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- イラストで分かりやすい適応策
ニホンジカ
影響の要因
気候変動による気温の上昇や積雪量の減少に伴い、分布の北限や高標高における越冬地が拡大している。
現在の状況と将来予測
生息適地が1978年から2003年の25年間で約1.7倍に増加、既に国土の47.9%に及ぶという推定が得られている。
2103年における生息適地は、気候変動による積雪量の減少と耕作放棄地の増加により、国土の8割近い318×103km²に増加するとの予測がある。
適応策
ニホンジカの分布拡大が予測されている地域において、被害が顕在化する前に備えておくことが重要。既被害地で蓄積されたノウハウ(被害防除、捕獲方法等)を移転し、被害軽減や対策の効率化を図る。
(侵入初期・未被害地)
エサ場として侵入を防ぐ農地での対策と、ニホンジカ生息地である森林域での対策がある。
①侵入防止柵
柵を設置し侵入を防ぐ。農地を個別に囲う場合、複数の農地を囲うグループ柵や集落全体を囲う柵がある。飛び越えられないように2m以上の高さにする。
②エサ場・隠れ場除去
①の効果を高める為に、営農管理(収穫しない野菜や果樹等の処理等)や休耕地・耕作放棄地の定期的な雑草刈り等が望まれる。
①忌避剤
ニホンジカの個体密度の低い段階で、保護したい苗木に忌避剤を塗布し、食害を防ぐ。シカの密度が高まるにつれ、被害は止まらなくなる。(林野庁森林保護対策室 2012)
②テープ巻き
保護したい個体にテープを巻き、シカによる樹皮剥ぎ被害を防ぐ。テープそのものの劣化、肥大成長によるテープの食い込み等の問題点を抱えている。
③防護柵
被害が大きい再造林地での保護に用いられる。森林は防護する範囲が広く、アクセスも悪いため、軽量で設置が容易なネット柵が使用されることが多い。
シカを捕獲する方法は、わなを用いるものと銃器によるものに大別できる。伝統的な捕獲技術(巻き狩り、忍び捕獲、足くくりわな)を習得するには時間を要する為、新たな捕獲技術(誘因狙撃、囲いわな)も開発されている。
①箱わな・囲いわな
設置予定場所を決め、事前に餌を撒きシカをおびき寄せる。その後、餌をわなの中に置き、わなに慣れた頃、捕獲を開始する。箱わなは期待捕獲数1-2頭だが移動・運搬が容易。囲いわなの期待捕獲数は1-5頭の一方設置や解体・移動に労力が必要(高知県2014)。
②くくりわな
シカの通り道に深さ10~15cmの穴を掘り、わなを設置して捕獲する。
①巻き狩り
「勢子」と「射手」に分かれ、勢子が追い出したシカを射手が捕獲する方法(勢子は犬と一緒に行動することもある)。
②誘因狙撃
「餌等で誘引した個体をライフル銃で狙撃する手法」であり、給餌地点近くに設置したブラインド等から狙撃する「定点式誘引狙撃法」と給餌地点に車両で接近し狙撃する「流し猟式誘引狙撃法」とがある(鈴木他2014)。
③忍び捕獲
身を隠しながらシカに接近し、射止める方法(基本的には単独で行う)。
積雪量が多く今後の分布拡大が予測されている地域では、クマ等の捕獲経験を有していても、ニホンジカの個体数管理に関するノウハウが少ないと想定される。また、現在農地の被害が顕在化していない地域でも、今後被害が拡大する恐れがあり、対策のノウハウを事前に移転しておく事が大切である。今伝える事で、将来の被害が軽減できる、対策の効率化に繋がる提案が出来るとより良い。
民間事業者(例:三生塾)、民間資格(例:鳥獣管理士)等による人材育成の取組があり、侵入初期・未被害地において先んじてノウハウを学ぶ事が考えられる。
①鳥獣プロデータバンク
鳥獣保護管理に関する取組に関し専門的な知識や経験を有する技術者を登録し、地方公共団体等の要請に応じて登録者の情報を紹介する仕組み。「鳥獣保護管理プランナー(計画策定への助言)」、「鳥獣保護管理捕獲コーディネータ(現場の捕獲等の指導)」、「鳥獣保護管理調査コーディネーター(現地モニタリング等)」の3専門分野がある。(環境省 参照2020年9月23日)既被害地でのノウハウを侵入初期・未被害地へ移転する人材としても期待される。
②認定鳥獣捕獲等事業者
認定鳥獣捕獲等事業者は、都道府県知事が、鳥獣の捕獲等に係る安全管理体制や従事者の技能及び知識が一定の基準に適合していることを認定した、鳥獣の捕獲等をする事業を実施する法人(環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室2020)。事業として対策を実施する場合知見を有する法人に依頼する事が考えられる。
森林域では、被害状況に応じた防除を行う事で効果が得られる。農地においてもニホンジカの生態等を踏まえた適切な防除(柵の高さ等)により効果が得られる。
それぞれの捕獲方法を適切に実施する事で効果が得られる。
既存知見を活かした侵入初期段階での対策は効果が高いと考えられる。
適応策の進め方
【現時点の考え方】
ニホンジカの生息密度が高い地域においては農作物、造林木への被害や土壌の流出などの影響が広く報告されており、被害防除(市町村)、個体数調整(都道府県)、生息地管理(都道府県並びに市町村)の3つの管理手法が進められている。
【気候変動を考慮した考え方】
気温の上昇や積雪量の減少などにより、現在行われている越冬地(積雪を避けニホンジカが高密度に集まる場所)での集団捕獲手法の適用が難しくなる事や、冬季の生息地が拡大し捕獲もしにくくなる事が想定される。侵入初期・未被害地においては、既被害地でのノウハウを習得し、農業被害等が顕在化し始める段階から速やかに捕獲を行い低密度(被害許容水準を超えない)に抑え込む事が重要となる。また、獣種特性や行動特性等に応じたICT等の新技術を活用した、省力的かつ効率的な捕獲技術の開発(農林水産技術会議2018)及び活用も有効と考えられる。