IPCCとは
IPCCは、Intergovernmental Panel on Climate Changeの略で、日本語では「気候変動に関する政府間パネル」と呼ばれています。国連環境計画(UNEP:United Nations Environment Programme)と世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)によって組織され、気候変動に関する最新の科学的知見に基づいて、各国政府などの政策立案者(Policy Maker)に気候変動の影響やリスクに関する科学的な評価を定期的に提供し、緩和策や適応策の選択肢を提示しています。2023年4月現在、195の国が参加しています。
IPCCの組織は、総会を最高決議機関として、気候変動の自然科学的根拠や影響・適応・脆弱性、緩和策に関する評価を行う3つの作業部会(ワーキンググループ;WG)と各国における温室効果ガス排出量の算定方法の取りまとめなどを行うインベントリータスクフォース(TFI)から成っています。
各作業部会の役割は、それぞれのテーマに係る科学的評価を取りまとめることにあり、それらを取りまとめた「評価報告書(Assessment Report;AR)」が定期的に公表されています。
評価報告書は、IPCC自体が研究活動として作成するのではなく、毎年発行される数千の科学論文を、各国から推薦された研究者が執筆者として評価し、包括的な要約として取りまとめます。そのうえで、各国の代表が参加する総会において承認・採択され、公表されます。
評価報告書の全文は膨大な資料となることから、「政策決定者向け要約(Summary for Policymakers;SPM)」も作成されています。評価報告書本体とSPMは、気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP)などの国際交渉や、各国における政策決定のための科学的根拠として活用されています。
IPCCの各種報告書など
第1~6次評価報告書
評価報告書は、1990年の第1次評価報告書を皮切りに、2021~2023年の第6次評価報告書まで、6度にわたり公表されています。
近年は、3つの作業部会からそれぞれ以下の内容の報告書が公表された後、それらを踏まえた統合報告書が公表されています。
- 第1作業部会:過去、現在、将来の気候変動そのものについての科学的な評価
- 第2作業部会:気候変動に対する社会経済システムと自然システムの脆弱性、気候変動の影響、適応オプションの評価
- 第3作業部会:気候変動の緩和、温室効果ガスの排出削減方法の評価、大気からの温室効果ガスの除去の評価
気候変動に関する新たな知見は、毎年数千の科学論文として発行されています。IPCCでは、そうした科学論文を基に気候変動に関する評価を行っており、人間活動が及ぼす温暖化への影響についての評価は、新たな評価報告書が公表される度に確信度を増しています。最初に公表された第1次報告書では、人間活動が気温上昇に寄与する可能性を示唆していただけでしたが、第6次評価報告書では、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには「疑う余地がない」と強い表現に変わっています。
また、評価報告書の中では、極端気象の増減や将来の影響予測などが記載されていますが、その可能性については、科学的な分析に基づく可能性を踏まえ、その発生確率により、0~1%の「ほぼあり得ない」から99~100%の「ほぼ確実」まで、10段階の表現が使用されています。
1.5℃特別報告書
1.5℃特別報告書は、パリ協定が採択された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、1.5℃の気温上昇による影響や、関連する温室効果ガス排出経路に関する特別報告書の提出依頼を受けて、IPCCが2018年10月に取りまとめた報告書です。
この報告書では、工業化以前より既に約1.0℃温暖化しており、このままのスピードで進行すると2030年から2052年の間には1.5℃に達する可能性が高いこと、1.5℃と2℃の温暖化には影響やリスクにおいて明確な違いがあること、1.5℃を大きく超えないような温室効果ガス排出経路を実現するには2030年までに正味のCO2排出量を2010年に比べ約45%減少させ、2050年前後に正味ゼロにする必要があることなどが示されています。
また、将来のリスクに対し生活様式やまちづくりを根本から変える変革的適応や、適応策と国連の持続可能な開発目標(SDGs)との間の相乗効果やトレードオフについても評価されています。
その他の特別報告書
・土地関係特別報告書
持続可能な土地利用に関する科学的な知見の評価を目的として、2019年8月に取りまとめられた報告書で、農業などによる食料生産や加工、流通などにより、人間活動による温室効果ガスの約21~37%を排出していることや、低排出シナリオを可能とするために、同8~10%を排出している食品ロスや廃棄の削減などの必要性が示されています。
・海洋・雪氷圏特別報告書
海洋や雪氷圏の状況変化や高山地域や外洋などにおける影響に関する新たな知見の評価を目的として、2019年9月に取りまとめられた報告書で、氷河や北極域の海氷の減少、永久凍土の温度上昇などの状況が示され、海面上昇や海洋生物への影響、海洋や雪氷圏への対策の必要性についてまとめられています。
・温室効果ガスインベントリに関する2019年方法論報告書
各国で温室効果ガス排出量の算定を行う際の方法を示した「IPCC温室効果ガス排出・吸収量算定ガイドライン(2006)」の改定版で、算定の精度向上が図られています。
IPCC国内連絡会
IPCCの各種報告書の執筆にあたっての情報共有や執筆者同士の意見交換を図ることを目的に、日本国内から選定された執筆者や査読者を中心として、環境省・文部科学省・気象庁・経済産業省の関連4省庁のもとにIPCC国内連絡会が設置され、年に1~2回程度開催されています。