COP30 気候変動適応特集
COP30閉幕 実行フェーズへの重要な一歩、しかし道のりはまだ長い
ブラジル・ベレンで開催されたCOP30は、交渉が1日延長されるなど緊迫した状況の中で閉幕しました。パリ協定採択から10年となる節目の会合では、国際社会が「交渉中心」から「実施中心」へ移行できるかが問われ、その象徴として「グローバル・ムチラオ決定」が採択されました。ムチラオ(Mutirão)は、ブラジルの公用語(ポルトガル語)で「協働・共同作業」を意味します。各国が協働し、気候行動の実装を加速する姿勢が示された一方で、実施能力や資金確保など、依然として大きな課題も残されています。
今回のCOP30は「適応COP」とも一部で呼ばれるほど、開催前から適応分野に注目が集まっていました。特に中心的な議題となった「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation:GGA)」では、その進捗を測る指標がどのように定められ、採択されるかが焦点となりました。最終的に、59個の指標が採択されましたが、決定プロセスや運用方法、実装体制に対して懸念を示す国や交渉グループも多く、引き続き課題が残る結果となりました。これらの論点について、今後2年間にわたり技術的・制度的な議論を継続する場として、「適応に関するベレンーアディスビジョン」が新たに設置されました。
交渉の現場では、先進国と途上国の意見の隔たりが特に大きく、公的資金の扱いや民間資金の位置付けをめぐる意見の相違から、深夜まで議論が続く日もありました。指標の文言のわずかな表現が各国・地域の立場に直結するため、交渉を一時中断して、廊下や議場の片隅で交渉官同士がハドル(円陣)を組んで迅速に方針をすり合わせ、その後すぐに議場に戻って交渉を再開する場面も見られるなど、終始緊張感の高い状況が続きました。
「グローバル・ムチラオ決定」の注目点は、資金と実施強化です。適応資金の「3倍増努力」や新規合同数値目標(NCQG)のフォローアップが明記され、パリ協定9条に関する2年間の作業計画も開始されました。しかし、最大の課題である「必要な資金が実際に確保できるのか」という点については、依然として不透明な部分が残っています。その一方で、森林保全を支える新たな投資ベースの仕組みである「Tropical Forests Forever Facility(TFFF)」が発表されたことは、適応とレジリエンス強化に向けた具体的な進展としても高く評価されています。
また、実施強化に向けて「Global Implementation Accelerator」や「ベレン技術実施プログラム(TIP)」などの新たな枠組みが創設され、緩和や技術移転、公正な移行といった分野でも、実装フェーズに向けた基盤整備が進みました。しかし、これらの取り組みが実際の適応強化につながるかどうかは、各国の政治的意思と資金動員の実効性に大きく左右されます。
ベンチスペースにもアマゾン地域をイメージさせる植生が施され、緊張の続く交渉の合間などに少し落ち着けるようになっています。
公益財団法人 地球環境戦略研究機関 研究員 撮影
日本は1.5℃目標達成に向けたNDCやJCMの取り組み、民間企業の活動に関してジャパンパビリオンで積極的な発信を行いましたが、適応の実施加速については日本自身にも対応が求められています。今回のCOP30が示したのは、あくまで「実装への入口」にすぎません。次期NDC、多様な資金動員、実施能力強化などバランスの取れた前進が期待されます。国際交渉に係わる者だけでなく、地域社会、民間セクター、市民それぞれの行動が、今後の適応とレジリエンスを左右することになるといえます。