近年、気候変動等の影響により日本の夏の暑さは年々厳しさを増しています。熱中症による救急搬送者数は、毎年9万人以上にのぼり、死亡者数も1500人を超えるなど高い水準で推移しています。このような危険な暑さから身を守るために注目されているのが、熱中症の予防を目的とした「暑さ指数(WBGT)」です。天気予報などで目や耳にする機会も増えたこの指標について、具体的にどのようなものか確認していきます。
目次
WBGT(暑さ指数)の誕生と主な歴史
WBGTは、熱中症を予防することを目的として、1954年にアメリカで提案された指標で、世界中で広く活用されています。熱中症の発症に関与するとされている気温、湿度、日射・輻射、風の4要素を総合的に評価できるため、人が受ける暑熱環境による熱ストレスを評価し、熱中症を予防するための指標として日本でも活用が推進されています。
ここでは、アメリカの海兵隊で誕生してから現在の日本におけるアラート運用に至るまでの、主な歴史を振り返ります。
| 1954年(昭和29年) | アメリカ・サウスカロライナ州パリスアイランドの海兵隊新兵訓練所で、熱中症のリスクを事前に判断するために開発されました。パリスアイランドは湿度が高い上に、海兵隊の訓練は厳しく、訓練中は服装や装備にも厳しい制約があったために、熱中症になりやすかったことが暑さ指数(WBGT)の提案につながりました。 |
| 1975年(昭和50年) | ACSM(アメリカスポーツ医学会)が暑さ指数(WBGT)を用いた長距離走の指針を公表しました。暑さ指数が28℃以上の場合は、10マイル以上の長距離走を禁止するというものでした。 |
| 1982年(昭和57年) | 暑さ指数(WBGT)がISOにより、国際基準として位置づけられました。 |
| 2006年(平成18年) | 環境省「熱中症予防情報」サイト開設、Web上で国内各地の暑さ指数(WBGT)の情報を提供する仕組みを、本格的に運用開始しました。 |
| 2021年(令和3年) | 環境省と気象庁は、全国を対象に、暑さ指数の予測にもとづいた「熱中症警戒アラート」の運用を開始しました。 |
| 2024年(令和6年) | 改正気候変動適応法の法施行により、「熱中症特別警戒情報(熱中症特別警戒アラート)」の運用を開始しました。 |
※環境省「熱中症予防情報サイト(暑さ指数の詳しい説明)」を基に作成
WBGTの定義
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した熱中症予防の指標です。この指標は、熱中症の発症に深く関与する「気温」「湿度」「日射・輻射(ふくしゃ)」「風(気流)」の4つの環境要素を総合的に評価します。
これらの要素を反映するため、実際の算出には、以下の3つの温度計で測定された値(℃)が用いられます。
- 湿球温度(Tw/ NWB:Natural Wet Bulb temperature):水で湿らせたガーゼを温度計の球部に巻いて観測します。温度計の表面にある水分が蒸発した時の冷却熱(気化熱)と平衡した時の温度で、空気が乾いたときほど、気温(乾球温度)との差が大きくなり、皮膚の汗が蒸発する時に感じる涼しさ度合いを表すものです。
- 黒球温度(Tg / GT:Globe Temperature):黒色に塗装された薄い銅板の球(中は空洞、直径約15cm)の中心に温度計を入れて観測します。黒球の表面はほとんど反射しない塗料が塗られています。この黒球温度は、直射日光にさらされた状態での球の中の平衡温度を観測しており、弱風時における日なたの体感温度と良い相関があります(日射や輻射熱の影響を反映します)。
- 乾球温度(Ta / NDB:Natural Dry Bulb temperature):通常の温度計を用い、自然通風を妨げずに球部への直射日光と輻射熱を避けたうえで、空気の温度を観測します。
WBGTの算出式
現在、熱中症予防の指標として日本で用いられている算出式は以下の通りです。
屋外(日向)での算出式
WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度

屋内(日陰)での算出式
WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度

身体から熱が逃げるしくみとその阻害要因
「湿球温度(℃)」と「湿度(%)」は違うの?
普段から目や耳にする「湿度」は、空気の中にどれだけ水蒸気(水が気体になったもの)が含まれているかを示す指標で、一般的には「相対湿度(%)」が用いられます。空気1立方メートルに取り込める水蒸気の最大量は気温によって変化し、これを「飽和水蒸気量」と呼びます。この飽和水蒸気量に対して、実際に空気中に含まれている水蒸気量がどれだけの割合を占めているかを百分率で表したものを「相対湿度(%)」といいます。さらに、その水蒸気の量を重さで示したものが「絶対湿度(g/m³)」です。
湿球温度は、水分がどれだけ蒸発しやすいかを温度(℃)として示す指標です。濡れたガーゼを巻いた温度計の球部を自然通風下に置くと、水の蒸発に伴って周囲の熱が吸収され、その影響が湿球温度として現れます。空気が乾燥していると蒸発が進みやすく、それに伴って周囲の熱が吸収されるため、湿球温度は低下します。逆に空気が湿っている場合は、蒸発が抑えられるため、湿球温度の低下は小さくなります。

なぜ身体の冷却が妨げられるの?
① 湿度が高い
同じ相対湿度でも、気温によって空気中に含まれる水蒸気量(絶対湿度)は異なります。
(例)相対湿度60%の場合
●気温30℃の場合 空気中の水蒸気量(絶対湿度)→ 約18g/m³
●気温10℃の場合 空気中の水蒸気量(絶対湿度)→ 約5.4g/m³
このように、気温30℃では気温10℃の約3.3倍の水蒸気量が空気中に含まれています。
空気中の水蒸気量が多い環境では、空気が水分を受け取る余裕が小さくなるため、汗が蒸発しにくくなります。汗の蒸発に伴う熱の放散が抑えられることで、身体から熱が逃げにくくなります。
② 気温が高い、日射が強い
人間の皮膚表面温度はおよそ33℃とされています。気温がこれより低い場合には、皮膚から空気へ自然に熱が移動します。しかし気温が上昇すると、皮膚と空気の温度差が小さくなるため、熱が逃げる作用が弱まります。
気温が33℃を超える環境では、皮膚から空気へ熱を逃がすことが難しくなり、逆に周囲の高温空気から熱が身体へ流入することがあります。さらに、日射や輻射が強い場合には体表面が直接加熱され、身体の温度上昇につながります。
③ 風が弱い、または無風
風があると、汗の蒸発が促進されて気化熱による冷却が働き、また熱くなった体表面の熱が空気へ移動しやすくなります。そのため、風が弱い環境や無風状態では、汗の蒸発が進みにくく、体表から熱が逃げる働きも弱まります。
このように、湿度・気温・日射/輻射・風の条件は、いずれも身体の冷却機能に影響を及ぼします。
とくに高温多湿で風が弱い環境では、これらの要因が同時に作用し、身体から熱が逃げにくくなるため、熱中症の発生リスクが高まります。
WBGTの重要性
近年、東京大学の研究チームは世界43の国と地域、739都市を対象に、暑さと健康リスクの関係を調べる大規模な研究を行いました。過去40年間の気象データや日別の死亡データを詳しく分析した結果、どの指標を使うかによって「最も熱ストレスが高まる時期」の評価が異なることが分かり、地域に合った指標を選ぶ重要性が示されました。
研究対象の739都市のうち222都市では、気温が高いと湿度が低いというように、気温と湿度の間に相関関係があることが確認されており、このような地域では 気温単独の指標でも暑熱ストレスを評価できます。
一方で、日本や韓国、ペルー、アメリカ沿岸部や五大湖周辺地域のように、気温も湿度も高くなる場合があるなど、気温と湿度の間の相関関係が弱い地域では、湿度などを包括したWBGTを用いた場合の方が、死亡リスクと強い関連を示すことが明らかになりました。
これらの成果は、日本のように「気温がそれほど高くなくても湿度が非常に高い日」が多い地域では、湿度を含めて暑さを評価できるWBGTが、熱中症リスクを正しく捉えるために非常に有用であることを裏付けています。
つまり、日本の熱中症警戒アラートがWBGTを採用していることは、科学的に見ても妥当であることが示されたと言えます。
WBGT(暑さ指数)
算出式の内訳
WBGTが低いと...
WBGTが高いと...
熱中症リスクの上昇
WBGTの数値を基準に、私たちの「行動」を変えよう
熱中症は死に至るおそれもありますが、適切な予防法を知り、実践することで防ぐことができます。これからの夏は、ただ暑さを我慢するのではなく、WBGTの数値を日々チェックし、そのレベルに応じた具体的な行動変容(アクション)を起こすことが不可欠です。
日本生気象学会による日常生活の指針では、WBGTが「28以上31未満」で熱中症になる危険性が高まるため「厳重警戒」とされ、外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意することが推奨されています。さらに「31以上」になると「危険」レベルとなり、外出はなるべく避け、涼しい室内に移動することが求められます。特に高齢者は安静状態でも熱中症が発生する危険性が大きいため、より一層の警戒が必要です(図1)。
スポーツにおいても、日本スポーツ協会の指針ではWBGTが「31以上」の場合は、特別の場合以外は運動を中止することが推奨されており、特に子どもの場合は中止すべきとされています(図1)。
| 暑さ指数 (WBGT) |
注意すべき 生活活動の目安(注1) |
日常生活における 注意事項(注1) |
熱中症予防運動指針(注2) |
|---|---|---|---|
| 31℃ 以上 | すべての生活活動で おこる危険性 |
高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。 外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。 |
運動は原則中止 特別の場合以外は運動を中止する。特に子どもの場合には中止すべき。 |
| 28〜31℃(注3) | 外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。 |
厳重警戒(激しい運動は中止) 熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。10〜20分おきに休憩をとり水分・塩分の補給を行う。暑さに弱い人(注4)は運動を軽減または中止。 |
|
| 25〜28℃(注3) | 中等度以上の 生活活動で おこる危険性 |
運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休憩を取り入れる。 |
警戒(積極的に休憩) 熱中症の危険が増すので、積極的に休憩をとり適宜、水分・塩分を補給する。 激しい運動では、30分おきくらいに休憩をとる。 |
| 21〜25℃ | 強い生活活動で おこる危険性 |
一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。 |
注意(積極的に水分補給) 熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。熱中症の兆候に注意するとともに、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する。 |
図1:暑さ指数を用いた指針(出典:暑さ指数計の使い方(環境省)を加工して作成)
国では、このWBGTを予測してアラートを発表し、注意を呼びかけています。
| アラートの種類 | 発表単位 | 発表基準 | 発表時間 |
|---|---|---|---|
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全国を58に分けた府県予報区等を単位として発表(北海道、鹿児島県、沖縄県を細分化) | 府県予報区等内のWBGT情報提供地点のいずれかにおいて、翌日又は当日の日最高暑さ指数が33以上となることが予測される場合に発表。 | 前日の午後5時及び当日の午前5時 |
![]() |
都道府県単位 | それぞれの都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点(気候変動適応法施行規則の別表情報提供地点の欄に掲げるものを除く。)において、翌日の日最高暑さ指数が35以上となることが予測される場合に発表。 | 前日の午後2時 |
これらのアラートが発表された日はもちろん、アラートが発表されていなくても、自分が活動している場所(周辺の環境)のWBGTが高い日は、以下のような行動変容を心がけましょう。
- のどが渇く前に、こまめな水分・塩分の補給を行うことが重要です。
- ためらわずにエアコン等を使用し、涼しい環境で過ごしてください。
- 運動や外出、イベントなどを中止・延期する、あるいはリモートワークへ切り替えるなどの対応も必要です。
- 高齢者や子どもなど熱中症になりやすい人に、エアコンの使用や水分補給の見守り・声かけを行うという共助の行動も大切です。


自分でできる!WBGTの測定方法
熱中症対策のためには、自分が今いる場所のWBGTを実際に測定して対応することも非常に有効です。正確に測定するためには、「黒球付きのWBGT測定器」を使用することが推奨されています。
屋外で測定する際は、正しい数値を得るために以下のポイントに注意しましょう(図2)。
- 高さと場所:地面からの輻射熱の影響を避けるため、地上から1.1m程度の高さ(三脚や鉄棒等を使用)で測定し、壁などの近くも避けます。地面や朝礼台の上に直接置くのはNGです。なお、観測の目的によって高さを変えることもあります。
- 日射の確保:黒球が陰にならないよう、しっかりと日射に当てます。
- 正しい持ち方:手で持って測定する場合は、黒球を握ったり、通気口をふさいだりしないように注意します。
- 値の読み取り:機器が環境に馴染んで値が安定するまで、10分程度待ってから数値を読み取ります。
地域と科学の連携: WBGT観測を用いた最新の研究動向
ヒートアイランドや気候変動による気温上昇に伴い熱中症救急搬送数は増加傾向にあり、その対策は地方公共団体においても喫緊の課題となっています。なお、熱中症の発生傾向は地域によって異なり、適切な適応策を検討するためには、それぞれの地域の現状把握とその分析が必要となります。
そこで、気候変動適応センター(研究代表者:岡 和孝氏)による研究プロジェクト(第3フェーズ:2026年4月~2031年3月)では、地域の現状を把握するために、熱中症救急搬送数に関する分析や将来予測、暑さ指数(WBGT)の観測等に取り組んでいます。本研究では、参加機関が他の事業等で実施している暑熱・健康に係る課題を本研究の中で研究することも可能としており、地域の実情に即した科学的知見の蓄積が進められています。
詳細はこちら:
気候変動による暑熱・健康等への影響に関する研究 (A-PLAT)
社会全体で熱中症を防ぐ: WBGTを活用した自治体の取組事例
熱中症予防は、各個人の対策に加えて、社会全体で取り組むことでさらに大きな効果が期待できます。全国の自治体では、地域の暑さの特性を踏まえ、WBGTの数値を活用した様々な対策が進められています。以下に、その取り組みの一部をご紹介します。
- 学校における暑さ指数(WBGT)の計測について(富山県)
- 高知県熱中症指数測定器(WBGT計)の活用事例を紹介します!(高知県)
- 暑さ指数計の庁内貸出事例(令和7年11月)(神奈川県気候変動適応センター)
おわりに
WBGTは、環境省の熱中症予防情報サイトや個人向けメール配信サービス、LINE公式アカウントなどで予測値や実況値が確認できます。ただ数値を見るだけでなく、「今日は湿度の影響でWBGTが高いし風もないから炎天下の外出は控えよう」「アラートが出ているから、今日の畑作業は無理しないよう、おじいちゃんとおばあちゃんに連絡しよう」など、日々の行動の判断基準として活用することが重要な熱中症対策になります。
WBGTの数値を道しるべに、自らの身と大切な人の命を守るための行動変容を起こしていきましょう。
引用および参考文献一覧
- 熱中症予防情報サイト(環境省)
- 報道発表資料「令和8年度熱中症特別警戒アラート及び熱中症警戒アラートの運用を開始します」(環境省ウェブページ)
- 熱中症環境保健マニュアル 2022(環境省)
- 熱中症環境保健マニュアル ~総論~ 2025年7月版(環境省)
- 日常生活における熱中症予防指針第3版(2023年)(日本生気象学会)
- 熱中症を防ごう(公益財団法人日本スポーツ協会ウェブページ)
- Guo, Q., Mistry, M. N., Zhou, X., Zhao, G., Kino, K., Wen, B., Yoshimura, K., Satoh, Y., Cvijanovic, I., Kim, Y., Ng, C. F. S., Vicedo-Cabrera, A. M., Armstrong, B., Urban, A., Katsouyanni, K., Masselot, P., Tong, S., Sera, F., Huber, V., Bell, M. L., Kyselý, J., Multi-Country Multi-City (MCC) Collaborative Research Network, Gasparrini, A., Hashizume, M., & Oki, T.\ (2024). Regional Variation in the Role of Humidity on City-level Heat-Related Mortality. PNAS Nexus, 3(8), pgae290.
https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgae290 - 井原智彦(2024)「高温や熱波が直接的に人間健康に及ぼす影響」日本気象学会 夏季大学2024 講義資料 SS2024_08.
https://www.metsoc.jp/default/wp-content/uploads/2024/07/SS2024_08.pdf - 職場の安全サイト:安全衛生キーワード「暑さ指数(WBGT値)」(厚生労働省)
- 気象観測ガイドブック(気象庁)

