施設の導入等)
低(普及品種の利用)~高(新品種開発)
-(研究途上)
所要期間
短期(情報利用等)~長期(機器・施設の導入)
短期(開発された品種の普及)~
長期(新品種の開発、5年以上)
不明
社会的視点

近年は養殖海藻を効果的なCO₂吸収源とみなす事例が増えており、国連では現在、海洋で有効なCO₂吸収源としてブルーカーボン生態系に加えて海藻養殖も含めている(水産研究・教育機構2023)。適切な適応策を実施して海藻養殖を継続・発展させていくことは、地域産業の振興のみならず、気候変動への緩和策にもつながる。

適応策の
進め方

【現時点の考え方】 ノリ、ワカメともに産業としての収益性・継続性を確保する為、短縮した養殖期間内での作業工程の工夫・効率化や、種苗生産の安定化、情報発信される海況の状況に応じた適切な対応が取られている。また、藻食性魚類による食害の防除、高温耐性品種の開発や新たな養殖対象種の導入検討等、多面的に対策が進められている。

【気候変動を考慮した考え方・準備・計画】 海面養殖漁場における成長の鈍化等が懸念されるため、引き続き、高水温耐性等を有する養殖品種の開発等に取り組む。これまでに開発した細胞融合技術等によるノリの新規育種技術を用いた、高水温耐性を持った育種素材の開発や、ワカメ等の大型藻類の高温耐性株の分離等による育種技術の開発を進める。(以上農林水産省2023より引用)

2026年1月改訂
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