熱中症対策:6月から「猛暑」がはじまる時代がやってくる?国立環境研究所・岡和 孝室長に聞く、2025年の気候と熱中症への備え
増冨 祐司室長
日本人の食卓に欠かすことのできない「米」。
それゆえに米の供給不足や価格高騰は消費者の大きな関心を集めやすく、2024年から2025年にかけて発生した米の品薄や価格上昇をめぐる社会的混乱は、「令和の米騒動」と呼ばれ、連日テレビや新聞のニュースを賑わせました。
気候変動の影響は、当然ながら農作物にも及びます。かつてない猛暑が続く昨今、日本のおお米は今後どのように変化していくのでしょうか。
今回は、「米」をテーマに、国立環境研究所の増冨 祐司室長にお話を伺いました。
目次
2025年の気候と、米への影響について
気象庁の速報によると、2025年における日本国内の年平均気温は、統計開始以来で3番目に高い値となる見込みで、2024年(1位)、2023年(2位)に続き、記録的な高温が3年連続で続いたことになります。
これほど猛暑が続くと、水田が干上がったり、過度な高温によって稲の生育に深刻な影響が及ぶのではないかと、不安を覚えることも少なくありません。しかし増冨室長はこう語ります。
「2025年は気温という点では記録的な暑さでしたが、米作りの面では例年並みの状況で、そこまで大きく影響が出た年ではありませんでした。
米作りへの影響があったかどうかは、その年に生産された米における一等米(国の基準で最も品質が高いと格付けされた米)の比率を指標として判断します。1980年代から取っているデータを見ると、日本全国の平均では一等米比率はおおむね70~80%の範囲で推移していて、長期的な視点で大きな変化は起きていません。
もちろん、局地的に見ると、九州では一等米比率が年々下がってきていたり、反対に沖縄は一等米比率が2007年を境に大きく上昇するなど、地域差はあります。ただしこれを全国で平均すると、この40年間で一等米の比率が著しく低下しているとはいえない状況です」
これは、気候変動に対応するために、各地の米農家が適切な対策や工夫を重ねてきたり、暑さに強い品種が改良されたりしてきた成果だそう。私たちの食卓に欠かせないお米は、農家さんや関係機関の創意工夫により守られているんです。
気候変動に負けないお米作りって?今、起こっていること
米の品質を大きく左右するのは、実は開花のタイミングです。稲の穂が茎の中から外に出たあと、穂の中のひとつひとつの花が開いて受粉が行われ、籾にデンプンが詰まっていきます。このデンプンが詰まっていく期間を登熟期と呼んでいますが、この期間に高温になると、デンプンの充実が不十分となり、白く濁ったコメが増えます。この白く濁ったコメは一般に食味が悪いとされ、さらに壊れやすいため収穫量の低下にもつながります。
実際に2010年、2023年には米の登熟期と猛暑のピークが重なってしまい、大きな影響を受けました。2023年産の水稲うるち玄米の一等米比率は60.9%となり、前年と比べて約17.7%低下しています。これにより品質の高いお米の量が圧倒的に少なくなりました。このことが、前述した「令和の米騒動」を引き起こすトリガーのひとつになったのではと増冨室長は指摘します。
「こうした経験を踏まえて、農家さんも田植えの時期をずらしたり、様々な対策を行っています。それから働く人間側の対策もありますね。昔のように真夏の屋外で田んぼの手入れをすると熱中症の危険がありますので、農作業は朝と夕方の比較的涼しい時間帯に行ったりと、まさに気候に対応した「適応アクション」を取っています」
また温暖化が進むなかでの米作り対策としてもう一つ重要な鍵となるのが、暑さに強い高温耐性品種の米を育てることです。現在、国に登録されている約1,000品種の米のうち、実際に田に作付けされているのは約300品種ほど。その中には高温環境下でも食味を保つことができる品種がいくつかありますが、簡単には作付け品種を変えられないという課題も浮き彫りになっています。
消費者意識の変化が必要!私たちができること
進む気候変動や農家さんの努力に対して私たちができることとして、ブランド米一強の時代から脱却する時が来ているのではないかと増冨室長は語ります。
日本全国で作付けされている米を品種別の割合で見てみると、圧倒的1位を誇るのが33.4%のコシヒカリ。次いで2位がひとめぼれ(8.5%)、3位ヒノヒカリ(8.1%)、4位あきたこまち(6.7%)、5位ななつぼし(3.2%)…と、上位1~10位で全体の70.7%を占めています。
「コシヒカリは美味しいうえに日本の広い範囲で栽培がしやすく、ブランド力があるので、農家さんにとっては”売れる米”なんです。でも実は暑さへの耐性は中程度で、高温に強い品種ではありません。それでも米が売れなければ農家さんの収入にはなりませんので、なかなかマイナーな品種に転換をするのが難しいのです。
日本の米の品種は昔から多様であるにも関わらず、知名度がないため埋もれてしまっていました。それが最近になって、自治体がPRにも力を入れるようになり、新潟県が開発した『新之助』や富山県の『富富富』など、各地の高温に強いオリジナル品種がご当地米として知られるようになってきました。こうした流れを受けて、消費者側も新しい品種を受け入れて購入するようになれば、生産品種を多様化することができるようになります。暑さに強い品種、そうではない品種、早く田植えをする品種、遅くてもいい品種と幅広く栽培すれば気候の影響を一気に受けるリスクも減らせますし、気候変動適応策となるのではないでしょうか」
農林水産省が提案する「食べるシーンに合わせた品種選び」にもあるように、お米は銘柄や産地によって食感や味わいが異なります。粘り気があってもっちりしたもの、弾力があり噛み応えがあるもの、甘味が強いものなど…それぞれの性質を活かして、和食にはやわらかくもちもちのご飯、丼ものやカレーにはメインを引き立てるあっさりめのご飯と、数種類を使い分けてみるのも面白いかもしれません。色々な銘柄を食べ比べることができるように少量ずつがセットになった詰め合わせなども販売されているので、試してみてはいかがでしょうか。
変わっていく世界を理解し、受け入れるための「適応アクション」
長い目で見た適応アクションのためにできることとして、これからの未来を支える子供たち、若者たちにはまず米作りの現場を知ってほしいと増冨室長は願います。
「お米ができてから消費者の食卓に届くまでには様々な人たちが関わっています。普段の生活ではなかなか生産者の顔を想像することは難しいですが、例えば米の田植えや収穫体験に参加すれば、お米を作るのがどれほど大変なことか実感できますよね。そうした「知る」というきっかけが、「受け入れる」「適応する」といった行動へと繋がっていくと思います」
米作りを取り巻く環境を他人事と思わずに、まずは自分にできることから。いつもと違う銘柄のお米に挑戦してみることも、立派な適応アクションです。豊かな日本の食習慣を未来に繋げるために、小さな一歩を始めてみてはいかがでしょうか。
「#適応しよう」ページでは、こうした「様々な適応」を含め、これからの時代を快適に暮らすための「15の適応アクション」を紹介しています。
未来を快適に暮らすために必要なのは、特別な誰かの大きな決断だけではありません。
あなたが今日選ぶ、ほんの小さな「適応」の積み重ねが大切です。
まずは今日の食事から、自分らしいアクションを選んでみませんか?