「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

気候予測・影響予測の概要

気候気候

日本付近の気候のこれまでの変化や将来予測については「日本の気候変動2020」(文部科学省, 気象庁, 2020)などにまとめられています。詳細は、気象庁の地球温暖化情報ポータルサイトをご覧ください。

観測データ

気候変動による影響を知るには、まず過去から現在の気候がどのように変化しているかを知ることが重要です。

気候変動の将来予測WebGISでは、気象庁メッシュ平年値を掲載しています。メッシュ平年値とは、全国の気象台・アメダスの平年値、推計気象分布のデータ、部外観測所の積雪データなどをもとに、日本全国の平年値を1kmメッシュで推定したものになります。気象庁メッシュ平年値2020は、統計期間1991~2020年の平年値を使用しており、気象要素は平均気温・日最高気温・日最低気温・降水量・日照時間・全天日射量・最深積雪の7種類あります。

また、これまでの気温・降水量の変化(気象庁提供グラフ画像)のページでは、気象庁の気温と降水量のデータ(正常値と準正常値)をもとに、観測開始年から現在までの年平均気温と年降水量、真夏日の年間日数、猛暑日の年間日数の長期変化(グラフ)を全国および都道府県ごとに掲載しています。

全国の年平均気温と年降水量の値は、気象庁が日本の気温の長期変化傾向(年平均気温偏差)を求める際に用いている15地点の年平均気温のデータと、日本の降水量の長期変化傾向(年降水量偏差)を求める際に用いている51地点の年降水量のデータから、平均を算出したものを使っています。また、真夏日・猛暑日の年間日数については、年平均気温の15地点から飯田と宮崎を除いた13地点の平均値を示しています(この2地点は観測場所の移転により、統計期間内でデータが均質でないため除いています)。

出典・関連情報

気候予測

WebGISでは、現在以下の気候予測をご覧いただけます。

  • 日本域CMIP6データ(NIES2020)
  • 日本域気候予測データ(NHRCM02/05)
  • 日本域気候予測データ(NHRCM02)補正1km版
  • 日本近海域データ(FORP-JPN02 ver2)
  • 日本域CMIP5データ(NIES2019)
  • 日本域農研機構データ(NARO2017)
  • 推進費S-8気候予測データ

将来の気候予測は、私たちがこれから温室効果ガスの排出をどれくらい削減できるかという仮定(排出シナリオ)、社会経済がどう発展するか、追加的な気候政策を行うかの仮定(社会経済シナリオ)によって大きく変わります。ここでは、IPCC第5次評価報告書で用いられたRCPシナリオ、IPCC第6次評価報告書で用いられたSSPシナリオとRCPシナリオを組み合わせたシナリオを用いています。

排出シナリオに基づいて、将来の気候をシミュレーションするモデルを気候モデルと呼びます。本サイトで提供している将来予測は、IPCC第5次評価報告書やIPCC第6次評価報告書に利用された気候モデルから、それぞれに異なる特徴を持つ気候モデルを選択し、その気候予測の結果をまとめています。なお、選択している気候モデルはプロジェクトや指標によって異なる場合がございますので、ご注意ください。

表1 本サイトで使用している代表的な気候モデルの概要
気候モデル 開発機関 特徴
MIROC5
MIROC6★
東京大学/国立研究開発法人国立環境研究所/国立研究開発法人海洋研究開発機構 日本の研究機関が開発した気候モデルであり、当該モデルを利用して日本を含むアジアの気候やモンスーン、梅雨前線等の再現性や将来変化の研究が実施されている。
MRI-CGCM3.0
MRI-ESM2.0★
気象庁気象研究所
GFDL CM3 (アメリカ)NOAA 地球物理流体力学研究所 日本周辺の年平均気温や降水量等の変化の傾向を確認し、そのばらつきの幅を捉えられるように選ばれた気候モデル。
HadGEM2-ES (イギリス)気象庁ハドレーセンター
IPSL-CM6A-LR★ (フランス) ピエール・シモン・ラプラス研究所
ACCESS-CM2★ (オーストラリア) ARC気候システム科学研究センター
MPI-ESM1-2-HR★ (ドイツ) マックス・プランク気象研究所

※気候モデルの印:★はIPCC第6次評価報告書で使用された気候モデル(CMIP6)、無印はIPCC第5次評価報告書で使用された気候モデル(CMIP5)

本サイトに掲載している予測の排出シナリオや対象としている期間についても、プロジェクトや指標によって異なります。確認したうえで利用するようにしてください。詳細は【将来予測データ(WebGIS)の指標一覧と入手方法】のページをご確認ください。

RCPシナリオRCPシナリオとは

RCPシナリオは、将来の温室効果ガスが安定化する濃度レベルと、そこに至るまでの経路のうち代表的なものを選び作成されたものです。RCPとはRepresentative Concentration Pathways(代表的濃度経路)の略称です。RCPに続く数値が大きいほど2100年における放射強制力*が大きいことを意味しています。*放射強制力:地球温暖化を引き起こす効果のこと

2081年から2100年における地球全体の平均気温上昇量(1986~2005年比)の関係は次の通りです。

RCPシナリオの概要

出典: 気象庁(2013)「IPCC 第5次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 」
p.21 表SPM.2を参考に作成

SSPシナリオSSPシナリオとは

将来の社会経済の発展の傾向を仮定したもので、共有社会経済経路(SSP:Shaerd Socioeconomic Pathways)と呼ばれます。SSPシナリオは、社会経済の多様な発展の可能性を緩和と適応の困難度で、以下のようにSSP1~5の5つに区分されています。

SSPシナリオの概要

図 IPCCの第6次評価報告書で設定されている5つのシナリオの位置付け
出典:環境研究総合推進費 終了研究成果報告書「2-1805 気候変動影響・適応評価のための日本版社会経済シナリオの構築(JPMEERF20182005)」

IPCC第6次評価報告書では、このSSPとRCPを組み合わせたシナリオが使用されており、SSPx-yと表記されます。xは上の5種のSSP、yはRCPシナリオと同じく2100年頃のおおよその放射強制力を表します。
RCP シナリオに付加された数字とSSPx-yのyは、いずれも2100 年頃のおおよその放射強制力となっており、これらの値が一致している温室効果ガスの排出経路は近い関係にあります。

SSPシナリオの概要

出典:温室効果ガスインベントリオフィス/全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト

影響影響

WebGISでは、現在以下のプロジェクトの影響予測をご覧いただけます。

本サイトでは、分野ごとに評価の対象(指標)を決めて、気候変動がこれらの指標に及ぼす影響の予測結果をまとめています。

農業・林業・水産業農業・林業・水産業

○ コメ収量・品質 【S-8データ、地域適応コンソーシアムデータ】

日別の気象データから出穂期や成熟期などの発育段階や、乾物生産量の算定をすることにより、コメの収量を予測するモデルを使用して、日平均気温と日日射量等の変化による影響と、適切な作期の移動(田植えの時期をずらすこと)を行った場合の影響を評価しています。

    S-8データでは、評価を行なうに際して、以下の二つの条件を検討しています:
  • 収量を重視
  • 収量だけでなく品質も重視

対象となる品種はコシヒカリです。なお、評価対象の範囲には、山地など水田耕作が困難な地域も含まれていることにご留意ください。

○ 白未熟粒の割合 【SI-CATデータ】

コメの品質低下の最大の要因は米粒が白濁化する白未成熟米の発生です。白未成熟米は開花後、米粒にでんぷんが詰まっていく期間(登熟期)の高温により発生するため、出穂後20日間の日平均気温をもとに白未熟粒の発生割合を評価しています。

○ 急潮発生様式変化(強度変化・発生頻度変化・発生期間の長さ・発生時期) 【SI-CATデータ】

急潮とは沿岸域で突発的に起こる強い流れのことで、日本各地で急潮による沿岸漁業への被害(漁具の破壊や流失など)が報告されています。ここでは、日本沿岸域における将来の急潮の強度・発生頻度・発生時期の長さ・発生時期の変化について評価しています。

水環境・水資源水環境・水資源

○ クロロフィルa濃度変化 【S-8データ】

ダム湖では、クロロフィルaの濃度が年平均値8 μg/L、年最高値が25 μg/Lを超えると富栄養湖に分類され,水質的な問題が発生する可能性が高まります。

ここでは、水道水源となっている全国37のダムを対象に、クロロフィルa濃度を予測するモデルを作成し、気候パラメータの将来値を用いて、クロロフィルaの濃度を評価しています。

○ 全循環の発生確率 【適応PG(第4期)】

初冬~初春の湖沼では、表層から底層まで湖水の鉛直混合が起こり(全循環と呼ばれます)、湖全体に酸素が供給されます。しかし、気候変動など気象・環境要因によって全循環の不全や欠損が起こり、深底部の低酸素化や無酸素化による生物への影響が懸念されています。
ここでは、22の湖沼を対象に気温および風速の将来予測値を用いて、湖沼の情報をもとに冬季(10~3月)における全循環発生確率を推定しています。

自然生態系自然生態系

<陸域生態系>

○ 森林潜在生育域 【S-8データ、地域適応コンソーシアムデータ】

ここでは、ブナ、アカガシ、シラビソ、ハイマツの樹木の分布情報と気候条件等から、それぞれの生育に適した条件を予測するモデルを用いて、生育可能な地域「潜在生育域」の変化を評価しています。

樹木は寿命が長いため、気候条件が変わり潜在生育域から外れても、すぐにその樹木がなくなるわけではありません。しかし、生育に適する条件から外れることで、種子の生産や稚樹の生育などに負の影響を与え、衰退が進む可能性があります。

○ ブナ稚樹分布確率 【適応PG(第4期)】

将来におけるブナの稚樹の分布確率を、種子散布制限や土地利用などの気候以外の影響を考慮して、ブナの分布がある場所やその周辺部のみで推定しています。

○ 竹林の分布可能域、マツ枯れの危険域 【地域適応コンソーシアムデータ】

ここでは、気候変動による影響の拡大が懸念されている、マツ材線虫病(マツ枯れ:外来病虫害)と竹林(産業管理外来種)を対象に、気温と降水量の将来値を用いて、マツ枯れの被害発生危険域や竹林の分布可能域に及ぼす影響を評価しています。

○ 気候変動の速度(VoCC) 【地域適応コンソーシアムデータ】

気候変動によって現在と同程度の気候条件(年平均気温)にある地域を探索し、その場所までに移動するために必要な距離と時間から、気候変動の速度(VoCC)を評価しています。

適地の移動が速すぎて野生動植物が付いていけなかったり、移動先がなかったりすると、生物が絶滅する危険性が高まります。

<沿岸生態系>

○ コンブ場面積、温帯藻場面積 【適応PG(第4期)】

海水温の上昇により、コンブの分布域が大幅に北上、もしくは生育適地が消失、藻場の減少、構成種が変化するといった影響が懸念されています。
ここでは、将来におけるコンブ場面積、および温帯藻場面積の推定を行っており、前者は亜寒帯のマコンブ類など主に食用コンブ類におる藻場を対象、後者は、温帯性コンブ類(カジメ・アラメ)、ホンダワラ類による藻場を対象としています。

○ 温帯藻場・サンゴ混在群集面積、サンゴ礁面積 【適応PG(第4期)】

海水温が上がることにより、温帯域におけるサンゴ群集の分布北上、藻場の減少によって、藻場からサンゴへ移行が進む可能性があります。
ここでは、将来における温帯藻場とサンゴ混在群集の面積、およびサンゴ礁面積を推定しています。なお、それぞれの対象については、前者はサンゴ群集(生体)、後者はサンゴ礁(サンゴが形成する地形)となっています。

○ アマモ場面積 【適応PG(第4期)】

アマモ(海生の維管束植物で海草の一種)場での生態系は、沿岸域において生物多様性や生物生産力が高い生態系のひとつであるものの、気候変動によって分布域の変化が懸念されています。
ここでは、現在の分布と生息水深、海面変動からアマモ場の面積を推定しています。

○ 干潟面積 【適応PG(第4期)】

海面水位の上昇によって干潟の浸食が進み、干潟の生態系が変化する恐れがあります。
ここでは、干潮時に砂泥底干出する沿岸環境である干潟を対象に、将来における干潟の面積について推定しています。

自然災害・沿岸域自然災害・沿岸域

○ 斜面崩壊発生確率 【S-8データ、SI-CATデータ】

斜面崩壊現象の発生確率を予測したものを、斜面崩壊発生確率と呼びます。ここでは、地形、地質と降雨量変化に応じた地下水上昇の条件を、全国における過去の斜面崩壊の実績に基づいて決定し、年最大日降水量の将来値を用いて評価をしています。なお、この発生確率は、何年間に1回発生するといったものではなく、年最大日降水量の変化による斜面崩壊の確率を示すものです。

○ 砂浜消失率 【S-8データ、SI-CATデータ】

海面上昇の将来予測に基づいて、全国の砂浜の消失率を評価しています。

S-8データでは全国77の沿岸区分を対象にしており、SI-CATデータでは77の沿岸区分に加えて、10km毎の866の海岸区分対象のデータも確認できます。

○ 洪水氾濫(年期待被害額・年期待最大浸水深・年期待曝露人口) 【SI-CATデータ】

ここでは、将来の降水量を入力値として、洪水氾濫による被害額・最大浸水深・曝露人口の変化を評価しています。被害額・最大浸水深・曝露人口は再現確率が30年、50年、100年、200年の値をもとに年期待値として求めています。

健康健康

<暑熱>

○ 熱中症搬送者数 【S-8データ】

過去の熱中症搬送者数と搬送された日の日最高気温の間の関係式をもとめ、その関係式にもとづいて将来の熱中症搬送者数を評価しています。

○ 熱ストレス超過死亡者数 【S-8データ】

人間は気温が高くなると、汗をかいたりして体温を一定に保とうとします。また、長時間高温にさらされると、脱水やけいれん、意識障害などを引き起こすこともあります。このような気温上昇による身体への負荷を熱ストレスと呼びます。高温にさらされた人の状態によっては、脱水などの軽い影響でも死亡する場合があります。それも含めて熱ストレス死亡と呼びます。

ここでは、気温による死亡者数がもっとも少なくなる気温「至適気温」をもとにして、これを超えた気温での死亡者数から至適気温での死亡者数を引いたものを超過死亡としています。熱ストレス超過死亡者数の予測は、至適気温が将来にわたって一定であると仮定し、日最高気温の将来予想値から評価しています。

<節足動物媒介感染症>

○ ヒトスジシマカ生息域 【S-8データ】

ヒトスジシマカは、デング熱などの感染症の媒介蚊で、これが分布する気候条件は、年平均気温が11 ℃以上ということが明らかになっています。ここでは、年平均気温の将来予測から、ヒトスジシマカの生息域を評価しています。

<温暖化と大気汚染の複合影響>

○ 年平均地表オゾン濃度、年平均日最高8時間平均オゾン濃度 【適応PG(第4期)】

近年、オゾン濃度の経年的増加を示す報告が多く、温暖化も一部寄与している可能性が示唆されています。温暖化に伴うオゾン濃度上昇は、オゾン関連死亡(心血管疾患死亡・呼吸器疾患死亡)を増加させる可能性があります。
ここでは、将来におけるオゾン濃度について、気候のみ変化させた場合と、気候と排出量を変化させた場合の二通りの評価を行っています。

○ 年平均地表PM2.5濃度、年平均日最高PM2.5濃度 【適応PG(第4期)】

気温上昇による生成反応の促進その他メカニズムにより、粒子状物質などの汚染物質の濃度変化が報告されており、呼吸器系疾患・循環器系疾患などの健康への影響が懸念されます。
ここでは、将来におけるPM2.5濃度について、気候のみ変化させた場合と、気候と排出量を変化させた場合の二通りの評価を行っています。

健康産業・経済活動

○ 砂浜浸食による被害額、単位面積当たりの被害額 【SI-CATデータ】

気候変動によって砂浜に多大な影響を及ぼすことが懸念されています。ここでは、砂浜消失のデータを用いて、砂浜浸食による被害額、単位面積あたりの被害額を評価しています。

○ 太陽光発電ポテンシャル 【適応PG(第4期)】

将来の気候変動の中で、太陽光発電は安定したエネルギー資源が確保できるのか、科学的根拠に基づいた分析・検討が必要になります。
ここでは、福島県を対象に日射量、気温、風速の3つの将来予測値を用いて、太陽光パネルを建物上のみ設置すると仮定したうえで、太陽光発電ポテンシャルを評価しています。
なお、気候変動による影響のみを考慮し、社会経済や土地利用の変化等は現在のままと仮定していることに留意してください。

(最終更新日:2024年8月1日)