気候変動とは

将来の気候

このまま気候変動が進めば、将来、気温や雨の降り方はどうなるのでしょうか?
将来の気候は、今後の温室効果ガス排出量によって違ってくることもあり、その予測はとても難しいものです。そのため、世界の研究者が日夜研究を重ね、より正確な将来予測を出すための努力をしています。本項では、そうした研究の成果である最新の将来予測情報を踏まえて、日本や世界全体で将来の気候がどのように変化するのかについて学んでいきます。

予測されている気候変動

このまま何も気候変動対策を行わなければ、気温が上がり続けることは想像できますが、一体どこまで気温が上がるのでしょうか?
世界の研究者によって、2100年頃までに気候がどのように変化していくかについての将来予測研究が行われています。その成果はIPCCの評価報告書などに活用され、各国の取組の検討などに活用されています。ここでは、その将来予測の結果を紹介していきます。
将来の気候は、厳しい温室効果ガス排出削減対策を行った場合の変化は小さいですが、化石燃料に依存し、将来にわたって大量の温室効果ガスを排出し続けた場合には大きく変化すると予測されます。そのため、ここで紹介する気候変動の将来予測も、「○℃~△℃」などの幅のある表現としています。
また、気候の変化は、徐々に変化するものと、極端現象の2パターンがあり、前者としては平均気温や年降水量など、後者としては気温関連であれば猛暑日や熱帯夜など、降水量関連では日降水量100mm以上や同200mm以上の年間日数などが指標としてよく利用されています。

日本の気候の将来予測

まずは、身近な日本の気候の将来予測を紹介していきます。日本の将来予測は、すべて20世紀末(1980~1999年の平均)に比べて21世紀末(2076~2095年の平均)にどうなるかについて示します。

気温が上昇

日本の年平均気温は今世紀末に1.4~4.5℃程度上昇すると予測されています。4.5℃の気温上昇は、現在の東京都が鹿児島県より暑くなるほどの変化*になります。また、年平均気温の上昇に伴って、猛暑日(最高気温が35℃以上の日)の年間日数が最大19日程度、熱帯夜(最低気温が25℃以上の日)は最大40日程度増加すると予測されています。

*2020年平年値:東京都15.8℃、鹿児島県18.8℃(出典:総務省「日本の統計2023」)

気温に関する将来予測
  変化の量
年平均気温 約1.4~4.5℃上昇
【参考】世界の年平均気温 約1.0~3.7℃上昇
猛暑日(最高気温35℃以上)の年間日数 約2.8~19.1日増加
熱帯夜(夜間の最低気温25℃以上)の年間日数 約9.0~40.6日増加
冬日(最低気温0℃未満)の年間日数 約16.7~46.8日減少
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020(概要版)」)

雨の降り方が変化

1年間に降る雨の量については、明確に増える、または減るということは示されていません。一方で、気温の上昇により雨の材料となる大気中の水蒸気の量が増加することから、大雨の頻度と強さは増加すると考えられています。具体的には、表で示したように、1日の降水量200mm以上や1時間の降水量50mm以上といった大雨が降る頻度が最大約2.3倍に増加すると予測されています。また、日降水量の年最大値が最大27%増加し、逆に雨の降る日数は減少する(日降水量1.0未満の年間日数は最大約8.2日増加)と予測されています。
さらに、気温が高いと雪が雨に変化することから、雪が降る期間は短くなり、降る雪の量や積雪量も減少すると予測されています。他にも、台風の強度も強くなると予測されています。

雨に関する将来予測
  変化の量
日降水量200mm以上の年間日数 約1.5~2.3倍に増加
1時間降水量50mm以上の頻度 約1.6~2.3倍に増加
日降水量の年最大値 約12~27%増加 (約15~33mm増加)
日降水量1.0mm未満の年間日数 最大約8.2日増加
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020(概要版)」)

海面水温が上昇

日本近海の平均海面水温は約1.14~3.58℃上昇すると予測されています。平均気温が上昇し、海面水温も上昇することから、北海道の北東に位置するオホーツク海の海氷は最大約70%減少すると予測されています。

世界の気候の将来予測

ここからは、世界の気候の将来予測について見ていきます。全体的な傾向としてはおおむね日本の場合と同じですが、世界では日本にはない乾燥地帯や寒冷地なども含まれるので、平均するとその変化の幅などに違いが生じてきます。また、日本ではあまりなじみのない氷河などへの影響についても、重要な要素として将来予測が行われています。

年平均気温が上昇

世界全体の年平均気温は、2100年に、1850~1900年の平均に比べて1.4~4.4℃程度気温が上昇する可能性が高いとされています。

平均気温の上昇に伴って、極端に高温になる日も増加します。10年に1回程度しか生じない高温は2100年には最大9.4倍、50年に1回の極端な高温は最大39.2倍起こる確率が上がると予想されています。[1]


[1]極端な高温は、参照期間である1850~1900年に平均して10年に1回(10年イベント)又は50年に1回(50年イベント)超えられるような陸域における日最高気温と定義されています。

世界の平均地上気温の変化
:厳しい温室効果ガス排出削減対策を行った場合、
:気候変動対策を行わず化石燃料に依存し続けた場合
世界の平均地上気温の変化
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」概要版P.3)

雨の降り方が変化

気温が上昇すると、雨の材料となる空気中の水蒸気の量も増えることから、雨の強さも増します。地球温暖化の進行に伴って、ほとんどの地域で大雨の強さと頻度が増す可能性が高く、10年に1回程度しか起こらない大雨の頻度が、世界全体で最大2.7倍増加すると予測されています。

海面水位が上昇し、氷河が溶ける

平均気温の上昇に伴って、高山や北極圏などの氷河が数十年~数百年にわたって溶け続けることは避けられないとされています。
海面水位は21世紀の間上昇を続け、2100年には最大2m上昇する可能性があるとされています。また、長期的には深海の水温は上がり続け、氷河も溶け続けるため、海面水位は数百年から数千年にわたって上昇したままとなることが予測されています。

本項では、日本や世界全体で将来気温や降水量がどのように変化するのかについて、「気候シナリオ」と呼ばれる予測結果に基づいて紹介します。

気候シナリオを用いた将来気候の予測方法

気候シナリオとは

将来の気温や雨の降り方が将来どのように変化するのかを予測することは簡単ではありません。なぜなら、将来、私たちがどのような社会を作っていくかの選択肢はさまざまで、それにより温室効果ガスの排出量も変化し、そのことが将来の気温や雨の降り方にも影響するからです。
そうしたさまざまな可能性のある将来の気候を予測するために、温室効果ガス排出量やどういった社会(化石燃料に依存する社会や持続可能な社会)を目指すのかを踏まえた、いくつかの将来あり得るパターンを示した温室効果ガスの排出シナリオや社会経済シナリオが構築されています。これらの組み合わせを基に、複数パターンの将来の気候を予測した「気候シナリオ」が構築されています(気候モデルの詳細については、「1-5.将来気候の予測方法」の項目をご覧ください)。この気候シナリオと現在の気候とを比較することで、将来、気温が何度上昇するのか、降水量はどうなるのかといった予測が行われています。

気候シナリオを用いた将来気候の予測結果

日本の予測

日本の将来気候の予測は、文部科学省と気象庁によって「日本の気候変動2020」として取りまとめられています。「日本の気候変動2020」では、RCP2.6シナリオ(産業革命以前に比べて21世紀末(2076~2095年平均)の世界の気温が約2℃上昇)と、RCP8.5シナリオ(同約4℃上昇)の2パターンで日本の気候変化を予測しています(RCP(放射強制力)については「1-5.将来気候の予測方法」をご覧ください。)。以下、各項目についてこの2パターンの予測を紹介します。

気温の上昇

気温の上昇幅は、全国で一様ではなく、北海道など緯度が高い地域で上昇幅が大きくなります。

21世紀末(2076~2095年平均)における日本の平均気温の変化の分布(℃)
21世紀末(2076~2095年平均)における日本の平均気温の変化の分布(℃)
左がRCP8.5シナリオ(4℃上昇)、右がRCP2.6シナリオ(2℃上昇)での予測。
いずれも20世紀末(1980~1999年平均)との差。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

降水量などの変化

21世紀末(2075~2095年平均)の年間の降水量については、有意な変化傾向は予測されていません。一方で、日降水量100mm以上、同200mm以上の大雨の頻度を地域別に見ると、増加幅に地域差はあるものの、どの地域でも増加すると予測されています。

全国及び地域別の1地点当たりの日降水量100mm以上(左)及び200mm以上(右)の発生回数(日/年)
全国及び地域別の1地点当たりの日降水量100mm以上(左)及び200mm以上(右)の発生回数(日/年)
棒グラフはそれぞれの大雨の発生回数、細い縦棒は年々変動の幅。棒グラフの色は灰色が20世紀末(1980~1999年平均)、赤がRCP8.5シナリオ(4℃上昇)、青がRCP2.6シナリオ(2℃上昇)の21世紀末(2075~2095年平均)に対応する。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

降雪量についても、減少幅に地域差はありますが、全国的に減少すると予測されています。特に、RCP8.5シナリオでは、西日本では年間を通じてほとんど雪が見られなくなる予測となっています。

全国及び地域別の年降雪量の将来変化(%)
全国及び地域別の年降雪量の将来変化(%)
図の見方は降水量の図と同。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

海面水温の上昇

海面水温については、特にRCP8.5シナリオで、北日本沿岸部の水温の上昇幅が大きくなっています。

21世紀末における日本近海の平均海面水温の20世紀末からの上昇幅(℃)
21世紀末における日本近海の平均海面水温の20世紀末からの上昇幅(℃) 左がRCP2.6シナリオ(2℃上昇)、右がRCP8.5シナリオ(4℃上昇)による見積り。図中の無印の値は信頼水準99%以上で統計的に有意な値を、「∗」を付加した値は95%以上で有意な値を示している。上昇率が#とあるものは、統計的に有意な長期変化傾向が見出せないことを示している。
(出典:文部科学省・気象庁「日本の気候変動2020」)

ここでは、気温や降水量などの基本的な将来予測情報のみを紹介しましたが、その他の気象要素の将来予測やここで紹介した内容のさらに詳しい情報については、「日本の気候変動2020」をご覧ください。

世界の予測

世界の将来気候の予測は、IPCCが定期的に公表する評価報告書に掲載されています(IPCCの詳細については「5-3. IPCC」の項目をご覧ください)。
ここでは、IPCC第6次評価報告書に掲載された将来予測について紹介します。この報告書では、将来の社会経済の想定と温室効果ガス排出状況の組み合わせから5パターンに分けて将来気候の予測を行っています。
例えば、化石燃料に依存し温室効果ガス排出削減対策を行わないシナリオであるSSP5-8.5では、2100年に、産業革命以前に比べて世界の年平均気温は4.4℃程度上昇し、持続可能な発展の下で2050年頃にCO2排出量実質ゼロを達成するシナリオであるSSP1-1.9では、気温上昇は1.5℃未満と予測されています。
(SSPシナリオの詳細については「1-5. 将来気候の予測方法」をご覧ください)

1850~1900年を基準とした世界平均気温の将来予測
1850~1900年を基準とした世界平均気温の将来予測
(出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図 SPM.8(a))

気温の上昇

温室効果ガスの排出を続けることで、世界の平均気温は、1850~1900年の平均に比べて最大で約4.4℃上昇することは本項の「わかりやすく」でも紹介しましたが、気温の上昇幅は、世界全体で同じではなく、地域によって差が生じます。
まず世界全体で見ると、低緯度地域に比べて、高緯度地域、特に北アメリカ大陸の北部やユーラシア大陸の北部など、北極に近い地域で気温上昇の速度が速く、図においても、変化量の大きい濃い色がついています。その気温上昇速度は、世界全体の約2倍以上と予測されています。
日本でも、「日本の予測」でも紹介したように、低緯度地域より高緯度地域の方が、気温上昇幅が大きく、特に、より緯度の高い北海道沿岸地域で気温が大きく上昇する予測となっています。
また、海面と陸面を比べると、陸面の方がより気温が上昇しやすく、その差は1.4~1.7倍になると予測されています。

1850~1900年を基準とする年平均気温の変化
1850~1900年を基準とする年平均気温の変化
(出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図 SPM.5(b))

降水量などの変化

年間の最大日降水量(1日に降る雨の最大量)は、北極や南極近辺、赤道付近の太平洋や中東・インド近辺などで増加する一方、中南米や南アフリカなどでは減少すると予測されています。
ただし、図で示されているのは増減割合であり、例えば、アフリカ北部のサハラ砂漠近辺などのような元々降水量の少ない地域の場合、少しの降水量の増減で、その増減割合は大きく出てしまうことには注意が必要です。

1850~1900年を基準とする年平均降水量の変化(%)
1850~1900年を基準とする年平均降水量の変化(%)
(出典:IPCC第6次評価報告書 WG1 図 SPM.5(c))

ページトップへ