COP28 気候変動適応特集! COP28 気候変動適応特集!

COPと適応の歩み

COPとは、Conference of Parties(締約国会議)の略で、気候変動問題の文脈でCOPといえば国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議のことを指します。1997年第3回目の会議(COP3)で採択された京都議定書では2020年までの目標が定められ、2015年第21回の会議(COP21)では、2020年以降の取り組みを決めるパリ協定が採択され、ほぼ毎年その実現のために取り組みの進捗確認や必要に応じた見直しが行われています。

当初は締結国の国際会議でしたが、気候変動の取り組みに全てのステークホルダーを巻き込む重要性から、近年は地方自治体やNGO、民間企業などの非国家アクターの参加も促され、活発な参加が見られるようになりました。

適応に関しては、パリ協定7条において、「適応に関する世界全体の目標」(Global Goal on Adaptation、通称GGA)が、世界で目指すべき適応の目標として定められました。 2021年イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26では、このGGAについてさらに議論していく必要性が確認され、2022年のCOP27に向けて「GGAに関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画、通称GlaSS」が発足し、2ヵ年計画でGGAの議論を前に進めていくことが決まりました。今年のCOP 28 では、COP27で議論した枠組みを確定し、採択を目指しています。

パリ協定7条1項

締約国は、第2条に定める気温に関する目標の文脈において、持続可能な開発に貢献し、及び適応に関する適当な対応を確保するため、この協定により、気候変動への適応に関する能力の向上並びに気候変動に対する強靱性の強化及びぜい弱性の減少という適応に関する世界全体の目標を定める

⇒ より詳しくは:「ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編:Q8. 適応に関する世界全体のとりきめはあるのでしょうか?」へGo!

適応分野に関連したCOP28注目ポイント

これまでの進捗を評価する第1回グローバル・ストックテイク

今年のCOP28では、第1回グローバル・ストックテイク(Global Stocktake、GSTとも表記される)が最終局面を迎えます。グローバル・ストックテイクとは、気候変動に対する世界各国の対応を5年ごとに評価するシステムのことで、パリ協定で定められました。第1回グローバル・ストックテイク自体はすでに始まっており、これまで気候変動に対する世界の取組みについて、多様な情報源から1,600以上の文書を抽出し、科学者や政府だけでなく、都市、企業、農民、先住民、市民社会も巻き込んだ協議が重ねられてきました。今年9月には、これまでの調査結果を報告する統合報告書も発表されています。(参考:Synthesis report by the co-facilitators on the technical dialogue

COP28ではこれまでの取組み評価について最終的な議論へと移り、ここで得られた成果をもとに、各国の定める自国の貢献(Nationally Determined Contribution、通称NDC)の更新に活用されます。

グラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画(GlaSS)における適応のモニタリング手法の確立

COP28では、パリ協定で設定された適応に関する世界目標(GGA)を達成するための枠組みの承認を目指しています。その中でも、COP26で設置された「GGAに関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画(GlaSS)」では、GGAの達成に向けた進捗状況を評価・モニタリングする方法論、測定基準、指標、データソースなどに関する共通の枠組みの確立を目指しています。

有効な適応策を実施していくためには、施策を実施すると同時に、定期的なモニタリングと評価をして改善を続けていくことが重要です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書である第6次評価報告書(AR6)では、適応策を実施してもうまくいかない不適応(Maladaptation)が世界各地で報告されています。定期的なモニタリングと評価の枠組みを決めることは、こうした不具合を改善し、世界の適応を前進させる非常に重要なステップです。(関連リンク:IPCC 第2作業部会 第6次評価報告書 特集ページ

損害と損失(Loss&Damage)のための基金の設立の進展は?

COP27では、これまで先進国と途上国間の溝が埋まらずに決定が先延ばしされていた損害と損失のための基金の設立が決定されたことが話題になりました。気候変動の影響の大きさは、国によって深刻さが大きく異なり、地理的・経済的要因から気候変動に脆弱な途上国にその被害が集中しています。そのため、気候変動に脆弱な国を支援するための資金や技術的サポートの必要性が、途上国を中心に長く議論されてきており、COP27でようやく基金が設立されることが決定されました。しかし、COP27では基金を設立しようと合意されたのみで、具体的なことはまだ何も決まっていません。COP28では、この基金の運用を具体化するために、支援組織の立ち上げや資金源などの詳細を決めていくことが求められています。

期待される民間企業の貢献

近年のCOPでは、各国の交渉団だけではなく、非国家アクターの積極的な参加も見られます。日本からも、気候変動へのソリューションを提供する製品やサービスを提供する企業が出展を予定しています。

  • 大学の研究室で思い描いた研究の社会実装 —SPACECOOL末光さんと熱を光に変える放射冷却素材

COP28のスケジュール

COP28は、12月1日〜12月2日の世界首脳会議からスタートし、政府各国の交渉と同時に、様々な展示やセミナーなどが12月12日まで開催されます。各日にそれぞれ気候変動に取り組むために重要なテーマが設定されており、そのテーマにちなんだ発表やイベントなどが多くなります。

各イベントデーの右端の+を押すと、詳細が見られます。

世界気候サミットでは、各国の首脳や市民社会のリーダーたちが、気候変動へのアクションを加速させるための計画や行動について具体的に話し合います。例年ではこれまでの活動を振り返り、気候にレジリエントな未来へ向けた主要な声明や計画が発表されることが多く、ここから約2週間にわたる会期中の交渉の方向性が指し示されます。

今回のテーマデーで初めて、この2つのテーマが盛り込まれました。
気候変動は人々の健康にあらゆる側面から影響を及ぼしています。今年は世界各地で夏の最高気温が更新され、多くの人が健康被害を受けました。またある研究では、気候変動が感染症の半分以上を悪化させるという予測もあります。COP28では、気候変動に対応する保健システムの優先行動に関する合意形成と、その実施に向けた資金拠出の約束を目的とした、初の保健デーと気候保健大臣会合が開催されます。
また平和というテーマは、今回中東で開催されるCOP28で初めて取り上げられることが決まり、非常に注目されています。気候変動の及ぼす影響は、紛争の勃発や激化の要因になり得ます。今回の開催地ドバイの位置する中東は、気候変動による水供給の不安定さに課題を抱える地域が多く、我々の生活に欠かせない水を巡って起こる水紛争のリスクが高い地域です。この日は、紛争の抑止や戦争からの復興に必要な気候変動ファイナンス、損害と損失、適応の加速などについて焦点が当てられる予定です。

依然として不足している気候変動資金を、必要とされる規模に拡大するため、COP28は、具体的な取り決めやビジョンを提示することを目指しています。11月に公表されたUNEPの報告書Adaptation Gap Report 2023では、開発途上国の適応資金ニーズは、国際的な公的資金フローの10〜18倍であることが報告されています。
民間セクターにとっては、気候変動によるサプライチェーンへの影響や、新たな市場開拓のチャンスなど、気候変動と付き合っていかなくてはならない将来へ向けた持続的な経済成長を考慮する必要もあります。この日の目標には、持続可能な貿易による経済成長、ジェンダーの文脈における公正な資金の移行や、ネット・ゼロへの整合性の高い説明責任と承認システムなどについて焦点が当たります。

この日は、全ての産業全体において脱炭素を実現するために必要な代替エネルギーへの公正な移行に焦点が当たります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発行した科学的な知見を集約した第6次評価報告書(AR6)によると、地球温暖化を1.5度に抑えるという世界の目標を実現するために、消費できる残りの二酸化炭素の消費量は、今のままの排出ペースだと10年以内に使い切ってしまうだろうと予測されています。ネット・ゼロを達成するには、民間セクターが非常に重要な役割を担っており、経済機会と雇用の成長を加速させながら、いかに脱炭素化を進めるのかが課題となっています。
また、この日は「持続可能な冷房」に特別な焦点を当てられることも注目されています。Sustainable Energy for All (SEforALL)の報告書によると、約25億人が気候に優しい冷却ソリューションを利用できておらず、10億人以上の人々は、冷房が利用できないために猛暑の危険にさらされているとされています。COP28の議長国であるアラブ首長国連邦は、世界が温暖化するにつれ、ますます欠かせないものとなる冷房を大きく取り上げることを発表し、環境負荷の低い冷房への移行を誓約するGlobal Cooling Pledgeを発表しました。
またこの日は先住民の日でもあり、気候変動対策における先住民の知識、実践、リーダーシップの重要性を認識するとともに、彼らの資金への直接アクセスを改善するメカニズムを強化することにも焦点が当てられます。

締結国間の交渉という印象が強かったCOPも、今では多様な非国家アクターを含む大きな会議に発展しました。COP28では、市長、知事、議会議員、企業、市民社会のリーダーを含む地元の指導者が歴史的な規模で参加し、政府や社会のあらゆるレベルで気候変動対策が議論されます。注目は12月1日- 2日、COP史上初めての試みである、国家レベルではない地域のリーダーたちが集う地域気候⾏動サミットです。この公式サミットで議論された内容を踏まえ、6日のテーマデーでは世界の都市や地域コミュニティにおける気候変動対策がさらに具体化されることが期待されています。

この日は、COP28とその先の成果を形成するために若者の力を高めることを目指します。気候変動の影響は全ての人が等しく受けるものではなく、特に子どもや若者に与えるリスクや影響が不均衡に高いとされています。多くの若者たちが、これから自分たちの生きていく地球の環境に不安を感じており、最悪のケースの一つでは、自然災害による家計の急変で教育機会を失ってしまったり、人身売買のリスクにさらされたりする児童が増えていることが報告されています。気候変動によってこの日は、これからの社会を担う若者たちに必要な気候変動教育やグリーンスキルについて検討し、世代間のギャップを小さくした持続可能な社会を形成していくための議論に焦点が当てられます。

この日は、土地利用と海洋システムの転換を図り、自然生態系の保護や効果的な管理、地域の自然と共生するコミュニティの持続可能な開発に焦点が当てられます。気候変動は、種の絶滅や生息・生育域の移動、減少、消滅などを引き起こしています。例えば、気温上昇や融雪時期の早期化により、高山帯では植生の衰退や分布の変化がすでに報告されています。また今年は、海水温が史上最高記録を更新したことも話題になりました。
気候変動の生態系サービスに与える影響は人々の暮らしにもすでに及んでおり、漁業で生計を立てている世界の地域コミュニティでは、近年漁獲量や獲れる海産物の種類や品質に変動が生じるなどの課題に直面しているため、気候変動への適応がより切実に求められています。ある研究では、自然が年間125兆ドル以上の価値のある生態系サービスを提供していることを明らかにし、また、私たちが自然を破壊することによって、世界のGDPの1.6%に相当する推定1.4兆ドルの経済損失が毎年生じていると試算されています。
気候変動に強い未来を実現していくために、自然損失を食い止め、回復させるための明確な枠組みや新たな資金について議論が具体化することが期待されています。

気候変動は、私たちの生活を支える農業・食料・水システムに深刻なリスクをもたらしています。2050年までに世界の人口は100億人に達すると試算されています。しかし、高まる食糧需要に対して、気候変動の影響に最も脆弱な部門の一つである農業部門では、気温上昇・大雨・干ばつなどから農作物の質や生産量が低下し、深刻な食糧難に直面している地域や家計が悪化している農家が増えています。また、農業は必要な水の量の多さも大きな課題になっており、驚くべきことに世界で消費される淡水の70%は農業生産に使用されています。
気候変動で水供給が不安視される中、環境負荷が低く、気候変動に適応した農業改革を進め、水供給の安定を図るため、この日は農業に関わるイノベーション、資金調達メカニズム、淡水の回復と保全、都市の水回復力のためのインフラ、水と食糧システムの統合的なガバナンスなどが議論されます。

JAPANパビリオンにて、国立環境研究所(NIES)が、環境省(MOEJ)、地球環境戦略研究機関(IGES)、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と共同でセミナーを開催します。今年のセミナーのテーマは、「科学的知見を土台にした気候変動適応に役立つツールとシナジー」です。気候変動適応センターのAP-PLATで提供しているClimoCastの使い方がわかるデモンストレーションや、ESCAPの提供するアジア太平洋地域の自然災害のリスクと経済的損失などがわかるRisk and Resilience Portalの利活用に関するレクチャーが行われます。パネルディスカッションでは、複数の国や国際機関のゲストを招き、気候変動のリスク評価に使われるツールに求められていることや、さらなる発展の可能性について議論されます。

当日COP28の会場にて現地参加、オンライン参加どちらも可能です。ご参加お待ちしています。
(セミナー詳細とオンライン登録はこちら

(最終更新日:2023年11月14日)

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