結果概要 |
 COP30 気候変動適応特集

適応関連の交渉結果③ 適応資金

「適応資金3倍増」の合意と、革新的な資金メカニズム「TFFF」の創設

気候資金をめぐる議論は、COP30全体の焦点となりました。特に適応分野においては、2025年以降の支援のあり方を方向づける「適応資金の3倍増」が、カバー決定である「グローバル・ムチラオ決定1」に盛り込まれました。また交渉外の動向として、熱帯林保全を目的とする「トロピカル・フォーレスト・フォエバー基金(TFFF)」が正式にローンチされるなど、資金調達の多様化に向けた新たな動きも見られました。

「適応資金3倍増」目標:合意の背景と実効性への課題

成果文書「グローバル・ムチラオ決定」には、先進国に対し、途上国の適応支援のための公的資金を2030年までに2019年比で少なくとも3倍に増額することを求める一文が盛り込まれました。これは、2021年のCOP26(グラスゴー)で合意された「2025年までの倍増」という目標をさらに上書きすることを強く求めてきた途上国側の主張を反映したものです。
しかし、この決定は諸手を挙げての合意とは言い難い側面を持っています。多くの先進国は、COP29で合意した新規合同数値目標(NCQG)において緩和や適応といった分野ごとの目標額が定められていない中、適応分野のみで突出した具体的な数値目標を設定することに対し、最後まで慎重な姿勢を崩していませんでした。結果として「3倍増」の採択にあたっては「NCQGの文脈において」という条件が付与されました。これには、先進国からの直接的な資金提供だけでなく、途上国による資金貢献(南南協力)や多国間開発銀行(MDBs)への拠出など、多角的な資金源が含まれるという意味合いがあります。今後は、この目標に対し、複雑化する資金フローをいかに透明性高く報告・検証していくかが、極めて冷静な視点で問われることになります。

トロピカル・フォーレスト・フォエバー基金(TFFF)の創設

一方、議長国ブラジルが主導する「ネイチャーCOP」の象徴的な成果として、交渉枠組みの外で大きな注目を集めたのが、熱帯林の維持を経済的に価値化する革新的な新基金「TFFF」の設立です。本基金は、従来のREDD+などの排出削減量(炭素)に着目した制度とは一線を画し、衛星モニタリング等で確認された「保全・維持されている森林面積」に対して報酬を支払う、これまでにない成果主義型の金融メカニズムです。
具体的な運用スキームとしては、公的・民間資金を組み合わせた「ブレンデッド・ファイナンス」により1,250億ドルの元本確保を目指し、世界銀行等が管理する投資基金において低リスク資産を中心に運用します。この運用の主眼は、市場変動に左右されず元本を長期的に保全することにあり、そこから生み出される安定的な運用益(利子・配当等)のみを原資として、年間森林減少率0.5%未満という厳格な基準を満たす熱帯林国に対し、1ヘクタールあたり定額(4ドル想定)の報酬を配分する仕組みとなっています。COP30終了時点で日本を含む64か国が本宣言に賛同していますが、今後は目標額に向けた官民からの資金動員をいかに実現できるかが、その成否を握る鍵となります。

多角的な資金動員と透明性の確保

適応資金をめぐる議論は、もはや公的資金の増額のみでは対応しきれない局面に入りつつあります。今回示された「3倍増」という高い目標を達成するためには、従来の二国間・多国間支援を継続するだけでなく、TFFFのような革新的な金融メカニズムの活用や、民間セクターによる投資をいかに効果的に誘発できるかが、資金動領の構造的課題を解決する主要な手段として位置づけられます。
同時に、COP30で採択された「ベレン適応指標」のうち、資金に関する指標を通じて適応資金のフローをいかに客観的、かつ透明性を担保しながら評価していくかが、今後の適応資金に関する実務的な議論の焦点となるでしょう。

(掲載日:2025年12月25日)