「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

気候変動とは

これまでの気候

「昔の夏はこんなに暑くなかった…」「こんな大雨は経験したことがない…」こんな声を聞くことはないでしょうか。
気候には年々の自然のゆらぎもあるので、気候変動なのか、自然のゆらぎによるものなのか分かり辛くもあります。また、毎年のように異常気象、異常気象と言われ続け、それが普通のように感じてしまっているかもしれません。
しかし、気候は徐々に、そして着実に変化しています。そして、その影響が現実に生じています。
この項目では、日本で、そして世界中で既に表面化している気候変動の具体的な事例を紹介します。

既に生じている気候変動

日本で生じている気候変動

日本においても、気温の上昇や極端な大雨など、すでに気候変動が生じていることが、これまでの観測結果から示されています。このページをご覧の皆さんも、既に「記録的な猛暑」や「●●年に1回の豪雨」を体感されているかも知れません。ここでは、気温と降水量について、観測結果をもとに、気候変動の状況を見ていきます。

気温の上昇

日本の年平均気温は、気象庁によって1898年から継続して、日本国内の15の観測地点の気温データをもとに算出されています。
グラフでは、平均気温は高くなったり低くなったりを繰り返しながらも、長期の傾向としては上がり続けていて、100年あたり1.35℃の速さで上昇しています。

日本の年平均気温の推移
日本の年平均気温の推移
(出典:気象庁ウェブサイト「日本の年平均気温」

また、これまでに観測された年平均気温を高い順に並べると、トップ5はすべてここ10年以内の年であることからも、日本の平均気温が上昇していることが分かります。

年平均気温の高い年ランキング
(1898-2023年の上位10年、太字は2010年以降)
順位 1991-2020年の平均値との差
2023年 +1.29
2020年 +0.65
2019年 +0.62
2021年 +0.61
2022年 +0.60
2016年 +0.58
1990年 +0.48
2004年 +0.46
1998年 +0.45
10 2015年 +0.39
(出典:気象庁ウェブサイト「日本の年平均気温偏差」

また、年平均気温の上昇にともない、猛暑日(最高気温が35℃以上の日)や熱帯夜(最低気温が25℃以上の日)の年間日数は増加傾向にあります。特に、熱帯夜は100年あたり18日のペースで増加しています。一方で、冬日(最低気温が0℃未満の日)の日数は減少しています。

海面水温の上昇

気温だけでなく、海面水温も明らかに上昇しています。日本近海の平均海面水温は100年あたり1.14℃の速さで上昇しています。これは、あとで紹介する世界の海面水温の上昇(100年あたり0.55℃)と比べて非常に速いスピードです。

日本近海の海面水温の推移(平年値からの差の推移)
日本近海の海面水温の推移(平年値からの差の推移)
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020(詳細版)」(2020年12月))

降水量の変化

日本の降水量についても、気象庁によって1898年から継続して国内51地点における観測データを用いて評価されています。年降水量(1年間に降る雨の総量)は、年によって多い年や少ない年がありますが、気温の上昇のように、増加や減少の長期的な傾向は見られていません。

日降水量100mm以上の日数の経年変化
日降水量100mm以上の日数の経年変化
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020(詳細版)」(2020年12月))

一方で、雨の降り方には変化が見られます。図で示したように、1日あたりの降水量が100mm以上の日数は、100年あたり0.29日の速さで増加しています。これは、大雨が降る頻度が増えていることを示しています。また、1時間あたりの降水量が50mmの「激しい雨」や80mm以上の「猛烈な雨」の回数も増加傾向にあります。

世界で生じている気候変動

日本と同様に、世界においても、さまざまな気候変動が生じていることが、観測結果から示されています。ここでは、世界の気温、海水温と降水量について、観測結果をもとに、気候変動の状況を見ていきます。

気温の上昇

全世界に設置された観測点(約300~4,800地点)や、海上については船舶などを活用し、1850年頃から継続して、世界全体で気温のデータが収集されています。これらのデータに基づいて、世界の平均気温が算出されています。
グラフでは、世界の平均気温は、1.09℃上昇(1850-1900年の平均と2011-2020年の平均の比較)しており、特に1960年頃以降に急激に上昇していることが分かります。

世界の平均気温の経年変化(1850-2020)
世界の平均気温の経年変化(1850-2020)
(出典:全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト

海面水温の上昇

世界の平均気温の上昇と同じように、海面水温も明らかに上昇しています。図で示した世界の平均海面水温の推移(1891-2019年)からも、100年あたり0.55℃の速さで、右肩上がりに水温が上昇していることが分かります。

世界の海面水温の経年変化
世界の海面水温の経年変化
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020(詳細版)」(2020年12月))

降水量の変化

日本の降水量は変化の傾向が見られませんでしたが、IPCCの第6次評価報告書によると、世界の降水量は1950年以降増加している可能性が示されています。また、雨の降り方も変化しており、1850~1900年頃に10年に1回発生していたような大雨が、現在では約1.3倍の確率で発生していることも示されています。

これらのほかにも、日本、そして世界で、干ばつや強い台風の発生など、さまざまな気候変動が生じています。さらに、そうした気候変動により、洪水や土砂崩れなどの災害、農作物の生育不良、生きものの生息地の変化など、多くの分野へさまざまな影響が出ています(この点について詳しくは、「2.気候変動影響と対策」の項目をご覧ください)。

本項では、これまで生じている気候変動について、日本と世界における気候変動の具体的な事例を紹介します。また、気候変動についての変化傾向を示す手法についても紹介します。

さまざまな気候変動

気候変動のパターン-ゆるやかな変化と極端現象

気候変動には、年平均気温のように100年かけて数℃の上昇というように徐々に変化するものと、猛暑日や大雨のように、まさにその日その瞬間に極端な気象現象が生じるものの2パターンがあります。後者は特に「極端現象」や「極端気象」と呼ばれています。
極端現象では、高温による熱中症、大雨による水害など、徐々に変化する場合にも、平均気温の上昇による作物の生育への影響や、海面上昇による沿岸域の浸水など、いずれのパターンの気候変動も、さまざまな形で私たちの生活に影響を及ぼします。

日本における様々な気候変動

ここからは、日本において確認されているさまざまな気候変動について紹介していきます。

平均気温の上昇

日本では、平均気温が100年あたり1.3℃の速さで上昇していますが、日本は北半球の中緯度地域にあり、気温が上昇しやすい陸域が多いことから、平均気温の上昇が世界全体の平均に比べて早く進んでいることが示されています。

また、平均気温の経年変化を地域別で見ると、都市化(ヒートアイランド現象)の影響や地方によって統計期間が異なるので一概に比較はできませんが、関東甲信地方で上昇幅が大きくなっています。

日本の各地方のこれまでの平均気温上昇率
平均気温の上昇率 (℃/100年) 統計期間
北海道 1.63℃ 1898~2020年
東北地方 1.3℃ 1890~2020年
関東甲信地方 2.23℃ 1926~2021年
近畿地方 1.11℃ 1946~2022年
中国地方 0.98℃ 1946~2022年
四国地方 1.00℃ 1946~2022年
九州地方 1.77℃ 1897~2022年
沖縄地方 1.69℃ 1946~2021年
(出典:札幌管区気象台、仙台管区気象台、東京管区気象台、大阪管区気象台、福岡管区気象台、沖縄気象台公表データを基に作成)

海面水位

日本近海の海面水位は、10~20年周期の変動と50年を超えるような変動の影響が有り、世界で見られるような右肩上がりの上昇は見られていません。
一方で、1980年以降に着目すると上昇傾向が見られます。

日本近海の平均海面水位の推移
日本近海の平均海面水位の推移
○:日本沿岸4地点の平均海面水位(青線はその5年移動平均)
△:日本沿岸16地点の平均海面水位(赤線はその5年移動平均)
緑線:世界の平均海面水位
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」(2020年12月))

雪の降り方の変化

年間の最大積雪深や1日に20cm以上の大雪が降る日数は減少傾向にあります。

台風

発生数や日本への接近数・上陸数、強さに変化傾向はみられていません。一方で、台風は太平洋上で強さを増しつつ北上し、日本付近へ近づいてきますが、その強さが最も強くなる場所が北寄りに変化していることが明らかにされています。

世界の様々な気候変動

ここからは、世界で確認されているさまざまな気候変動について紹介していきます。
世界の平均気温は1.09℃上昇し、同時に海面水温も上昇していますが、その他にもさまざまな気候変動が生じています。
海面水温のゆるやかな上昇だけでなく、数日から数年の間に急激な水温上昇が起こる「海洋熱波」の回数も増加しています。
図は、過去20年に発生した海洋熱波の事例を示しています。赤い色は、海洋熱波が生じた期間中の海水温の最大上昇温度を示しています。アラスカ海や西部赤道太平洋、北東太平洋、タスマン海、南西大西洋では、人間活動による気候変動の影響によりその海洋熱波が生じた可能性が高いとされています。

過去20年間に観測された海洋熱波の事例
過去20年間に観測された海洋熱波の事例
(出典:IPCC「海洋・雪氷圏特別報告書」の概要 (環境省))

また、1980年代以降、それより前に比べて、海洋熱波の起こる回数は倍増していることも報告されています。
ほかにも、北極海の海氷面積の減少や世界の氷河の量の減少、海洋の酸性化なども観測されています。さらに、氷河の融解や、水温の上昇に伴って、海面水位が上昇しており、1901年~2018年の間に0.20m上昇したと分析されています。

1850年以降の世界平均海面水位の推定値
1850年以降の世界平均海面水位の推定値
(出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図2.28)

こうした気候変動あるいはその影響は、全世界で見られるものもあれば、一部の地域で集中的に生じる場合もあります。例えば、気温の上昇は世界全体で観測されていますが、大雨は、情報が少ない地域を除くとアジアやヨーロッパ地域で、干ばつはアフリカや中央アジアで特に増加しています。

極端な気象に対する気候変動の影響を解析した事例

近年、記録的豪雨や猛暑など、極端な気象現象がたびたび発生しており、気象庁気象研究所をはじめとした研究機関により気候変動との関連性が解析されています。例えば、熱中症による死者数が1000名を超えた平成30年夏の記録的猛暑は、気候変動の影響がなかった場合には、発生する可能性がほぼ0%であったことが示されています。
ほかにも、西日本を中心に洪水や土砂崩れなどの甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨や、関東・東北地方を中心とした広範囲に大雨特別警報が発令され、洪水等により大きな被害が出た令和元年東日本台風についても、気温や海水温の上昇が、降水量の増加に影響を与えた可能性が示唆されています。

気候変動を明らかにするための手法について

長期変化傾向の算出

気温上昇や降水量の変化などを見る場合、1900年頃からの長期変化をグラフ化し、その傾向を見ることが多いですが、年ごとに変動があるため、長期的に見て上昇傾向なのか下降傾向なのかが分かりにくい場合があります。
そのため、例えば、「日本におけるさまざまな気候変動」で紹介した以下のグラフにある赤線のように、長期変化傾向を、それぞれのデータの中心を通る直線「回帰直線」で示します。

猛暑日の年間日数の経年変化(1910~2019年)
猛暑日の年間日数の経年変化(1910~2019年)

また、例えば、「近年“たまたま”気温の高い年が多かった」というような場合も上昇傾向のように見えるため、偶然なのかそうでないのかを統計的に確認する必要があります。統計的な確認を行ったものは、「99%の信頼水準で有意」などと記載されていることが多いですが、これは、「偶然そうなった確率が1%以下」ということを示しています。
さらに詳しい内容については、気象庁「長期変化傾向(トレンド)の解説」をご覧ください。

イベント・アトリビューションについて

猛暑や豪雨などの極端な気象現象は、地球温暖化の影響だけでなく、気象のゆらぎの中でたまたま発生することがあります。そうした極端気象がたまたま起こったものなのか、地球温暖化の影響により起こったものなのかを検証するために、コンピューター上に温暖化した地球と温暖化していない地球を再現し、対象とする気象現象について比較することで、地球温暖化の影響を特定する研究(これを「イベント・アトリビューション」と言います)が行われています。
例えば、令和4年6月下旬から7月上旬の記録的な高温については、発生確率に関する解析が行われ、温暖化していない場合1200年に1度の確率でしか起こらないものが、温暖化の影響により5年に1回起こるものになっていたことが示されています。
また、平成30年7月豪雨に関して、瀬戸内地域で50年に1度の大雨が起こる確率の解析の結果、温暖化していない場合に比べ、現在の温暖化した状態ではその確率が3.3倍になっており、大雨が発生しやすい状況となっていた可能性が示されています。

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