気候変動対策に関する世界の枠組みの経過
気候変動に関する国際連合枠組条約
(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)
気候変動枠組条約は、1992年の国際連合総会で採択されました。2023年4月現在で世界の198の国・機関が締約しています。
この条約の究極の目的は、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」とされており、そのために、「共通ではあるが差異のある責任を果たす」、つまり、先進国は率先した対策を取ることが求められています。
適応の分野に関しては、特に開発途上国が気候変動影響に対して脆弱であることや、適応のための技術やノウハウが不足していることを背景に、開発途上国の適応の取組を費用面から支援するための基金の設置や、先進国の持つ環境保全(温室効果ガス排出削減など緩和に関する内容も含む)に関する技術やノウハウの開発途上国への移転に関する措置について定められ、適応の取組も対象となる「特別気候変動基金」と「後発開発途上国基金」が創設されました。
COPの開催
条約の取組を推進するために、毎年、締約国会議(COP)が開催(2020年のみコロナウィルスの感染拡大により延期)され、IPCCが公表する科学的根拠などを踏まえ、気候変動対策に関する国際ルールなどについて、締約国間で議論が行われています。
この会議は、全会一致が原則ですが、しばしば、先進国と、自国の経済発展も重要課題である開発途上国の間で対立が起こり、交渉が難航することがあります。
1997年に京都で開催されたCOP3では、先進国の温室効果ガス排出削減目標などを定めた京都議定書が誕生しました。適応については、先進国から途上国への支援の仕組み「適応基金」が創設されました。
パリ協定
パリ協定の概要
京都議定書は2020年までの枠組みであることから、その後継として、2015年のCOP21で2020年以降の枠組みとなる「パリ協定」が採択されました。
京都議定書は、先進国のみが義務を負う仕組みでしたが、パリ協定では、先進国、開発途上国を問わず全ての国に対する共通ルールが定められています。
パリ協定では、次の3つの目標を掲げ、気候変動による脅威に対する世界全体での対応を強化することを目的としています(協定第2条)。
- 世界全体の平均気温を工業化以前に比べ2℃高い水準を十分に下回るものに抑えること、1.5℃高い水準までに制限するための努力を継続すること
- 気候変動の影響に適応する能力、気候に対するレジリエンス(強靭性)を高め、温室効果ガス低排出型の発展を促進する能力を向上させること
- 温室効果ガス低排出型かつ気候に対してレジリエンスな発展に向けた方針に資金の流れを適合させること
適応については、上記2点目の目標とともに、第7条において、「気候変動への適応に関する能力の向上並びに気候変動に対するレジリエンス(強靭性)の強化及び脆弱性の減少」という目標(Global Goal on Adaptation;GGA)が掲げられています。 さらに、新たな概念として、例えば海面上昇による国土の消失や気候変動の影響に伴う移住など、適応可能な範囲を超えて発生する影響や被害を「ロス&ダメージ(損失及び損害)」と呼び、その対応の必要性も謳われています。
パリ協定の透明性と実行性
パリ協定では、各国における取組状況の透明性や実効性向上のために、次の対応が求められています。なお、各資料の提出先は気候変動枠組条約の事務局となっています。
- 国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution; NDC)の策定・提出
- 2年ごとにNDCに基づく取組の状況を記載した「隔年透明性報告書」の提出
- 5年ごとに更新・強化したNDCの提出
適応については、国別適応計画の策定・実施・モニタリング、その計画に基づく取組状況を記載した国別報告書の提出と定期更新が奨励されています(この一連の流れは「適応コミュニケーション」と呼ばれています)。国別報告書には、自国の優先事項や実施及び支援のニーズ、計画・行動に関する内容を記載することとされています。
また、NDCや隔年透明性報告書への適応に関する記載は任意とされています。
パリ協定に基づく世界全体での取組の進捗状況については、「グローバルストックテイク」という、5年ごとに評価を行うスキームが定められています。IPCCによる評価報告書や、各国が事務局に個別に提出する情報などを踏まえて、各国の担当者や科学者などが対話形式で進捗に関する評価を行う会合が開催され、その議論をもとにパリ協定の目標との乖離状況やその解決策、優良事例などについて取りまとめられます。
この評価結果を踏まえて、各国に対して、NDCにおいて前回の目標よりもさらに野心的な目標や取組が求められることとなります。
パリ協定に基づく取組の更なる強化
パリ協定のもとでは、各国での気候変動対策の推進や強化に関する仕組みが備わっていますが、世界全体として取組を進める仕組みについてもCOPにおいて議論が交わされ、強化が図られています。
緩和や適応についての全般的な内容だけでなく、ロス&ダメージや気候資金、グローバルストックテイクなどについて議論が続けられており、対応計画の策定や新たな仕組みの構築などについて決定がなされています。直近の議論の詳細な状況については環境省のホームページをご覧ください。