ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編
02

適応への取り組み義務なのですか?
法律はあるのですか?

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回答者:行木美弥
行木美弥
気候変動適応センター
副センター長
2020年7月31日現在
行木美弥

気候変動に適応する取組は、個人や企業、自治体の「義務」ではありませんが、2018年に施行された気候変動適応法により、政府が気候変動適応計画を策定すること、国立環境研究所が気候変動の影響と適応に関する情報を提供することなどを通じ、皆が協力し、気候変動への適応を推進することが定められました。
気候変動への適応とは、現在から将来の気候の変化とそれが及ぼす影響を知り、対応できるように備えることといえます。気候変動の影響は気温の上昇、農作物の品質低下、大雨や暴風による災害、熱中症など様々な形で既に現れており、残念ながら今後も影響は大きくなる見込みです。悪い影響をできるだけ抑えるため、科学的な情報をもとに、計画的に変化に備えていくことが重要です。

1. 気候変動への適応:変化に備える

気候変動への適応とは、現在既に起きている被害や将来予測される被害を、防止・軽減する取組のことです。つまり、現在から将来の気候の変化とそれが及ぼす影響について今わかっていることを知り、対応できるように備えることといえます。

近年、気候変動による影響の進行がとても速くなっており、対応していくことは容易ではありません。既に影響は様々な形で現れています。農作物の不作、熱中症の増加、湖などの水質悪化、大雨・暴風といった気象災害、魚の分布域の変化…このような広範囲の影響を評価し、戦略的に対策を進めるため、気候変動適応法では、環境大臣による定期的な影響評価や、政府による気候変動適応計画の策定が義務として盛り込まれました。

また、北と南、海側と山側、都市と農村では対応すべき気候変動の影響が違います。例えば、自然災害でも、積雪の変化が重要なところもあれば、土砂崩れ、河川の氾濫、高潮が問題となるところなど地域で状況は様々です。同じ水の氾濫でも、浸水域が住宅地の場合と、公園になっている場合でも当然影響は違います。このように地域ごとに考えなければならない気候変動の影響は異なりますし、対策の優先順位も変わります。地域の状況は地域の方が一番知っていますので、気候変動適応法では、その地域の様々な状況に応じた適応に関する施策を推進するよう努めることが、地方公共団体の責務とされました。また同じような課題を抱える地域がお互いに知恵を借りられるよう、広域的に議論をする場が作られることになりました。

気候変動適応法は、その地域の状況を考慮して、科学的 な情報をもとに、計画的に変化に備えていくことができるような枠組みを決めた法律といえます。

2. 気候変動適応法ができた背景

(1)国際的な動き

2010年12月の第16回気候変動枠組条約締約国会議(COP16)では、すべての締約国が適応策を強化するため適応委員会の設立等を含む「カンクン適応枠組み」が決定されました。2015年12月に、COP21で採択された「パリ協定」では、適応能力の拡充と強靱性の強化が目的に含められており、適応に関する行動を推進の強化や適応計画の立案などが盛り込まれています。このような国際的な動きを踏まえ、各国では適応に関する取り組みが進められています。

なお、適応について独立した法律を持つのは日本が初めてといわれています。例えばイギリスやフランスは、気候変動対策や環境政策に関する法律の中で適応を位置付けています。一方、ドイツは法律を定めず政府の計画で対応しています。

(2)国内の動き

2015年3月に日本で初めて「日本における気候変動による影響に関する評価報告書」が公表され、気温の上昇、大雨・暴風の頻度の増加や、農作物の品質低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加など、気候変動の影響が全国各地でみられていることなどが報告されました。同年11月には、各省庁が進める適応策を取りまとめた「気候変動の影響への適応計画」が閣議決定されています。しかしながら、このような影響は、今後、長期にわたりさらに拡大するおそれがあるにも関わらず、適応策については、これまで、地球温暖化防止法(地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出を、抑制するための取組などについて定めた法律)等 既存の法律の中に定めがなく、国、地方公共団体は何をすべきなのか、適応策の科学的根拠となる将来の気候変動影響の予測情報をどのように集めて使っていくのかといった 基本的な枠組みが整っていませんでした。一方、地方公共団体からは、適応の法制化に関する要望が国にだされ、また、国会では2016年の地球温暖化対策推進法の改正の際、衆参両議院で議決された附帯決議で適応計画の法定化が求められました。

このような状況を踏まえ、必要な枠組みについての検討が進み、2018年6月に「気候変動適応法」という法律が制定され、同年12月1日に施行されました。

3. 気候変動適応法のポイント

気候変動適応法は、大きく4つに分かれる構成になっています。(図1参照)

1つめは「適応の総合的推進」です。政府は、気候変動適応計画を定めることとされました。この計画は、政府全体として関係省庁が連携・協力しながら着実に適応策を実施していくためのものです。また、環境大臣は、約5年ごとに中央環境審議会の意見を聴き、気候変動による影響評価をすることとなりました。気候変動適応計画は、この影響評価の結果等を踏まえ見直されます。影響評価も計画も「農業・林業・水産業」「水環境・水資源」「自然生態系」「自然災害・沿岸域」「健康」「産業・経済活動」「国民生活・ 都市生活」の、七分野を対象としています。

2つめは「情報基盤の整備」です。気候変動への具体的な適応策を考えるためには、現在の状況をきちんと理解するとともに精度の高い気候変動影響の予測情報が必要です。そのため、国立環境研究所が適応に関する国の情報基盤として位置付けられ、気候変動の影響及び適応に関する情報の収集及び提供や、地方公共団体や地域気候変動適応センター(後述)に対する技術的援助等の業務を行うこととされました。

3つめは「地域での適応の強化」です。まず、都道府県 と市町村は、地域気候変動適応計画の策定に努めることとされています。また、都道府県と市町村は、地域の気候変動の影響及び適応に関する情報の収集及び提供等を行う拠点(地域気候変動適応センター)の確保に努めることともされています。さらに、環境省をはじめ国の地方行政機関、都道府県、市町村等は、広域的な連携による気候変動への適応のため、気候変動適応広域協議会を組織できるとも定められました。

4つめは「適応の国際展開等」です。気候変動への適応 に関する国際協力を推進することや、事業者の方々による気候変動への適応へ貢献する事業活動(例えば暑さを和らげる建築材料の開発やより少ない水で農作物を育てることのできる技術など)を促進すること等が定められています。

気候変動適応法の概要
図1 気候変動適応法の概要(出典:環境省資料を基に作成)

4. 気候変化への対応は長期戦

気候変動による影響をどうやって抑えていくかは、私たち 一人ひとりの生活に深く関わります。そして、適応の取組は 一度計画を作って取り組んだらおしまい、という性格のものではありません。なぜなら気候変動のそもそもの大きな原因である温室効果ガスの排出が、どれだけ減るかによっても将来の気候の状況は変わってきます。計画通りに対策が進まないこともあるでしょう。また、起きてしまった影響がさらに別の影響を起こりやすくしてしまうようなこともあります。それから、将来予測は「予測」ですので不確実性がどうしてもありますが、科学の進歩により精度の高い予測方法が新たに使えるようになることもあるでしょう。そのため、状況をみながら、その時点で得られる情報を活用し、将来を考えて対策を進めなければなりません。

これは簡単なことではありませんので、関係する主体が、それぞれの役割を果たしながら、協力し合って取り組みを進めていくことが大変重要になります。気候変動適応法はそのための枠組みを定めた法律です。こうした長期的な取り組みを進めるためには、日本では法律による取り決めが大変重要になります。

最後に、事業者や国民に対しても、気候変動適応に関して理解を深めたり、事業活動の内容に即した気候変動適応に努めることと、国と地方公共団体の気候変動適応に関する施策に協力することが法律で定められています。我々が具体的にできることとしては、地域の気候変動適応計画や適応策を知って自らの行動に役立てること(例えば、熱中症予防情報をみて行動予定を変更する、防災マップで災害時に危険な場所や避難先を確認しておくこと等)や、日々の感じている気候変動による影響について家族や友人と話し合い、発信していくことなどがあるのではないでしょうか。

公開日:2020年7月31日 最終更新日:2020年7月31日

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