気候変動影響と対策

緩和

気候変動対策は「緩和と適応」の2本柱であり、どちらも重要であるとされています。A-PLATでは、気候変動への適応についてさまざまな情報を提供しており、この学習コンテンツでも主に適応について紹介しています。それでは、もう一方の緩和とはどのようなものでしょうか。

本項では、緩和について、以下3点に基づいて学んでいきます。

  1. 気候変動の原因
  2. 温室効果ガスを削減する「緩和」に向けた社会の動き
  3. 「緩和」の課題と、「適応」の重要性

気候変動の原因

地球温暖化は、人間活動が原因であることは「疑う余地がない」

みなさんの中にも、近年、暑い日が増えたように感じている人もいるのではないでしょうか。日本の平均気温は、1898年以降100年あたり1.3℃の速さで上昇しています 。

このような気温上昇が、これまでは自然によるものか、人間活動によるものか、不確実な部分がありました。しかし、世界中の科学者が組織するIPCC(この点について詳しくは「5-3. IPCC」の項目をご覧ください)は、2021年に公表した第6次評価報告書において、人間の活動が地球温暖化を引き起こしてきたことは「疑う余地がない」と発表しました。

つまり、私たちが生活をする中で、化石燃料を燃やす際などに発生する、二酸化炭素(以下、CO2)やメタンやフロンなどの温室効果ガスの大気中への排出によって、気候変動が起こっていることが確実視されているのです。

近い将来1.5℃に達する可能性が高い

これからどの程度、人間社会が気候変動対策に取り組むかにより、予測される将来の気温上昇は異なってきます。しかし、このままでは、世界の気温上昇は今後10~20年の内に1.5℃に達し、今世紀末までには温室効果ガスの排出量が非常に多い想定の場合で3.3~5.7℃高くなる可能性があると考えられています。

1820~1900年を基準とした世界平均気温の変化
(出典:環境省脱炭素ポータル

温室効果ガスを削減する「緩和」に向けた社会の動き

世界の気温上昇を、1.5℃未満に

気候変動を止めるため、2015年の国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」という国際的な枠組みが採択されました。パリ協定では、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ(2℃目標)とともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標) 」が掲げられました。

気候変動の原因を少なくする、「緩和」の取組

温室効果ガスの排出を減らし気候変動の原因をできるだけ抑えることを「(気候変動)緩和」と言います。緩和という言葉は聞きなれないかもしれませんが、みなさんもエコな取組としてなじみがあると思われる、下記のような取組があります。

  • 節電・省エネや、エネルギーの効率のよい機器を使うことで、エネルギーの使用を減らす
  • 人びとの意識やライフスタイルを通じてできるだけ温室効果ガスの排出を少なくする(例:なるべく車ではなく自転車や徒歩で移動する、徒歩で移動しやすいまちにする)
  • 再生可能エネルギーを活用する
  • 森林を保全したり、増やしたりする(植物はCO2を吸収してくれるため)

日本では、温室効果ガスを減らすという意味で、緩和という言葉を「脱炭素」や「カーボンニュートラル」、「ゼロカーボン」といった言葉と同種の意味合いで使うこともあります。

急速に進む緩和の取組

パリ協定の目標を達成するためには、早期に大幅な排出削減が必要とされており、協定の枠組みのもと、各国は温室効果ガスの削減目標をたてて、協力しながら緩和の取組を行っています。

もちろん、日本も2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロとするなどの目標を掲げ、法律(地球温暖化対策推進法)を改正したり、計画を策定したりするなど取組を進めています。また近年、多くの自治体・企業などが脱炭素の目標を発表し緩和の取組を加速化させるなど、社会全体が気候変動を止める方向へと大きく変わり始めています。

さまざまな取組の結果、日本では温室効果ガスの排出量は2013年度をピークに減少傾向に転じています。

「緩和」の課題と「適応」の必要性

しかし、世界各国の現在の削減目標や対策では、パリ協定目標の達成は難しいと指摘されています。また、仮に今すぐに温室効果ガスの排出を止めることができたとしても、これまでに排出した分の影響により、気候変動はすぐには止まりません。既に生じていて、また今後進行することが危惧される気候変動の影響に備えるために、気候変動対策のもう一つの柱である「適応」も重要となっているのです。

本項では、気候変動の「緩和と適応」のうち、「緩和」について、温室効果ガスの排出量や具体的な対策事例などを学んでいきます。

温室効果ガスの排出と気候変動

温室効果ガスの排出状況

温室効果ガスは、どのような分野や地域から出ているのでしょうか。下図は、地域ごとの一人当たりの人為的な温室効果ガスの排出量と総人口を示しています。
こうしてみると、全体的に化石燃料と産業からの排出割合(図中の青色)が高いことが分かります。土地利用変化や森林由来の排出割合(図中の黄色)が他地域より高い地域もあります。また、一人当たりの排出量にも差があるなど、地域によって排出の状況が異なっています。

地域ごとの一人当たりの人為的温室効果ガス正味の排出量と総人口(2019)
地域ごとの一人当たりの人為的温室効果ガス正味の排出量と総人口(2019)
(出典:IPCC 第6次評価報告書 第3作業部会報告書 政策決定者向け要約

必要とされる大幅な温室効果ガスの削減

気候変動を抑制するためには温室効果ガスの排出を減らしていく必要がありますが、どのぐらい減らす必要があるのでしょうか。

世界全体の温室効果ガスの排出量の予測を図に示します。

世界全体の正味の温室効果ガス排出量
世界全体の正味の温室効果ガス排出量
(出典:IPCC AR6統合報告書 政策決定者向け要約

これまでに実施された緩和政策だけでは、温室効果ガスの高排出が続く経路(図中の赤線)となり、今世紀末には2.2~3.5℃の温暖化をもたらすと予測されています。

世界平均気温を目標とする1.5℃の経路(図中の青線)にするためには、次の2つを達成する必要があるとされています。正味ゼロというのは、温室効果ガスの排出量と、森林吸収などの吸収量などとの差引でゼロにするということです。

  • 2030年までに世界全体の温室効果ガスを約4割削減する(2019年比)
  • 2050年台の初頭には、CO2の排出を正味ゼロにする(カーボンニュートラル)

気温上昇の度合いは、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量と将来の排出量の合計)によって決まります[1]。気温上昇を1.5℃までにとどめるために残された排出量はごくわずかと予測されており、早期に大幅な排出削減をすることが求められています。


[1]このような気温上昇を一定レベルに抑える場合に想定される上限値のことを「カーボンバジェット」や「炭素予算」と呼びます。(参照元:JCCCA,カーボンバジェットとは?

カーボンニュートラルに向けた国内外の目標

パリ協定で1.5℃未満目標

気候変動の国際的な枠組み「パリ協定」では世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つ(2℃目標)とともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)」を掲げています。パリ協定では、すべての国が削減目標(「国が決定する貢献(NDC)と呼ばれます)を提出・更新する義務があり、各国が目標を立て取組を進めています。

日本政府もパリ協定に基づき、次のような目標を立てています。
-2030年度までに温室効果ガスの排出量を46%削減する(2013年度比)。さらに50%削減の高みに向けて挑戦する。
-2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする。

次に、世界の中でも排出量が多い国や地域の削減目標を見てみましょう(下図)。いずれも2030年までの大幅な削減目標、今世紀中ごろに排出量を実質ゼロとする目標を掲げていることが分かります。

排出量が多い国や地域の削減目標
排出量が多い国や地域の削減目標
(出典:全国地球温暖化防止活動推進センター

様々な緩和策

各国での取組により、近年、世界の温室効果ガスの排出量の増加率は鈍化してきましたが、世界全体としてはまだ増加傾向にあることは変わっていません(2022年現在)[2]。削減目標も国によって差が有ります。世界全体で温室効果ガスの排出を抑制できなければ、気候変動を止めることはできません。すべての国で緩和の取組を進められるように、多くの国際的な資金支援や技術協力などが行われています。

以下に、実際に行われている緩和策の具体的な例をあげてみます。

  • エネルギー:再生可能エネルギーへの転換
  • 農林業・土地利用:CO2を吸収する森林の保全・植林、農業起源のメタンの削減、食品ロスの低減
  • 業務・家庭:省エネ、建物の断熱、できるだけ温室効果ガスの排出を少ないライフスタイルへのシフト
  • 運輸:燃費の改善、車の電化、自転車などへのシフト、公共交通機関の利用
  • 産業:エネルギー効率向上、リサイクル促進、化石燃料から再エネ電気などへの燃料転換など

ただし、このような緩和の取組をより進めるためには規制や経済的手法などの政策手段、管理・統制(ガバナンス)、資金(ファイナンス)、国際協力などを一層強化することが必要と言われています。


[2] (UNEP,GAP Report 2022,世界のGHG排出量はここ10年間増え続けているが、その増加率は過去10年間と比較して鈍化している。)

緩和と適応の両輪で

気候変動の悪影響は既に世界中で現れており、影響に備える「適応」の取組も重要となってきています。

世界では気候変動の影響を受けやすい脆弱な国やコミュニティほど一人当たりの温室効果ガスの排出量が少ない傾向にあるという不均衡な状況も見られます。世界中で協力して緩和と適応の両輪から気候変動に取り組むことが必要です。

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