熱中症リスクの評価手法の整理・構築
対象地域 | 関東地域 |
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調査種別 | 先行調査 |
分野 | 健康 |
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概要
背景・目的
さいたま市は内陸都市であり、急速な都市化によるヒートアイランド現象により郊外と比較して市街地では気温が高く、熱中症のリスクが増加している。
国立環境研究所で行っている平成27年の熱中症患者速報の報告書によると、さいたま市は19都市・県の中でも最も高い熱中症発生率(人口10万対)58.1となっているが、同じ関東圏にある横浜市の熱中症発生率は24.8とさいたま市の4割程度となっている。一方、さいたま市健康科学研究センターによる研究では、第1次産業と第2次産業に従事する就業産業割合が高い郊外の地域でも熱中症発生率が高い傾向を示している。
さいたま市では、地球温暖化による気温上昇にヒートアイランド現象が重なることで、さらに暑熱環境が悪化することが考えられる。そこで本調査では、さいたま市をモデルに、将来の猛暑日等の傾向を考慮した地域・地区レベルにおける熱中症の影響評価手法を構築し、地域・地区特性に応じた適応策を検討する。
実施体制
本調査の実施者 | パシフィックコンサルタンツ株式会社、筑波大学 |
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アドバイザー | 筑波大学 教授 日下 博幸 東京大学 准教授 井原 智彦 |

実施スケジュール(実績)
本調査の実施スケジュールについては、表5-1のとおりである。
平成29年度は関連情報の収集・整理、課題等の把握を実施し、使用する気候シナリオの検討、社会経済シナリオのデータ整理等を実施した。
平成30年度は現地観測、領域気象モデルWRFによるダウンスケーリング、統計モデルの構築等を実施した。
平成31年度は地区別日最高気温マップの作成、統計モデルの妥当性の確認、熱中症発生リスクマップの作成、適応策の検討等を実施した。

気候シナリオ基本情報
気候シナリオ基本情報については、表5-2のとおりである。
項目 | 熱中症発生リスク |
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気候シナリオ名 | NIES統計DSデータ |
気候モデル | MRI-CGCM3、MIROC5 |
気候パラメータ | 日最高気温 |
排出シナリオ | RCP2.6、RCP8.5 |
予測期間 | 21世紀中頃、21世紀末 |
バイアス補正の有無 | 有り(地域) |
気候変動影響予測結果の概要
文献調査結果の概要
- 熱中症搬送者数は、当該期間において年間340~660人で推移している。
- 屋外・屋内別にみると、屋外が年間195~312人と、全体の45.5~63.1%を占めている。
- 性別・年齢層別にみると、男性が全体の62.4~71.8%を占め、65歳以上が全体の40.0~46.1%を占めている。
ヒアリング調査結果の概要
(熱中症患者搬送者数データについて)
- 熱中症患者搬送者数は熱中症発症場所の土地利用より、ヒートアイランド現象発生場所からの距離等といった地理的要因やイベント開催等の人為的要因が大きく影響しているものと考える。
- 熱中症患者搬送者データについて、「発生の状況(何をしていたか)」、「居住地(市外または市内)」、「エアコンの使用状況」などといった詳細なデータを記録することで、今後ソフト面での熱中症適応策の検討に役立つと考えられる。
(熱中症適応オプションについて)
- 熱中症発生リスクマップに発生場所(屋内外)を考慮できないのであれば、熱中症発生リスクの高い地域の発生場所や熱中症患者搬送者の実測値は確認したほうがよい。
- 屋内における適応策としては、エアコンを使用して適切な気温に下げること、または建物の高断熱化、緑のカーテン、高反射率塗料の塗布が主に挙げられる。
- 屋外における効果的な適応策は、主に「影を作ること」と「気温を下げること」である。現状、挙がっている適応策はそれらを網羅しているため問題ないと考える。特に、街路樹や藤棚、ミスト噴射装置の設置は低予算で実現可能な対策であると考える。
- 「気温を下げる」対策の一つとして、人工排熱の低減も挙げられるが中々困難である。ただし、エアコンの排熱を地中又は屋上に排出することは気温の低下に効果がある。
影響予測結果の概要
- 予測結果は、図5-2~図5-5のとおりである。
- 気候シナリオに、土地利用等による影響を反映させたシミュレーションを実施することで、詳細な日最高気温マップの作成が可能となった。
- 熱中症リスクは現在と比較して、21世紀中頃(RCP2.6)で最大1.7倍、21世紀末(RCP8.5)で最大3.4倍の上昇が見られることが明らかになった。




活用上の留意点
本調査の将来予測対象とした事項
日最高気温と熱中症患者搬送者数との統計モデルから、将来の熱中症リスクの増加率を予測した。
本調査の将来予測の対象外とした事項
日最高WBGTの精度は湿度の精度に大きく依存するため、日最高気温よりも不確実性が大きいことから、本調査では日最高気温を用いて実施しており、他の指標での検討は行っていない。また、昼間の人の移動を考慮した予測とはなっていない。
さらに、将来では経験のない暑さとなることが考えられるが、本調査では統計的手法を用いているため、過去に経験のない暑さでのリスクについては不確実性がある。
その他、成果を活用する上での制限事項
作成した熱中症発生リスクマップは各メッシュに該当する場所について、場としての熱中症発生リスクを表しており、人口は加味していないことに留意する必要がある。
また、本調査で使用した気候モデルは2通り(MRI-CGCM3、MIROC5)のみであるため、将来予測の値に対する不確実性が大きいことに留意する必要がある。
適応オプション
本調査で検討した適応オプションのリストは、表5-3及び表5-4のとおりである。
適応オプション | 想定される実施主体 | 評価結果 | 備考 | |||||||||
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現状 | 実現可能性 | 効果 | ||||||||||
行政 | 事業者 | 個人 | 普及状況 | 課題 | 人的側面 | 物的側面 | コスト面 | 情報面 | 効果発現までの時間 | 期待される効果の程度 | ||
緑化の推進 | ● | ● | 普及が進んでいる |
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△ | ○ | △ | ◎ | 短期 | 中 | さいたま市地球温暖化対策実行計画(区画施策編)より | |
水面(水辺空間)の確保 | ● | ● | 普及が進んでいない |
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△ | ○ | △ | ◎ | 短期 | 中 | 現在、導入事例はないが、今後実施を含め検討予定である。 | |
緑陰・日除け・再帰反射窓面の設置 | ● | ● | 普及が進んでいない |
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△ | ○ | △ | ◎ | 短期 | 高 | 現在、導入事例はないが、今後実施を含め検討予定である。 | |
ミスト噴霧・噴射 | ● | ● | 普及が進んでいない |
|
△ | ○ | △ | ◎ | 短期 | 中 | 現在、導入事例はないが、今後実施を含め検討予定である。 | |
水と緑のネットワークの形成 | ● | 普及が進んでいる |
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△ | ○ | △ | ◎ | N/A | 中 | さいたま市地球温暖化対策実行計画(区画施策編)より | ||
室温の管理 | ● | ● | - |
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◎ | ○ | △ | ◎ | 長期 | 高 | - | |
市民活動等による打ち水の実施に関する普及啓発 | ● | 普及が進んでいる | 特になし | ◎ | ○ | N/A | ◎ | N/A | 低 | 埼玉県、さいたま市HPより |
適応オプション | 適応オプションの考え方と出典 |
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緑化の推進 |
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水面(水辺空間)の確保 |
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緑陰・日除け・再帰反射窓面の設置 |
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ミスト噴霧・噴射 |
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水と緑のネットワークの形成 | 大規模公園整備事業の推進、自然緑地の保全・整備 (さいたま市温暖化対策実行計画(区画施策編)より) |
室温の管理 |
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市民活動等による打ち水の実施に関する普及啓発 |
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