背景
南西諸島でみられるサンゴ礁は多様な生物の住処となっているとともに、観光業や漁業の場として広く活用されています。また、サンゴ礁は波浪を減衰させる効果もあり、天然の防波堤としても機能し沿岸部を守っています。 しかしながら、様々な環境ストレスによりサンゴ礁生態系の劣化が進行しつつあります。サンゴ礁の保全再生の一環として、現場海域におけるサンゴの養殖や移植・植え付けなどが多くの地域で行われています。
環境ストレスがサンゴに与える影響としてよく知られているのは、高水温による白化現象があります。サンゴの中には褐虫藻が共生していますが、高水温等のストレスによって褐虫藻が失われ、サンゴの白い骨格が見えるようになります。白化が生じてもサンゴはしばらくの期間は生きていますが、環境が好適でない状態が長く続くとサンゴが死んでしまいます。白化のしやすさはサンゴの種類によって大きく異なりますが、夏場に水温が上昇しにくい場所(白化・死亡のリスクが低い場所)を明らかにし、そのような場所を優先的に保全するような対策が重要であると考えられます。
また、南西諸島の陸域では「赤土」と呼ばれる赤茶色や灰色の粒子サイズが非常に小さい土壌が特徴的であり、大雨時には陸域から流出し、赤土で濁った水が河川や沿岸域で見られます。沿岸域に流れ込んだ赤土は海底に沈んだり、沖合に流されたりします。また、サンゴの上に赤土が堆積することもあり、赤土に覆われたサンゴは窒息して死亡するおそれがあります。さらに、赤土に覆われた岩礁はサンゴの幼生には不適な環境となります。そのため、生態系の保全に加えて、陸域・沿岸域の優れた景観の維持、そして農地等の管理などの様々な観点から赤土流出を抑えることが重要になります。
気候変動適応研究プロジェクトの紹介
国立環境研究所では2026年度から2030年度にかけて、国内外の気候変動適応に関する研究開発を先導し、気候変動適応の社会実装を推進することを目的とした気候変動適応研究プロジェクト(適応PJ)を実施しています。
適応PJは3つのプロジェクトから構成されており、PJ1では適応策の効果を組み込んだ気候変動影響予測に関する研究、PJ2では気候変動適応戦略の統合化・深化に関する研究、そしてPJ3では地域における気候変動適応の社会実装に関する研究を行います。
南西諸島では気候変動や陸域負荷等の影響によるサンゴ礁生態系の劣化が問題視されており、適応策の検討や社会実装が重要となります。そこで、サブテーマPJ3-2では、南西諸島を中心とした国内のサンゴ群集生態系およびそれに関連する生態系サービスを対象とし、広域の気候変動影響および地域的な陸域負荷など社会活動影響との相互作用について、観測・影響評価から予測、適応策の検討を一貫して実施し、地域適応策の実践支援へと繋げることを目的としました。
現地調査
2026年8月、沖縄本島で関係者との打合せや現地踏査等を行いました。今回の調査で、関係機関と更なる連携を進める重要性や、課題解決のために陸から海までを繋げた視点で考える大切さを改めて認識しました。加えて、気候変動適応センターとして、地域の産業振興にも貢献するような、科学ベースの適応の知見を関係者に直接提供し、貢献していく必要があると強く感じました。
①恩納村・恩納村漁業協同組合
恩納村漁業協同組合では、1990年代初めからサンゴの移植を行ってきましたが、赤土等による負荷が強く、サンゴを捕食するオニヒトデの生息数も多い中で、思うような回復が見込めず、移植と平行してサンゴが育つ環境へ改善していく取組みを実施されてきました。1998年からはサンゴの養殖を行い、自然産卵の力を利用して、稚サンゴの加入数を増やす取組にも力をいれていらっしゃいます。国立環境研究所では、この養殖や移植・植え付けを含む、サンゴの生育状況や物理環境・水質・底質について、恩納村や恩納村漁業協同組合の協力を得てモニタリング等の調査を行ってきました。今年度からの適応PJでは、これらの継続とともに、陸域からの赤土流出量を把握するための調査を開始する予定です。その調査場所や方法等について、打合せを行いました。併せて、陸域の赤土対策に取組まれている恩納村の桐野さんと、海域のサンゴ養殖や移植・植え付けや漁場保全に取り組まれている恩納村漁業協同組合の上原さんに、陸と海の繋がりの視点からインタビューを行いました。後日、インタビューをA-PLATに公開する予定で準備を進めています。
②国頭漁業協同組合
沖縄本島北部の国頭村では、令和6年11月の記録的大雨により、甚大な被害が発生しました。その北部豪雨後の赤土流出状況や、サンゴ礁生態系の回復状況、現在の漁場環境等について、国頭漁業協同組合の組合員である森様にヒアリングさせていただきました。今後の連携について、検討を進める予定にしています。
③沖縄県北部農林水産振興センター
流域における農地側の視点から、赤土流出を防ぐ対策の現状や、農業改良普及員の方々における取組、それらの課題や今後の展望等を把握するため、農業改良普及課 地域特産振興班 宮城班長にヒアリングをさせていただきました。関係者が連携した、陸から海の連続性を考慮した対策の重要性に加え、亜熱帯海洋性気候の沖縄県における知見を、より高緯度の地域の気候変動対策に活かしていく大切さなど、本適応PJを俯瞰的に捉える視点をいただきました。
④沖縄県庁(自然保護課・環境保全課・環境再生課)・沖縄県衛生環境研究所
沖縄県でサンゴ礁保全や赤土等流出防止対策、気候変動対策に関わられている3課(自然保護課・環境保全課・環境再生課)、およびサンゴ礁生態系調査や気候予測データの解析等をおこなっている沖縄県衛生環境研究所、気候変動適応センターの関係者が集まり、それぞれの取組の紹介および意見交換を行いました。今までも繋がりがありましたが、改めて意見交換の場を設定したことで、今後の更なる連携の方向性等が見える場となりました。また沖縄県気候変動適応センターは、環境再生課(事務局)と衛生環境研究所(技術部)が担われており、国立環境研究所と共同研究も実施しています(以下参照)。
今回の打合せを踏まえ、陸域の調査候補地の踏査を行いました。
今後の展望
南西諸島においてサンゴ礁生態系を含む沿岸生態系の保全策・適応策を検討し社会実装に繋げるためには、海域だけでなく陸域も含めたモニタリングや予測評価の実施が不可欠です。また、各地域が抱える課題は様々であると想定されることから、地域の実情を適切に捉えられるような調査・解析が重要となります。さらに、研究成果をどのように社会実装に繋げていくかについては多くの課題があります。そのため、現地関係者や県の関係機関と緊密に連携しながら研究を展開していきます。
南西諸島における活動報告
- 沖縄県伊良部島/下地島(2026年6月):サンゴ礁生態系の保全活動により適した場所を特定するためのモニタリングや数値シミュレーションによる研究(AP-PLAT(英語サイト))
- 鹿児島県徳之島(2026年5月):サンゴ礁生態系の現状と保全策(AP-PLAT(英語サイト))
- 沖縄本島(2025年8月):サンゴを守るための研究最前線
沖縄県衛生環境研究所との共同研究
沖縄県のサンゴ礁生態系への気候変動・地域環境複合影響を軽減するための赤土流出削減指標策定