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ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編
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2018年に日本で「気候変動適応法」ができたと聞きました。そもそも気候変動適応とは何なのでしょうか?
基本的なところを教えてください。

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回答者:向井人史
向井人史
気候変動適応センター長
向井人史

気候変動適応法における気候変動は、主に人為的な地球温暖化によって起こる今後数十年~数百年の急激な気候変動を意味しています。この気候変動は自然環境ばかりでなく私たち人間の暮らしや活動に深刻な影響を与えると予想されています。気候や風土が急激に変わると、これまで当たり前だった環境が維持されなくなります。一 般に、気候変動が起こってもわたしたちの “暮らし” を可能な限り持続的なものになるように工夫すること気候変動への “適応 “と呼んでいます。私たちは、今の内からこの” 適応 “に意識的に取り組む必要があります。温室効果ガスの発生量を削減し気候変動自身を抑制することを気候変動の” 緩和 “といいますが、気候変動対策には「緩和」と「適応」の両方が必須です。

1. これまでの人類の気候への適応とこれから

気候変動というと「氷河期」などに代表されるように長い時間スケール(例えば 10 万年程度)で起こってきた過去の気候変動を想像する方が多いかもしれません。生物はその歴史の中で進化と絶滅を繰り返しながら、自然環境に適応してきたと考えられます。人間も長い時間スケールの中で誕生し、現在に至るまで地球の自然や気候・風土に「適応」しながら居住地域を広げつつ暮らしを営んできました。私たちの現在の生活様式は言わば先人が生んだ知恵としての「適応」の集積で成り立ってきたものと考えることができます。

さて、このような長い時間の中で行われてきた人類の適応と、2018年に仕組みができた気候変動適応法における気候変動適応とは、同じ言葉ですがその内容が少し異なります。事の発端は、“我々はおそらくここ数十年の間に、より暑い気候を経験することになる” と予測されていることにあります。いわゆる地球の温暖化という現象です。地球温暖化は、人間が放出した二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中濃度増加によっておこる地球全体の昇温を伴う気候の変動です。その時間スケールは氷河期などの自然的な理由で起こる気候変動とは異なり、数十年単位で起こる非常に速い変化と捉えられています。現在の私たちは今後急激に おこる “気候変動” の入り口に立っている状況にあります。しかし、ここ2000年間を考えると、人間集団としてもこれほど急激な気候変動は経験がなく、その防御のための知恵の蓄積が不足しています。そのため、今までにない早い速度の気候変動によって各種の影響が起こった場合は、私たちの生活や生存への影響はとても大きくなる可能性があります。ここでいう “適応 “とは、今後劇的に変化する気候にあわせて私たちの生活や行動、社会を自ら変化させ、安定的に暮らしを持続させる各種の活動を指しています。

2. 数十年の内起こるかもしれない気候変動の影響

それでは具体的にはどのような気候変動の影響を考えておく必要があるのでしょうか。身近なところでは最近の暑さに象徴されるように猛暑日の増加が挙げられます。夏季は常に熱中症の危険性と隣り合わせになり、野外での活動時間も制限されるかもしれません。すでに桜の開花などは早くなってきていますが、今後春夏秋冬の有り様や時期が変わってしまい、自然生態系全体が変化してしまうかもしれません。農作物の生産にも大きな影響がでるでしょう。例えば暑さによるコメや果樹などの品質の低下や病害虫の増加、水不足による穀物生産への影響などが懸念されます。

海水温度も上昇し、現存するサンゴは死滅する頻度が上がるでしょう。一般に、サンゴを含め魚など海の生物は温暖化により南から北へ移動するとされるため漁業に影響がでると言われています。ノリやワカメ生産にも影響が懸念されます。海水温が上昇すると海水の体積は増えて海水面(海面)の高さが上昇します。南極や山岳にある氷河が融解するとその分さらに海面を上昇させます。海水面上昇が起こると各地の砂浜が失われ、例えばそこに産卵に来るウミガメにも影響がでるしょう。低地や河口への海水の浸水や高潮による被害の増加も考えられます。

また、将来、気象現象の変動が大きくなる問題も指摘されています。例えば近年特に豪雨が増えて洪水や山崩れなどの災害が頻発していますが、今後はその規模が大きくなることやこれまでになかった地域や季節にも災害の発生可能性を想定しなければなりません。

現在、国はこれら気候変動の影響や適応を7つの分野(1)農林水産業 2)水環境・水資源 3)自然生態系 4)自然災害・沿 岸域 5)健康 6)産業・経済活動 7)国民生活・都市生活)として整理し、「適応策」を進めることを検討しています1-2)

3. 温暖化自体は防ぐことはできないのか?

これに対して、地球の温暖化は防げないのか?といった意見があると思います。そもそも温暖化が止まればよいと考えるのは当然です。しかし、残念ながら温暖化を完全に止めるための見通しは現在のところまだ立っていません。温暖化を止めるには、世界中で今使っている石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料の使用を止めるか、または使っても温室効果ガスを出さないようにするしかない(これらを 「緩和策」と呼んでいる)のですが、それを行うには資金や時間がかかります。もちろん、ご存じのパリ協定が2015年に採択され 2020年から世界全体が温室効果ガス削減に動きだしたことは大きな前進なのですが、しかしこれがうまく いっても日本は現状からさらに1℃程度の気温上昇を受け入れねばならない状況にあります。もし、全世界の排出削減がうまく軌道に乗らなければ、地球平均として最大 4-5℃といった大きな気温上昇が引き起こされる可能性があります。こうなると、自然界の変化が大きすぎるため、簡単には適応できない事態になると考えられます。

4. 始まりつつある適応策

農業分野について言えば、比較的早くから気候変動への対策が進展しています。例えば、コメの生産については、特に関東以西で高温による一等米の比率低下が問題となっていて、これに対して暑さや病気に強くおいしいお米の新品種が各地で作られ始めています。それらは地域のブランド米として売り出されていて、“気候変動に適応したコメ作り” の一つの形となっています。また、作物を植える時期を変えたり、肥料や日照環境などを制御したりすることも適応策の一つです。一方で、気候変動と共に農作物の適地が移動するのに合わせて、主要作物を積極的に変えるなど、気候変動を逆に利用するという適応策もあります。

「適応策」の考え方は特殊なものではなく、現在すでに行われている各種の施策が包含されています。農業施策と同様、漁業・林業施策、洪水・高潮対策、水資源の確保、下水道整備、ハザードマップの整備、熱中症予防、感染症対策、大気・水質・ 生態系の保全等、これら多くの施策が現在でも気象や気候変化の悪影響を軽減し我々の生活の質の向上を目指しています。しかし、“気候変動適応” は、言うならばこれまで “想定していなかった将来の気候変動” を大前提として、これまでの施策をもう一度考え直していく活動ということになります。現在の施策は、将来の気候変動下ではうまくいかないかもしれないからです。しかも「その時になって考えれば良い」では困ります。時間のかかる施策は今計画し実行していく必要があるのです。

一方で、適応策は1つではなく複数あり、当然 “適応” の方法やスタイルというものもいろいろです。日本全国同じということはありません。その時点で、その場所でより良い策を考えながら将来の気候に柔軟に適応していくといった観点 が必要です。たとえ現時点では洪水自体を止めることはできなくとも、長期的には堤防の補強などを計画しつつ、一方では避難方法や災害後の素早い回復方法を検討するなど今できる適応策も考えることが重要です。

また、気候変動影響には国境はないので、国際的な観点も必要です。物流や経済も国際的に繋がっている社会情勢の中でいかに気候変動に適応するかを考えなければなりません。

図1 むかしむかし、おじいさんは山にしば刈りに行きました。

5. 後悔しないために

繰り返しますが、この気候変動は先の話ではありません、数十年の内に、夏や冬の気温も、雨や雪、災害の度合い、食べ物の産地も変わっていきます。昔話の桃太郎でその状況を例えるなら、「おじいさんは山に柴刈りに行きました。このところ山も異常高温に見舞われており、そうとは知らないおじいさんは柴刈りの途中暑さで倒れてしまいました。おばあさんは、川に洗濯に行きましたが、豪雨で川が増水していて洗濯ができません。大事な桃も、、、、、、 エッ?!」というような世の中の変化に対して、私たちはどのように適応するかということです。今回できた法律は、私たちの近未来の生活や環境をより安定したものにし、お年寄りから子供まで誰しもが安心して暮らせる気候変動に適応した社会を作ることを最終目標としていると言えるでしょう。

図2 おばあさんは、川に洗濯に行きました。
さらにくわしく知りたい人のために

1)環境省「日本における気候変動による影響に関する評価報告書

2)環境省「気候変動適応計画

公開日:2020年7月31日 最終更新日:2020年7月31日

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