「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

各分野の気候変動影響と適応

海外での影響

近年、日本では、夏の暑さによる熱中症や、豪雨や台風などによる気象災害が発生していますが、海外では、さらに深刻な事象が起きている国々もあります。気候変動は世界共通の課題であり、今後私たちが取り組んでいく上で、海外の状況を理解することはとても大切です。
本項では、気候変動による海外での影響に関連して、これまでの状況や、現状に対して、途上国と先進国がどのような関係のもとに対応していけば良いかなどを学んでいきます。

世界で見られるさまざまな気象災害

以下では、近年世界中で発生している気象災害のうち、特に大規模なもの、特徴的なものを示します。

熱波や森林火災が増えている

近年、広範囲で顕著な高温が続く熱波や森林火災などの発生が増加しており、気候変動により今後さらに被害が大きくなることが考えられます。2020年の世界平均気温は観測史上最高となり、特にシベリアでは長期間にわたって高温が続き、北極圏の観測史上最高気温となる38.0℃が観測されました。また、米国カリフォルニア州デスバレーでは同年8月に、少なくとも過去80年間で世界最高の気温となる54.4℃が観測され、さらにカリフォルニア州を含む米国西部では、夏から秋にかけて大規模な森林火災が発生し、8,500棟を超える建物が被害を受け、41人が死亡しました。

米国カリフォルニア州の森林火災
米国カリフォルニア州の森林火災
(出典:令和3年版環境・循環型社会・生物多様性白書(環境省)

大雨による洪水被害が発生している

大雨による大規模な洪水被害などが発生しており、2022年には、バングラデシュやパキスタンで、近年では最大の被害をもたらした洪水が起こりました。

バングラデシュでは、影響を受けた160万人の子どもを含む400万人が緊急支援を必要とし、3万6,000人以上の子どもが、家族とともに過密な避難所への避難を強いられました。

また、パキスタンでは、国土の3分の1が水没し、1,200人以上の死者が報告されるとともに、3,300万人以上が被災、50万人以上が救援キャンプで生活を余儀なくされたと推測されています。

国土の3分の1が水没する被害を受けているパキスタンの被災地
国土の3分の1が水没する被害を受けているパキスタンの被災地
(出典:日本赤十字社、パキスタン洪水:国土の3分の1が水没
バングラデシュの沿岸部にある避難所
バングラデシュの沿岸部にある避難所(この建物は平時には学校として使われている)
(出典: 大山剛弘撮影)

海外の災害が日本にも影響を及ぼしている

海外で発生した災害により、日本にも影響が及ぶこともあります。2011年に発生したタイ国チャオプラヤ川の洪水は、自動車、精密機械や化学産業など立地企業の6割以上を日系企業が占める工業団地に被害をもたらしました。この洪水によって、多くの日系企業の工場が操業停止になり、また、生産に必要な図面や金型等の資材が水没し、代わりの生産や調達に時間を要するなど、大きな損失を受けることとなりました。

食料に関しても、世界的な気候変動による被害が、日本にも影響を及ぼします。気温の上昇は、主要穀物(小麦、大豆、トウモロコシ、コメ)など国際的に取引される作物の収量の減少や不安定化を引き起こす可能性があり、そうなると、国際市場への供給量の低下や価格の上昇をもたらすこととなります。

タイの洪水により被害を受けた工業団地および日系企業数
タイの洪水により被害を受けた工業団地および日系企業数
(出典:タイの洪水について(国土交通省資料)

途上国と先進国の関係

このような被害に対して特に被害を受けやすいのはどのような国々でしょうか。

気候変動に対して脆弱な国は途上国に多い

先に示したように、アメリカなど先進国でも気象災害が起こっていますが、それ以上に途上国の方が、気候変動に対して脆弱であると言えます。
世界的にも、開発途上の地域は、気候変動に対し脆弱性が高いと言われており、例えば、西アフリカ、中央アフリカ、東アフリカ、南アジア、中南米、小島嶼開発途上国、北極域などがそれに該当します。

先進国の責務、支援の必要性

このような状況の中、先進国の責務として、途上国への支援の必要性が指摘されています。この点、国際的な枠組みにおいても、先進国による途上国支援が定められており、1992年の地球サミットで、先進国の義務として途上国への資金供与、技術移転、及び能力開発などが定められ、2009年の第15回気候変動枠組条約締約国会議(COP15)では、2020年までに先進国全体で官民合わせて1000億ドルを拠出するとの目標も定められています。また、2022年のCOP27では、気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国を支援するため、新たに基金を設置し、さらなる資金支援組織を確立するという合意に至りました。

本項では、世界における気候変動の影響とともに、そのような影響に対して途上国と先進国がどのような関係で対応していけば良いか、さらに、日本への影響と取組などについて学んでいきます。

世界における気候変動の影響

IPCC第6次評価報告書が示すように、世界全体において、生態系、人間システムいずれについても、多くの場所や分野で気候変動の影響が観測されています。生態系については、「生態系の構造の変化」「種の生息域の移動」「時期の変化」の全てで影響の確信度が高いとされていて、人間システムについては、特に「健康と福祉への影響」や「都市、居住地、インフラへの影響」の確信度が高くなっていることが分かります。

生態系において観測された気候変動影響
生態系において観測された気候変動影響
人間システムにおいて観測された気候変動影響
人間システムにおいて観測された気候変動影響
(出典:AR6 第2作業部会 『気候変動 - 影響・適応・脆弱性』「政策決定者向け要約」

途上国と先進国の関係

気候変動に対して脆弱な国は途上国に多い

途上国は、先進国と比較して気候変動に対し脆弱であると言われています。例えば、西アフリカ、中央アフリカ、東アフリカ、南アジア、中南米、小島嶼開発途上国、北極域などが脆弱性の高い地域に該当します。

そういった地域の中でも、特にサハラ以南のアフリカや東アジア・太平洋地域などにおける多くの人が、異常気象による被害などにより、故郷を追われ、他の地域への避難を強いられています。このような人々は「気候難民」と呼ばれることがあります。これは、強制移動を引き起こすだけでなく、人口密度の増加によりすでに避難を強いられている人々の生活環境を悪化させ、また故郷への帰還を妨げることもあります。

先進国の責務、支援の必要性(COP27を踏まえて)

このように途上国は気候変動に対して脆弱である一方で、気候変動の原因となる温室効果ガスの多くは先進国が排出してきたものです。気候変動への責任は世界各国共通であるものの、先進国と途上国とでは寄与度や対処する能力が異なるため、国によって責任に差異をつけるという考え方があり、「共通だが差異ある責任」と呼ばれています。

途上国で起こっているような、適応しきれない気候変動影響への対応は「ロス&ダメージ(損失と損害)」と呼ばれ、サイクロン、干ばつ、熱波など異常気象などで急激に起こる変化と、海面上昇、砂漠化、氷河後退、土地劣化、海洋酸性化、塩害などゆっくりと起こる変化の両方があります。途上国は、このような「ロス&ダメージ」に対する実質的な制度や新たな基金の設置を長年にわたって強く求めてきました。

2022年にエジプトで開催されたCOP27では、「ロス&ダメージ」に対する資金支援について正式な議題として議論されました。これまでにも緑の気候基金などさまざまな関連する基金がありましたが、気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国の「ロス&ダメージ」への対応を支援するため、COP27で「ロス&ダメージ」専用の基金を設置し、さらに新たな資金支援組織を確立するという合意に至りました。

日本への影響と取組

先進国の責務として途上国への支援が必要であるとともに、海外における工業生産や食料需給などを通じて海外で生じる気候変動が日本にも影響を及ぼすこともあり、日本は多くの途上国に対して、気候変動対策を実施できるよう積極的に支援しています。

2015年パリで開催されたCOP21(首脳会合)では、当時の安倍総理より、世界の気候変動対策進展のための貢献パッケージとしてACE2.0を発表し、2020年に気候変動分野における1兆3000億円の途上国支援の実施を表明しました。2009年のCOP15で定められた先進国全体での1000億ドル目標の実現に道筋をつけ、合意妥結を大きく後押ししました。また、2021年G7コーンウォール・サミットにおいては、当時の菅総理より、2021年から2025年までの5年間において、官民合わせて6.5兆円相当の気候変動に関する支援を実施することとし、気候変動の影響に脆弱な国に対する、適応分野の支援を強化していくことを表明しました。さらに、2021年世界リーダーズ・サミットにおいて、岸田総理は、適応分野の支援を倍増し、5年間で官民合わせて1.6兆円相当の適応支援を実施していくことを表明しました。

また、このような資金的支援とともに、途上国に対するさまざまなプロジェクトを通じて、技術移転や能力開発などにも積極的に取り組んでいます。

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