各セクターから見たCOP30気候変動適応分野の調査報告 |
 COP30 気候変動適応特集

グローバル・ムチラオ決定の実施に向けて:
GCFが描く適応資金のこれから

緑の気候基金(GCF) 水資源管理シニア・スペシャリスト Dr. Bapon Fakhruddin

A-PLATでは、COP特集記事の締めくくりとして、COPに参加した様々なステークホルダーの皆様から現地の印象をお伺いしています。今回は、気候変動対策に特化した世界最大の基金である緑の気候基金(GCF)が、COP30のカバー決定である「グローバル・ムチラオ(Global Mutirão)」決定をどのように実施していく予定であるかを探ります。具体的には、適応資金の拡大、新たなカントリー・プラットフォーム、そしてGGA指標との調和に焦点を当てます。

「3倍増」目標と適応資金の今後

―COP30は、「2035年までに適応資金を3倍に増やす」という決定を採択1しました。GCFは現在、贈与相当額ベースで世界最大の気候基金ですが、この新たな野心的な決定に対応するため、どのように適応ポートフォリオを拡大していく計画でしょうか。

GCFは、事務局長の「50 by 30」ビジョンに基づき、支援を抜本的に拡大する明確な計画を持っています。 適応資金の3倍増を達成するため、単発の小規模プロジェクトから、農業、水、エネルギー、都市システムなど、セクター横断的にレジリエンスを統合する、プログラム型かつ体系的な投資へと戦略を転換しています。

具体例として、中央・西アジア9か国を対象とした35億米ドル規模の地域プログラム(「氷河から農地へ(Glaciers to Farms)」プログラム)や、ヨルダンにおける60億米ドル規模のヨルダン・アカバ・アンマン海水淡水化・送水プロジェクトが挙げられます。

また、資金の「質」も重要です。GCFは、「ペイシェント・キャピタル(忍耐強い資本)」や、金利0%、据置期間の延長、最長40年の投資期間といった、各国のニーズに合わせた「目的に適った(fit-for-purpose)」資金提供を目指しています。

―新規合同数値目標(NCGQ)における1.3兆米ドルの目標は「あらゆる資金源」を強調していますが、特に適応資金については、これまで、投資リスクおよび収益の認識欠如により、民間資本の呼び込みに苦労してきました。プロジェクトにおける「デリスク(リスク低減)」の考えを教えて下さい。またベレンで発表された14の新たなカントリー・プラットフォームは、「バンカブル(投資適格)でない」レジリエンス・プロジェクトへの投資機会へと転換する助けとなるのでしょうか?

リスク低減(デリスク)は、エコシステム全体でのアプローチが必要です。GCFでは政策・規制リスク、物理的・移行リスク、金融リスクという3つの視点(レンズ)を通してリスクを捉えています。

COP30において、新たに14か国カントリー・プラットフォームがその立ち上げを発表しました。カントリー・プラットフォームは、これまで断片化(サイロ化)していた調整メカニズムを統合し、ドナーと国内の取組を一致させる役割を果たします。この仕組みにより、大規模で投資適格な適応案件のパイプライン形成が可能になります。例えば、南アフリカにおいては、排水処理施設への民間資本動員に成功しました。カントリー・プラットフォームを通じて政策枠組みを整え、GCFが部分的な保証などを提供することで、これまで「投資不適格(ノン・バンカブル)」だったプロジェクトを、持続可能な投資機会へと変貌させることができるのです。

プロジェクトのインパクトと、レジリエンスの「ソフト」な側面

―プログラム型かつ体系的なプロジェクト設計への移行と、挙げられた事例に伴い、GCFは「ハード」な物理的インフラに加え、「ソフト」なシステム的レジリエンス(コミュニティのシステム、意思決定の権限移譲など)を対象に含めています。こうした「ソフト」なレジリエンスは測定が困難です。GCFは、ハード・インフラと比較して、コミュニティ主導プロジェクトの資産価値(アセットバリュー)をどのように測定しているのでしょうか?

ハードとソフトの両面が必要不可欠です。COP30で立ち上げられた「地域主導型適応アクション(LLCA)フレームワーク」は、コミュニティ主導の適応へのコミットメントを強化するものです。

COP30でのLLCAフレームワーク立ち上げイベントの様子
(出典:GCF公式LinkedIn

その一例が、カンボジアにおいてアジアインフラ投資銀行(AIIB)およびIFAD(国際農業開発基金)と共同で実施している、2億4,000万米ドル規模のCAISARプロジェクトです。このプロジェクトでは、「階層別のファイナンス・モデル(tiered financing model)」を通じて気候変動農業を支援しています。本モデルでは、極めて脆弱な農家は贈与を受け、中小企業(SMEs)は譲許的な(好条件の)投資を利用できる仕組みになっています。このアプローチは食料安全保障を強化し、国のGDP成長にも寄与します。

GCFは「ソフト」な介入(コミュニティのエンパワーメント、サービスの強化)の価値を測定するための標準的な指標を使用しています。これらの指標は、説明責任を果たし、確実なインパクトをもたらすために、プロジェクトのライフサイクルを通じて追跡・管理されています。

多国間気候基金・共同成果報告書

―ベレンでのCOP30において、GCFは、気候投資基金(CIF)、地球環境ファシリティ(GEF)、および適応基金(AF)と共同で、初の「多国間気候基金・共同成果報告書(Multilateral Climate Funds Joint Results Report)」を発刊しました。この連携は、途上国における事務負担をどのように軽減すると期待されているのでしょうか?

COP30において、4つの主要な気候基金(GCF, CIF, GEF, AF)が共同で発表した「多国間気候基金・共同成果報告書」は、気候資金に関する報告の調和に向けた重要な一歩となります。この報告書は、方法論と指標を整合させることで、途上国の事務負担を軽減し、より一貫性のある報告を可能にするものです。

―GCFはこの10年間で2億4,900万人の受益者を報告しています。複数の基金によってプロジェクトが協調投資されている場合、「共有された」指標が二重計上につながらないよう、どのように確保しているのでしょうか?

二重計上を防ぐため、我々は調和された定義、標準的な方法論、および手作業によるデータ検証を用いた保守的なアプローチを採用しました。共有された指標は、協調投資(コ・ファイナンス)プロジェクト間で比例配分され、透明性とデータの完全性を確保しています。

適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation, GGA)

―COP30ではついに、GGAに向けた59の指標が採択2されました。この決定は、GCFの報告システムにどのような影響を与えるのでしょうか?GCFの指標を新たなUNFCCCの指標と整合させていくのでしょうか?

GCF事務局は、COP30で決定したGGA指標の下で行われた協議を注視し、そのプロセスに貢献してきました。その際、IRMF(統合的結果管理枠組み)とその指標を通じたプロジェクト・モニタリングから得られた、基金としての経験や教訓を共有しています。

さらに、CMA(パリ協定締約国会合)は、GGAの実施を支援するようGCFに対して指針を提供しており、COP30の決定においてもこの点が再確認されました。加えて、GGAとの整合性を図るにあたり、NAP策定やMEL(モニタリング・評価・学習)システム構築のためのレディネス支援を活用することが、GCFに対して求められています。

国別適応計画(NAPs)とグローバル実施アクセラレータ

―COP30は、NAPの実施を加速させるためにグローバル実施アクセラレータを立ち上げました。GCFは、効果的な適応は強固な国の計画策定から始まると考えています。GCFはこの新たなアクセラレータとどのように連携していくのでしょうか?また、NAPに基づくプロジェクトを対象とした「ファストトラック(迅速化)」の窓口は設けられるのでしょうか?

GCFにはすでに、独自のアクセラレーター・メカニズムが整備されています。我々は120か国以上でNAP(国別適応計画)を支援しており、そのうち約70か国が公表済み、残りは策定中です。我々が直面している課題は、国がNAPを持っていても、多くの場合「投資計画」が欠けているということです。

GCFの「レディネス資金」や「プロジェクト準備ファシリティ(PPF)」は各国のギャップを埋める助けとなります。もし新たな「グローバル実施アクセラレータ」が、質が高く、投資準備の整った計画の作成を支援できるなら、それらは我々の既存のファストトラック・システム(「簡易承認プロセス(SAP)」など)に直接接続することができます。我々は、NAPをもとに質の高い提案書が作成され、GCF、GEF、あるいはAFのリソースへ効率的にアクセスできるようになることを望んでいます。

日本へのメッセージ

―COP30を経て、GCFがこの「実施フェーズ」へと移行する中、日本のステークホルダー(政府および民間セクターの双方)に向けて、GCFとどのように連携することができるのか、メッセージをお願いします。

COP30を経て、GCFが「実施フェーズ」へと移行するにあたり、私たちは日本の長年にわたるパートナーシップと気候資金におけるリーダーシップを高く評価しています。日本との連携をさらに強化できる、3つの主要な領域を以下に挙げます。

  • 技術とイノベーション: 早期警戒システム、強靭なインフラ、デジタル農業に関する日本の優れた知見は、世界全体の適応への取組に大きく貢献し得るものです。
  • 民間セクターの動員: GCFは「デリスク(リスク低減)」のための手段を提供しています。これにより、日本の投資家が「ブレンド・ファイナンス」という枠組みを通じて、新興市場へ安全に参入することが可能になります。
  • 適応分野のR&D(Research and Development、研究開発)連携: 気候リスク分析、沿岸のレジリエンス、食料システムにおける共同イニシアチブは、日本の技術的リーダーシップから大きな利益を得ることができるでしょう。

2026年におけるGCFの運営方針の転換(オペレーショナル・ピボット)は、「カントリー・プラットフォーム」、「地域主導型適応(LLCA)フレームワーク」、および調和された指標を柱とする「システムレベルの実施パートナーシップ」に焦点を当てます。この転換により、資金の支出(ディスバースメント)が加速され、取引コストが削減されるとともに、2035年に向けた軌道に沿って適応のインパクトを拡大させていきます。

COP30の決定を具体的なアクションへと移す「実施フェーズ」において、GCFの新たな戦略と日本の優れた技術・知見が融合することは、世界のレジリエンス(強靭性)を高める大きな原動力となります。今回のインタビューは、日本のステークホルダーが国際的な適応資金の枠組みにどのように関与し、貢献できるかを再考する貴重な機会となりました。

※注: 本インタビューにおける回答内容はDr. Bapon Fakhruddin個人の見解であり、必ずしもGCFの公式な見解を代表するものではありません。

取材日:2026年1月14日

(掲載日:2026年2月12日)