COP30 気候変動適応特集
COP30で見えた日本の気象技術による国際貢献:
AI予測と官民連携でアジアのレジリエンスを共に築く
株式会社ウェザーニューズ1
執行役員 安部 大介 氏 /
陸上気象チームリーダー 菅谷 公成 氏
COP特集記事の締めくくりとして、民間企業の視点からの声をお届けします。今回は世界最大級の民間気象情報会社、ウェザーニューズ。COP30ではジャパンパビリオンで開催された「強靭なサプライチェーンの実現に向けた早期警戒システム」セミナーにも登壇され、独自の技術を用いた世界のレジリエンス強化への貢献について発信されました。COP30に参加された印象や現地で得た手応え、気象情報の力で切り拓く将来のビジョンについて詳しくお話を伺いました。
1. COP30の熱気と「適応」への期待感
―COP30に参加されて、会場の雰囲気や他国関係者とのやり取りで印象に残ったことはありますか。
安部氏:まず各国との連携が一段と深まり、気象サービスを「共に創る」フェーズに入ったと強く実感しました。例えば、タイ環境省の方とはパネルディスカッションで同席し、翌週にひかえていたMOU締結について話す機会もあるなど、対面ならではの機会も得られました。2点目は、全体の雰囲気として、適応への期待が大きいと様々な面で感じたことです。日本の外務省気候変動課の方に、ネパールの気候変動交渉官の方を紹介いただき、ネパールにおける気象サービスに関するニーズ等を聞かせていただいたり、我々ができることについて意見交換をさせていただきました。各国において、緩和策だけでなく、適応策に対する関心が高まってきていることを実感できたことは、非常に有意義でした。
菅谷氏:タイの熱心さが特に印象的でした。会場に入って最初のパビリオンがタイであり、1.5℃目標への調和も含め非常に活発でした。そのタイの方からセミナー等で弊社を紹介いただけたことは誇らしく思います。また、ブラジルの最大手のエネルギー会社の方もセッションに参加され、会場でお声がけいただき、我々の海外展開に関する取り組みについて詳細をお伝えできたことは大変有益でした。さらに、石原宏高大臣や高橋美佐子大使のステートメントでも、日本の適応・防災技術を世界に輸出して貢献していく方針が示されており、我々民間企業もその一翼を担うべく、身が引き締まる思いです。
2. 気象業界のパラダイムシフト:物理モデルからAI予測へ
安部氏:過去5年ほどでAIの技術革新が一気に進み、気象業界では歴史的な技術転換が起きています。主な事例は、従来のスーパーコンピューターによる物理モデルから、AIを用いた気象予測への移行です。特にAIによる台風予測の精度向上は目覚ましく、COP30でも台湾の気象局やタイの環境省からも非常に高い関心が寄せられました。また、地域ごとに切実な課題が異なる点も印象的でした。タイでは洪水への関心が極めて高い一方、ブラジルではアマゾン川における干ばつによる通航困難が深刻な課題となっています。こうした課題対応へのニーズに対し、現在はプライベートセクター(民間)がAI技術で先行している状況です。パブリックセクターが民間から学び、技術を補完し合うという新しい構造の中で、我々がその橋渡し役を担える可能性を感じています。
菅谷氏:Googleの洪水や台風予測を扱うチームとも予測技術の共同開発も進めており、その技術をアジア諸国に対して移転することで貢献していく流れを目指しています。
3. 実効性のある「早期警戒システム(EWS)」の構築に向けて
―今後の国際展開において、どのような連携や課題が見えてきましたか。
安部氏: 台湾政府とはCOP30での対話を機に公式な連携へと踏み出す弾みがつきました。また、タイ環境省気候変動環境局とのMOU締結にも至りました 。タイではA-PLATのような情報プラットフォームの構築が計画されており、我々の過去のデータや洪水予測技術の提供が期待されています。
一方、国際展開を進める上での共通課題も明確になってきました。最大のポイントは、観測データの入手環境の違いと、各国事情に即したローカライズの難しさです。
開発途上国では、気象レーダーのノイズ除去など技術的な制約に加え、観測データの国外持ち出し制限といった制度的な障壁が存在します。そのため、日本と同じ前提条件でシステムを導入することは現実的ではありません。各国の観測体制や制度に応じて、工程や技術構成を最適化していく必要があります。
菅谷氏: 我々は、COPのジャパンパビリオンの枠において、4年連続してセミナーに登壇しておりますが、一貫して伝えているのは「官民の明確な役割分担、気象に関するデータをオープンにするなど官民連携の重要性」です。COP30では、国際電気通信連合(ITU)がセッションを開催され、早期警戒システム(EWS2)とラストワンマイルへいかに情報を届けるか等も扱っておられました。日本国内において最も多くの注意報や警報を市民に届けてきたのは我々であると自負しておりますので、今後、そうしたセッションでの貢献なども我々が協力できる点だと考えています。
4. 未来へのビジョン:持続可能な適応のエコシステム
―最後に、今後の展望についてお聞かせください。
安部氏:COP30での対話を通じ、日本のリアルタイム降雨情報やナウキャストなどの気象防災技術が、各国から強く求められていることを再確認しました。重要なのは、単に技術を移転するのではなく、現地で「使い続けられる」形に落とし込むことです。
そのためには、日本のアメダスのように高品質な観測網をそのまま海外に持ち込むのではなく、各国の予算規模や維持管理能力を踏まえた現実的な設計が必要になります。日本型のアメダス体制は、国がすべてを厳格に管理することで高い品質を維持していますが、これをアジア諸国で同じ形で再現しようとすると、コストや運用面で大きなミスマッチが生じがちです。そこで、国が維持すべき基準となる観測拠点はしっかり確保しつつ、それを補完する形で、比較的安価なIoTセンサーをネットワーク化し、面的に観測するという考え方が重要になります。個々のセンサーの精度に多少のばらつきがあったとしても、基準点となる高品質な観測データと組み合わせることで、全体としては実用性の高い、高解像度なデータを得ることは十分に可能です。
菅谷氏:「誰がメンテナンス費を負担し、どう利益を還元するのか」というエコシステムまでをトータルで設計し、現地の方々が自分たちのものとして使い続けられる仕組みを構築する。そこまで踏み込んでこそ、日本の技術は真に世界のあらゆる場面で活用されるものになると確信しています。気象情報は、農業、エネルギー、防災など、あらゆる分野の適応策の基盤となります。日本で培われた「ラストワンマイル」まで気象情報を届けてきた経験を活かし、アジアをはじめとする世界各国のパートナーと共に、強靭な社会の構築に貢献していくことを目指します。各国の政府、民間企業、そして研究機関の皆様と、このビジョンを共有し、連携を深めていければ幸いです。
取材日:2026年1月27日
画像提供:株式会社ウェザーニューズ 菅谷 公成
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