気候変動影響と対策

さまざまな分野への影響

夏が近づくと、熱中症への注意喚起をよく耳にします。気候変動が進み気温が上昇してきているため、以前よりも一層注意が必要であるとも言われます。気候変動の影響は、熱中症の増加以外にも、さまざまなところで生じるとされていますが、具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。
本項では、気候変動が及ぼすさまざまな分野への影響として、現在すでに現われている影響とともに、将来起こりうるであろう影響について、学んでいきます。

もう、日本でも影響が現れている!

私たちの暮らしの中で、いろいろな場面、場所で、すでにさまざまな気候変動による影響が発生しています。
例えば、自然災害に関しては、近年、過去の観測記録を上回るような大雨が発生しており、それによる洪水や高潮・高波、土砂災害などが発生しています。
また、私たちの健康面では、猛暑により熱中症で救急搬送される人が増えています。他にも、近年国内で発症が確認されたデング熱[1]の事例のように、日本で定着していない病原体が海外から日本に侵入し、それが日本で感染症流行を引き起こすことが危惧されています。
食生活に関係する農業にも影響が現われています。気温の上昇によるお米の品質の低下や、ブドウの色づきが悪くなる、リンゴに日焼けが発生する、トマトの実が裂けるなど果物や野菜の品質低下も起こっています。また、暑さにより牛乳や卵の生産量が低下するとともに、家畜の成長にも悪影響を及ぼしています。
水辺では、ダム湖や湖沼、河川、海の水温上昇や水質悪化が見られます。また動植物については、ブナなどの森林の生態系の変化や、海水温の上昇によるサンゴの白化[2]などが観測されています。
さらに、スキー場の雪が少なくなってきている、サクラの開花日が全国的に早くなっているなど、観光や文化面にも影響を及ぼし始めています。
このように、私たちの生活や命にも関わるさまざまな分野において、気候変動による影響がみられるようになっています。


[1] 蚊に刺されることによって感染する疾患で、急激な発熱で発症し、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状が見られます。(参照元:厚生労働省「デング熱について」)

[2] サンゴに共生している褐虫藻が失われることで、サンゴの白い骨格が透けて見える現象です。白化した状態が続くと、サンゴは共生藻からの光合成生産物を受け取ることができず、壊滅してしまいます。(参照元:水産庁「サンゴ礁の働きと現状」)

将来は、もっと多くの影響が現れ、深刻化するかも!

今後、このまま気候変動が進んでいけば、今まで以上に、もっと深刻な事態になることが予測されています。
例えば、自然災害に関しては、これまでの観測記録を上回るような大雨の増加や台風の大型化などにより、洪水や高潮・高波による被害が増加すると予測されています。また、海面上昇により、多くの砂浜が消失するかもしれません。
健康面では、さらなる高温により熱中症で救急搬送される人が増える可能性があり、また気温の上昇により、感染症を運ぶ蚊が本州にとどまらず北海道の一部にまで拡がるかもしれません。
農業でも、例えば、気温の上昇により品質が良い一等米の割合が低下する可能性があります。また、ウンシュウミカンやリンゴ、ブドウなどは栽培に適した場所が北上し、今の産地が栽培に適さなくなるかもしれませんし、気温の上昇により害虫が増える可能性もあります。さらに、高温や高湿度により牛乳や卵の生産量が一層低下するとともに、家畜の成長に現在以上の悪影響が出るかもしれません。
水辺では、河川や海などの水温上昇や水質悪化が予測され、動植物については、ブナなどが生育できる場所の減少や、熱帯・亜熱帯のサンゴの生息海域がなくなる可能性があります。
また、雪が減少してスキー場の営業に影響を及ぼす可能性があるとともに、サクラの開花から満開までの日数が短くなり、お花見できる期間が短くなるかもしれません。
このように、今まで以上に影響が深刻化し、さらに、私たちの生活や命を脅かす可能性があります。

関連情報

本項では、気候変動が及ぼすさまざまな分野への影響について、どういった影響があるか、それらの影響をどのように評価しているかに関して、広く学んでいきます。また、複数の要素が相互に影響しあうことで、さらに広域で甚大な影響になることについても紹介します。(合わせて「4-3.影響評価報告書」も読んでいただくと、より理解が深まります)。

気候変動による影響

気候変動影響評価について

近年の気候変動による影響は、多岐にわたっており、さまざまな分野に関わっています。それぞれの影響を、「重大性(影響の程度、可能性等)」「緊急性(影響の発現時期や適応の着手・重要な意思決定が必要な時期)」「確信度(情報の確からしさ)」などの観点で評価することが重要であり、それらの評価は、効果的な適応策の検討や、気候変動適応計画の変更などにつながります。気候変動影響評価は、「現在の状況の観測、監視に基づく評価」と、「将来の状況の予測に基づく評価」の両面で進められています。

観測、監視に基づく影響評価

ささまざまな観測データを用いて統計的な解析を行った文献や、例えば大きな被害を引き起こした災害など気候変動影響を受けていると考えられる事例についての資料などを参照することで、すでにどの程度の影響が現れているか、どのようなメカニズムで影響が発生しているかを理解し、「重大性」「緊急性」「確信度」の評価を行うことができます。
そのような様々な文献は、国立環境研究所主催の専門家会合である「気候変動の影響観測・監視に向けた検討チーム」によって「気候変動関連データベース集(2022年)」として取りまとめられています。例えば、農作物の生産量などへの影響は「農林水産省データ集」、水害による被害規模などの影響は「水害統計調査」、熱中症で救急搬送された方の年齢構成や発生場所などの情報は「熱中症救急搬送状況」など、多くの情報ソースがあります。

将来予測に基づく影響評価

気温や降水量が将来どのように推移していくかを予測した気候シナリオ(この点について詳しくは、「1-4. 将来の気候」の項目を見てください)を用いて、例えば農作物の収量や品質がどの程度影響を受けるか、あるいは洪水の氾濫区域がどの程度拡がるかなど、シミュレーションモデルを用いて影響の程度を予測する方法、あるいは、将来の気温上昇を想定した環境を人工的に作って植物栽培などを行いその実験結果を用いて将来の影響を予測する方法など、さまざまな手法を活用することで評価を行っています。
モデルによるシミュレーションでは、さまざまな研究機関により構築されている気候シナリオを用いて、21世紀中頃や21世紀末など、将来時期における影響の予測が行われています。

影響評価における不確実性

一方で、これらの影響評価にはさまざまな不確実性があります。1つ目は将来の温室効果ガス排出量の不確実性で、温暖化対策(緩和策)の達成度合いや将来の社会経済がどのように発展していくかによって排出量には大きな差が生じます。2つ目は気候変動予測の不確実性で、気候変動を予測するモデルに組み込まれている物理法則の近似や仮定の手法に不確実な部分があります。3つ目は、影響評価手法の不確実性で、影響を評価するモデルや手法自体による不確実性です。同じ影響項目を評価する際、異なるモデルを用いている場合には、モデル間のばらつきにも留意が必要になります。

気候変動による影響の例

このような現在の観測、監視や将来の予測に基づく影響評価を通じて、多くの影響について明らかになってきています。また、下表に示すように、将来さらに影響が深刻になる可能性があります。

予測される気候変動影響(例)
分野 予測される影響(例)
農業、 森林・林業、 水産業 農業 一等米比率の低下
りんごなどの着色不良、栽培適地の北上
病害虫の発生増加や分布域の拡大
森林・林業 特に年降水量が少ない地域で、スギ人工林の脆弱性が増加する可能性
水産業 マイワシなどの分布回遊範囲の変化(北方への移動など)
水環境・ 水資源 水環境 水温上昇による溶存酸素量低下などの水質の悪化
水資源 無降水日数の増加や積雪量の減少による渇水の増加
自然 生態系 各種 生態系 ニホンジカの生息域の拡大、造礁サンゴの生息適域の減少
自然災害・沿岸域 水害   大雨や短時間強雨の発生頻度の増加と大雨による降水量の増大に伴う水害の頻発化・激甚化
高潮・高波   海面上昇や強い台風の増加などによる浸水被害の拡大、海岸侵食の増加
土砂災害   土砂災害の発生頻度の増加や計画規模を超える土砂移動現象の増加
健康 暑熱   熱中症による救急搬送人員、医療機関受診者数・熱中症死亡者数の全国的な増加
感染症 感染症を媒介する節足動物の分布域の拡大
産業・ 経済活動 金融・保険 自然災害の多発や激甚化などによる保険損害の増加
国民生活・都市生活 インフラ、ライフライン 短時間強雨や渇水頻度の増加などによるインフラ・ライフラインへの影響
ヒートアイランド 都市域でのより大幅な気温の上昇
(出典:気候変動適応計画(閣議決定)

複数の気候変動影響の相乗

複合的な災害影響

気候変動による影響を受ける自然災害には、洪水や高潮、土砂災害などがありますが、単独で起こる場合と比較して、それらが相互に影響し合うことで広域かつ甚大な被害をもたらすような複合的な災害影響が現れることがあります(下図)。
例えば、平成29年7月九州北部豪雨では、広範囲にわたる斜面崩壊や土石流が直接的な災害の原因となりましたが、それに伴い多量の土砂が下流域に流出し、河川を埋め尽くすような河床上昇を引き起こすことで、甚大な洪水氾濫を助長し、崩壊によって発生した多量の流木が下流域の被害を拡大しました。

複合的な災害影響の例
複合的な災害影響の例
(出典:気候変動影響評価報告書詳細(環境省)

分野間の影響の連鎖

ある影響が分野を越えてさらに他の影響を誘発するようなことや、異なる分野での影響が連続することにより影響の甚大化をもたらすようなことが起こる可能性があり、このような事象は「分野間の影響の連鎖」と定義されています(下図)。
例えば、気候変動の影響により、自然災害が発生することで、都市生活に関わるインフラの損傷やライフラインの途絶が起こり、特に電力システムが途絶すると、農業・林業・水産業分野や産業・経済活動などにさらなる影響をもたらすことになります。

分野間の影響の連鎖の例
分野間の影響の連鎖の例
(出典:気候変動影響評価報告書詳細(環境省)

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