- インフォグラフィック
- イラストで分かりやすい適応策
高潮・高波
影響の要因
①海面上昇:海水の熱膨張、氷河や氷床の融解等により、海面水位が上昇する可能性が高い。
②台風の挙動変化:海水温上昇によって中心気圧が低下し、強い台風が増える可能性がある。また、台風の経路や数も変化する可能性がある。
現在の状況と将来予測
日本周辺の海面水位は、1980年以降は上昇傾向にある。
東京湾、大阪湾及び伊勢湾を対象とした高潮の最大潮位偏差推定に関する論文レビュー(森他2020)において、地球温暖化が進行した今世紀末では,現状の防災計画の最大潮位偏差を上回る高潮が生じる可能性が平均的に予測されていることが示されている。
適応策
海岸保全では、過去のデータに基づきつつ気候変動による影響を明示的に考慮した対策に転換された。現在RCP2.6(2℃上昇に相当)の将来予測を前提とした方針や計画の策定等が進められている。ハード対策の整備・更新には、供用期間が終わるまで気候変動の影響に順応できる考え方が示され、実装も始まっている。また、これまで以上にハード面とソフト面の適応策の最適な組み合わせを戦略的かつ順応的に進めることが重要である。
- 自治体や地域コミュニティは、防災教育の実施、説明会の実施、パンフレットの配付等、地域の実情に応じて意識啓発の活動を行う。
- 新しい防災気象情報の運用が2026年8月出水期から予定されており、高潮も5段階の警戒レベルと防災行動との関係を明確化する案が示されている(水管理・国土保全局、気象庁2025)。
【ハザードマップ】
地方公共団体における高潮浸水想定区域図の作成が進んでいる。その区域図を基に、市区町村が作成するハザードマップへの反映も行われてきている。
【計画】
①住民:高潮は発生予測に基づく事前避難が可能であることから、高潮の発生前に避難行動がとれる避難計画を住民の意向等も反映して策定する(千葉市総合政策局危機管理部危機管理課2025)。
②企業等:海岸保全施設より海側(堤外地)での就労者等の避難をはじめとした防災行動を整理した「フェーズ別高潮対応計画」や、物流・産業活動に重大な影響が想定される地区では「エリア減災計画」を策定し、日頃より備えを進める(国土交通省港湾局2018年)。
- 自治体や地域コミュニティは、市民が災害時に安全かつ迅速な避難を行うことができるよう、定期的な避難訓練を実施する。
- 住民は、積極的に避難訓練に参加して災害時に迅速な避難ができる状態とする。
海岸保全区域は3省庁4部局の所管*となっているが、協働して気候変動による影響を明示的に考慮した海岸保全対策への転換が進められ、海岸保全区域全体の保全基本方針の変更や通知(2021年8月)等が行われている。通知では、RCP2.6シナリオ(2℃上昇相当)の将来予測を基本とし、RCP8.5シナリオ(4℃上昇相当)等のシナリオについても参考の仕方が示されている。
①港湾
気候変動に伴う外力の変化を考慮した港湾施設の設計の考え方として、予め設計供用期間内の最大の外力に対応した構造諸元を整備する「事前適応策」と、供用期間中に段階的に追加工事を実施することを前提とし、供用期間中に継続的な性能把握を行いながら、要求性能を満足しなくなる前に対策を行う「順応的適応策」の2種類の適応策(港湾における気候変動適応策の実装に向けた技術検討委員会2024より引用)」を組み合わせる考え方が示され**、設計実務の参考資料も公表されている(国土交通省港湾局2025年4月)。
②漁港漁場
機能面、構造面の性能照査結果に基づき、3つの適応策シナリオ(影響の発現が見込まれる時期が近付く前に先行して対策を実施する「先行型シナリオ」、影響の発現が見込まれる時期が近づいた時に対策を実施する「直前型シナリオ」、影響の発現予測や施設利用状況等を考慮して段階的な対策を実施する「順応型シナリオ」)を選定する考え方、及びその考え方に基づく設計例等が示されている(以上水産庁漁港漁場整備部2023)。
専門家の知見や関係者の意見等を踏まえ、気候変動影響を反映した海岸保全基本計画への変更が全国の海岸・港湾で行われている。
隣接する施設等との調整や連携も進められており、港湾においては「協働防護(各施設の所有者・管理者間で整合した目標を定め、各自その目標に向かって耐浸水性等の検討・実施を行う(港湾における気候変動適応策の実装に向けた技術検討委員会2024))」が取り組まれている。
- 堤防だけの線防御から、堤防や消波工に、人工リーフや砂浜等も組み合わせることで、波の力を分散させて受け止めることができる面的防護方式に変更することにより、レジリエンスの向上や環境や利用の面からも配慮する。
- 災害リスクの増大抑制に加えて、砂浜の侵食対策も含めた海岸保全の効果も期待される。
*日本の海岸線延長約35,268kmのうち海岸保全区域に指定されている海岸の延長は14,305km(約40.6%)となる。この海岸保全区域は、3省庁4部局(国土交通省水管理・国土保全局、同省港湾局、農林水産省農村振興局、同省水産庁)の所管となっている(国土交通省水管理・国土保全局編 令和6年度版)。
**大阪湾における重要な治水施設である三大水門の改築にあたっては、 「先行型対策(気候変動による外力増大も反映した、手戻りの無い設計と過剰な投資にならない設計の両面から考慮し、あらかじめ対策を講じておく) 」と、 「順応型対策(将来における気候変化を確認後に対策を講じる) 」が提案され(大阪府河川構造物等審議会2021)、既に工事が開始されている。
- 国や自治体において、危険な区域における居住や開発を抑制し、安全な場所への移転を促進する。
- 各世帯において、転居や都市構造の転換のタイミング等に合わせて、ハザードマップ等で確認して安全な場所に移転する。
- 各世帯において、行政機関が提供している自宅周辺の水害の可能性に関する情報等をもとに、建て替え時に床を高くしたり(盛土)、ピロティー構造にする等の対策により、水害時の被害を軽減する。また、近隣住民が連携して取り組むことも考えられる。
- 「床下浸水」から「床上浸水」になると急激に被害内容が増加するため、床上浸水の防止は重要である。
【体制づくり】
事前に復興時の関係者の役割分担や指揮命令系統を決める等、復興体制を整備しておく。また復興手順も検討し、部局レベルまで実施主体を決めておく。例えば、高潮で浸水した市街地の排水には、警察、消防、自衛隊を含む多数の関係者が関わるため、あらかじめ連携体制や指揮命令系統を構築しておくことが重要である。
【計画づくり】
復興体制や復興手順、復興訓練、復興まちづくりの実施方針等を示した「事前復興計画」を策定し、平常時から関係者間で共有する。水産地域ではガイドラインやマニュアル(水産庁2024、同2025)等も示され、各地で取組が進められている。全国の重要港湾以上の港湾では、「港湾の事業継続計画」が作成され(国土交通省港湾局2025年6月)、発災後でも重要機能が維持できるよう準備されている。
- 復興に必要な実務能力の習熟に向けた訓練を実施する。
- 例えば、高潮については最大規模の浸水想定に基づき、以下の作業の訓練を行うことが考えられる。 ①堤防決壊状況、浸水状況、道路等被災状況の調査 ②堤防仮締切、排水手順の検討 ③災害対策車、重機、資機材等の搬入 ④堤防仮締切 ⑤排水作業
海岸保全基本方針(2020)では、海岸の保全について「海岸背後地の人口、資産、社会資本等の集積状況や土地利用の状況、海岸の利用や環境、海上交通、漁業活動等を勘案し、関係する行政機関とより緊密な連携を図り、広域的・総合的な視点からの取組を推進する」とされている。気候変動シナリオと人口推移による将来の影響人口の増減予測(山本他2024)等の研究も進められており、人口減少や社会情勢も踏まえた総合的な観点も重要となる。
進め方
■「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方 提言」では、今後5~10 年の間に着手・実施すべき事項として「海象や海岸地形等のモニタリングやその将来予測、さらに影響評価、適応といった、海岸保全における気候変動の予測・影響評価・適応サイクルを確立し、継続的・定期的に対応を見直す仕組み・体制を構築」「地域のリスクの将来変化について、防護だけでなく環境や利用の観点も含め、定量的かつわかりやすく地域に情報提供するとともに、地域住民やまちづくり関係者等とも連携して取り組む体制を構築」等の提言が示されている。
■環境研究総合推進費S-18において、「海面上昇による浸水や、外水・内水氾濫、海面上昇・高潮・高波浪に対する港湾施設における適応策について、複数の適応オプションを提示してそれらの適応効果の多寡が示された。実際にはそれらを組み合わせて適応することになるため、今後、どのような地域でどのような組み合わせが最も効果的なのかを詳細に検討することが必要である。」との方向性が示されている。
