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- イラストで分かりやすい適応策
りんご
影響の要因
気温の上昇により、果実の着色期等が高温になる事で影響が生じている。
現在の状況と将来予測
現在、りんごの着色不良・着色遅延、日焼け果等の影響がみられている。
将来、2060年代には現在のりんごの主力産地の多くが暖地りんごの産地と同等の気温となると予測され、適応策をとらない場合、東北中部の平野部まで現在よりも栽培しにくい気候となる。
適応策
永年性作物である果樹は他の作物と比べ、気候に対する適応性の幅が狭い。採算性の面から植栽後20〜30年間は同一樹で生産する事を考慮した適応策を実施する必要がある。
農薬散布や着色管理の邪魔にならない樹上に、丈夫な紐で遮光資材(遮光率10~20%程度)の裾を既存の支柱等に結び付けて被覆する。
日焼けを起こしそうな果実(南側等)に遮光性資材を被覆。強い直射日光が当たるのを防ぎ、果実表面温度の極端な上昇を抑える事で、日焼けの発生を軽減する。
樹冠上部に設置したノズルから細霧を散布し、樹体周囲の気温と果実表面温度の上昇を抑え、日焼け果の発生を減少させる方法で近年技術が確立(夏季干ばつ時のかん水も兼ねる)。
温度が高くても比較的着色のよい品種(「紅みのり」「錦秋」「秋映え」等)や、緑黄色で着色の問題が発生しない品種(「もりのかがやき」等)に改植する。
都道府県の果樹農業振興計画等で長期的な展望を持ちながら、各品種(みかん、ぶどう等)の将来適地予測マップや産地ブランド戦略等も考慮し、採用する品種を決定する事が考えられる。
8月以降、晴天で日焼け発生の可能性がある最高気温30℃以上(真夏日)と予想される前日までに被覆。
- 取り付け:気温や日射量が増える7月上旬頃
- 取り外し:病害虫やサビの発生リスクを避ける為に8月下旬〜9月上旬頃に実施
7月以降の日焼けの危険性がある期間(最高気温30℃が目安、おおよそ7月〜9月)。
主に秋植え
根の活着の面から休眠期中の秋植えが望ましい。積雪や土壌凍結の影響、野ウサギ・野ネズミの被害が大きい場合は春植えを実施。
(農林水産省 参照 2020年6月30日)
地域ブランドが確立している場合も多く、樹種転換は最後の手段。苗木の生産体制整備、植え付けから収穫までの期間等を考慮すると、10年以上前から対策の検討を開始する必要がある。
現地試験において、果面温度を2〜6℃程度抑制、無処理と比較し日焼け果の発生も軽減。年により、着色がやや遅れることがある点に注意が必要。
現地試験では被覆なしと比較し表面温度が約3℃程度低下、果実の日焼け発生率も半減。
現地試験では細霧なしと比較し、果実表面温度(平均)が約2.8℃程度低下、日焼け果の発生率も半減(日焼け程度も軽減)。
植え替えには手間とコストが掛かるが、同じ樹種である為、栽培しやすいと考えられる。改植後数年間は収入が得られない為、園地の一部を高温耐性品種へ植え替えする等、計画的に対応する事が望ましい。
樹種によるが、早いものでも成園まで3〜4年以上要する事が多い。園地の一部を樹種転換する等、収入を継続しながら計画的に対応する事が望ましい。また、流通・加工等の周辺産業への影響も大きい事から、段階的・計画的な検討が必要と考えられる。
【参考価格】
- 遮光率8%資材:110,000 円/10a(試作品のため原反価格、税抜き)
- 遮光率22%資材:150,000 円/10a(税抜き)
(以上青森県産業技術センター(2018)及び小林他(2018)より引用)
【参考価格】
- カサ状(ポリエステル製織物):25円/枚程度(3年以上使用可)
- 筒状伸縮性あり(ポリエステル製織物):15円/枚程度(3年以上使用可)
(以上石川県農林総合研究センター農業試験場(2018)より引用)
【参考価格】
わい化栽培モデル(品種「ふじ」)の場合で約105,000円/10a【内訳:細霧冷房装置(耐用年数5年)約67,000円+水道料金38,000円】。自己施行可。
(以上富山県農林水産総合技術センター園芸研究所果樹研究センター(2018)より引用)
【参考価格】
- わい化栽培導入:約140万円/10a(伐採・伐根、整地、トレリス、苗木、初年度管理費等)※伐採・伐根、苗木の準備等を自力又は共同、木の支柱活用等の工夫により40万円/10a程度まで削減可能。(農林水産省(2008))
- 新わい化栽培(園地整備):約150万円/10a(トレリスの設置、苗木の購入、植え付けの人件費等。助成等は含まない)(公益財団法人 中央果実協会(2019))
樹種転換に加え栽培方法の知見取得も必要な為、同樹種への改植よりコストを要する。
適応策の進め方
【現時点の考え方】
果樹農業においては労働生産性の向上や後継者育成等の課題への取組みが進められている。高温対策については各地の試験研究機関や生産現場等で多くの知見が蓄積されており、それらの活用が有効であると考えられる。
【気候変動を考慮した考え方】
改植の際には現在の状況だけでなく、将来の気温上昇も考慮に入れ、樹種を選択する必要がある。また、果樹が周辺産業と結びついている場合も多く(りんご収穫後の長期貯蔵施設等)、果樹園と周辺産業の両方に配慮し、計画的に適応策を進めていく必要があると考えられる。
【気候変動を考慮した準備・計画】
果樹は永年性作物であり、結果するまでに一定期間を要すること、また、需給バランスの崩れから価格の変動を招きやすいことから、他の作物にも増して、長期的視野に立って対策を講じていくことが不可欠である。したがって、産地において、温暖化の影響やその適応策等の情報の共有化や行動計画の検討等が的確に行われるよう、主要産地や主要県との間のネットワーク体制の整備を行う必要がある。(以上農林水産省2021より引用)