気候変動影響と対策

適応

緩和についての項目では、温室効果ガスの排出を削減し気候変動を抑える取組について学びました。緩和によって気候変動を抑えられるならその影響に備えるという適応に取り組む必要は無いと思われるかもしれません。
本項では、なぜ気候変動の対策における両輪である「緩和と適応」の両方が必要なのかという点を中心に、以下の項目について学んでいきます。

影響に備える「適応」

緩和と適応
緩和と適応
(出典:A-PLAT,気候変動への「適応」)

なぜ、気候変動の緩和と適応の両方を行うことが大切なのでしょうか。暑さによる影響の例で考えてみましょう。
気候変動により、日本でも平均気温が上昇傾向にあり、何も対策をしないと暑い時期に熱中症になってしまう人が増加することが懸念されます。しかし、人びとが帽子や日傘を利用したり飲料補給をしたりするなど、しっかりと熱中症対策(暑さへの適応策)を行うことができれば、熱中症になる方の増加は抑えられます。

暑さへの適応策
暑さへの適応策

つまり、適応策をしっかりと取ることができれば、気候変動がある程度進んでも、その影響や被害を抑えることができるのです。

今から適応が必要な理由

将来の気候変動の影響は、はっきりと予測できません(「気候変動の不確実性」と言われています)。そのため、まず緩和を優先して、適応は影響が出てからの後回しでいいのではないかと思う人もいるかもしれません。確かに、緩和策によりすぐに気候変動を止めることができるなら、それが最もよい解決策かもしれません。しかし、人間活動により世界平均気温は約1.1℃上昇しており(1850~1900年を基準とした2011~2020年の気温)、このままでは今後10~20年の内に気温上昇は1.5℃に達すると予測されています 。加えて、既に気候変動による様々な影響が生じている中では 、適応を進めなければ更なる被害の発生が懸念されます。

また、効果が現れるまでに時間のかかる適応策もあります。先ほど例に挙げたような熱中症対策はすぐに実施が可能ですが、例えば豪雨災害に備えて大規模な堤防を建設したり、居住地を高台に移転したりするという適応策は十年単位の長期の準備期間が必要となってくるでしょう。どのような影響が現れうるかを把握し、どう備えるべきかの検討を早めに進めておく必要があります。

別の観点では、世界全体として温室効果ガス排出を削減する緩和によって気温上昇を抑制できますが、適応はそれぞれの地域の状況に即して行わなければ効果的なものとはなりません。気象はもちろん、農業の産物も、暮らしている生き物も、文化も、それぞれの地域で異なるからです。自らの地域のことを良く知るみなさん一人ひとりが適応について考え、今から備えを進めておくことが大切なのです。

適応策の例

個人でできる適応

個人でできる適応としては、熱中症やデング熱の予防といった健康分野での適応策、豪雨災害に備えたハザードマップの確認といった自然災害分野での適応策などがあります。

健康分野の影響と適応策
健康分野の影響と適応策
自然災害・沿岸域分野の影響と適応策
自然災害・沿岸域分野の影響と適応策

詳しくは、私たちにできる適応「6-2. 実生活で適応する」の項目をご覧下さい。

事業者としての適応

農業分野では農作物の品質・収量低下を防ぐために、高温耐性品種への変更や日やけ防止、漁業分野では水温上昇等の影響に備えた養殖の水温管理や品種改良などの対策があります。経済分野では、豪雨災害に備えたBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)策定などが考えられます。


詳しくは、下記をご覧下さい。
事業者の適応:https://adaptation-platform.nies.go.jp/private_sector/index.html 
イラストで適応策が分かるインフォグラフィック:
https://adaptation-platform.nies.go.jp/local/measures/infografic.html

農林水産業の影響と適応策
農林水産業の影響と適応策
産業・経済活動分野の影響と適応策
産業・経済活動分野の影響と適応策

地域の影響予測や地域特性を考慮して気候変動適応計画を策定している自治体もあります。自治体が作成する地域気候変動適応計画を見てみましょう。

同時にすすめる緩和と適応

緩和と適応は、同時に進めることができるものや、相乗効果があるものもあります。身近な例としては、つる性植物などを窓の外で育てるグリーンカーテンづくりが挙げられ、植物がCO2を吸収する「緩和」と暑さを防ぐ「適応」の両方の効果がありますね。

一方で、温室効果ガスの排出が増えてしまうなど別の分野で負の影響をもたらしてしまう、「トレードオフ」が発生する適応策も考えられます。できる限りトレードオフに気をつけながら、緩和も適応も進められるといいですね。

本項目では、以下の項目に基づいて様々な観点で適応についての理解を深めます。

  • 適応の限界
  • 適応の失敗
  • 気候変動による良い影響を活用した「適応」
  • 生態系を活用した適応
  • SDGsと適応

適応の限界

これまで、既に気候変動は進行しており、影響は既に発生しているため、適応が必要であることを学んできました。

適応策の実施により気候変動による影響を低減することができますが、温室効果ガスの排出削減(緩和)が進まず気候変動がさらに進行してしまった場合、気候変動による影響を十分低減することが技術的、経済的に面で困難になる可能性があります。このことを「適応の限界」といいます。

世界中の科学者が組織するIPCCによる報告書では、特に1850~1900年から1.5℃を超えて平均気温が上昇した場合、被害が増加し、多くの人間と自然のシステムが適応の限界に達するであろうと指摘されています。
そのため、適応は、緩和との両輪での取組が大切となるのです。

不適切な適応

世界では多くの適応策が既に実施されてきていますが、残念なことに「不適切な適応」(不適応、適応の失敗と呼ばれることもあります)と呼ばれる事例が増加していることが指摘されています。不適切な適応とは、それを実施することでかえって気候変動による悪影響のリスクが上昇したり、気候変動の影響をより受けやすくなったり、福祉の低下につながることを意味します。変化への柔軟性に欠けて、高コストで、温室効果ガスの増加をもたらしたり、今ある不平等を増幅させたりすることも懸念されます。適応の失敗を引き起こさないためには、地域の状況にあった適応策を実施すること、長期的な視野でも検討すること、なるべく他分野に相乗効果のある適応策を選択することなどが重要とされています。適応策を実施する際には、すぐに実施できるものだけが良いとは限らず、費用対効果や導入までの準備期間を検討し、より適切なものを選ぶことが必要です。

気候変動によるよい影響を活用する「適応」

ここまで気候変動による悪影響を軽減するための適応策についてご紹介してきましたが、気候変動による良い影響を活かすことも適応になります。例えば、日本で昔は作られていなかった南国系のフルーツ栽培(マンゴー、ブラッドオレンジなど)が四国や九州で既に行われ、北海道では気温上昇などにより栽培できるワイン用ぶどうの品種の幅が広がり栽培を増やす取組などが行われています。

生態系を活用した適応

また適応策の中で、特に生態系を活用した取組が注目されています。

生態系を活用した適応(Ecosystem-based Adaptation、EbA)、自然を活用した解決策(Nature-based Solution、NbS)といった取組みです。自然や生態系を活かしたインフラストラクチャー(グリーンインフラ)など、コベネフィットを活かした取組はその好例です。

例えば、洪水対策として、これまでのようにコンクリートで堤防や貯水タンクなど(グリーンインフラに対してグレーインフラと呼ばれています)を作るのではなく、農地を活用したり、緑地を設置したりして、植物や土が雨水を一時的に貯留して一気に川に流れ込むことを防ぐような考え方です。治水と生態系保全の両方の効果が期待できます。

生態系を活用した気候変動適応策のイメージ
生態系を活用した気候変動適応策のイメージ
(出典:環境省自然環境局「生態系を活用した気候変動適応策(EbA)計画と実施の手引き」)

SDGsと適応

パリ協定と同じ年に採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)では、ゴール13に「気候変動及びその影響を軽減するために緊急対策を講じる」という目標があり、緩和とともに適応能力の強化などをターゲットに掲げています。また、気候変動対策はSDGsの多くの目標とシナジー・トレードオフの両方を有する可能性が指摘されており 、貧困、不平等、生態系などの課題を解決してSDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、気候変動の緩和・適応を適切に実施することが不可欠なのです。

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