食品のゴミが姿を変えて、ふたたび人間の暮らしを豊かにする
取材日 | 2024/6/1 |
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対象 | fabula株式会社 代表取締役CEO 町田紘太 |
御社の事業内容について教えてください。
ベースの事業は「食品廃棄物を素材化する」です。もともとは東京大学の研究室で研究していたテーマで、2021年の10月にfabula株式会社を立ち上げました。食品メーカーや飲食店から、食品廃棄物と呼ばれる未使用資源を買い取り、建材や小物雑貨などに作り替えています。
御社は『ゴミから感動を作る』というコンセプトを掲げていらっしゃいますが、こういった考えに至った経緯やきっかけはなんでしょうか?
所属していた研究室のテーマは、コンクリートでした。コンクリートは環境負荷がとても高い素材で社会課題になっており、それをどうにかしようというところがベースになっています。セメントをつくるときには多くのCO2が排出されており、その量は全世界の排出量の約8%を占めるのです。これは日本1か国が出すCO2を超える量で、やはり多いといえます。
もうひとつは、そもそもコンクリートが使えなくなるという課題です。使えなくなる理由もいくつかあります。
コンクリートの原材料は水、セメント、砂、砂利なのですが、砂と砂利が枯渇してきています。どこにでもあるものに見えますが、コンクリートに使える砂と砂利があり、それが少なくなってきているのです。しかしコンクリートのように数十年、100年単位で使い続けられる素材はおそらく他にないだろうということで、この素材を代替するようなものを作っていかなければならないという課題があります。
さらに、瓦礫の問題です。建物を取り壊すときに出る大量のコンクリートは、年間3000万トン以上といわれています。その瓦礫の処理が大変で、路盤材といって道路建設の下地にも使われるのですが、そもそも道路建設自体がピーク時の半分まで減っているので、処理しきれなくて困っている自治体も多いようです。
高い環境負荷、資源の枯渇、産業廃棄物問題。コンクリートという身近な素材が、これだけの問題を抱えているとは思いませんでした。御社は新素材でさまざまな商品を作っていますが、いま原料として使っている食品廃棄物は何種類ありますか?
これまでに100種類くらいは試作しています。素材ができるまでの工程自体はシンプルで、乾燥させて粉末にして、ホットプレスをするだけです。だから、試作自体は原料があればなんでもできます。
ホットプレスとは熱を加えて、圧力をかけるやり方で、産業界では一般的な機械を使います。ワッフルをつくるようなイメージです。
プロダクトのサイズに関しては、プレス機のサイズの問題が大きいです。小物であれば卓上の機械でつくりますが、大きい建材などになるととても大きなプレス機が必要ですので、提携工場でつくっています。
たとえば1m²の素材を作るのに、食品廃棄物をどのくらい使いますか?
比重が1.3なので、原料の容積に1.3をかければ重さが出てくるのですが、原料によってかなり異なります。コーヒーの場合、豆10gで1杯淹れるとして、6〜7杯分の抽出カスで1枚のコースター(66g)ができる計算です。
水分の多い白菜だと乾燥過程でかなり減って、4%程度になります。熱を加えると素材の糖分が柔らかくなり、圧力をかけることで糖分が繊維の間を埋めて、コンクリートの約4倍の強度が生まれるんです。
乾燥、粉末、成形によって素材の色が出たり、テクスチャーが変わったり、香りがついたりするとのことですが、その一例を教えていただけますか?
こちらは食品メーカーとコラボレートして、焙煎カカオ豆のカスを原料にしてつくったコースターです。カカオ豆を焼いたときに殻が出るので、それをどうにかしたいという要望が取り組みの発端でした。
作ってしばらく経っても、ちゃんとチョコレートの匂いが残っています。匂い本体がなくなることはほとんどなくて、しっかり匂いを消そうとするとコーティングが必要です。もちろん、鼻に近づけてようやく匂う程度です。
メーカーとコラボレートする機会も多いのですね。みなさん、どのようなモチベーションで御社に素材づくりをお願いするのでしょうか。
食品メーカーは、先ほど申し上げたように残渣やゴミが出るからどうにかしたい、というシンプルな理由が多いです。それを使って社内で営業ツールになるようなオリジナルのノベルティをつくりたい、あるいは新規事業として会社のPRになるようなプロダクトをつくりたいといったご依頼もあります。
小物以外ですと、ゼネコン、設計事務所、内装設計会社から建材などの依頼をいただくこともありますね。
最初のお話だとコンクリートの代用品ということでしたが、建材についてはすでに実現されているのでしょうか。
2025年に開催される大阪万博で、約1000m²の半屋外の建物をつくっているのですが、その建物の天井に弊社の素材が使われる予定になっています。現在は7種類程度の食品廃棄物を選定していて、お茶や柑橘、白菜などを使うため、テクスチャーもいろいろです。
これをきっかけに、建材として実装される機会が増えるかもしれないということですね。
そうですね。私たちもやはり、建材として広がっていくというのが、一番いいなと思います。
食品廃棄物は、年間2000何百万トンも排出されているといわれています。さらに、おそらく流通に乗らない、たとえば生産者のもとで破棄されるような野菜などはこの数字に入っていないはずです。そうするとかなりの食品が廃棄されていることとなり、私たちがコースターを数枚つくったところで、社会課題の解決にはならないんです。コースター1枚が約60gなので、100枚つくっても6kg。数十万枚でやっと数トンになるレベルです。
しかし、それが建材になった途端にマーケットが巨大になります。大阪万博だけでも一気に100トン程度の食品廃棄物を使っているんです。それくらい、インパクトがあります。社会課題を解決することがスタートアップを立ち上げる意味だと思うので、今後は建材としてどう使えるか、売れるのか、という観点から、開発を進めていく必要があると思っています。
町田さんが、個人的に使いやすくて、可能性を感じる素材はなんですか?
コーヒーの抽出カスは、廃棄物処理の需要が高いと思います。全世界で飲まれていますから。ちなみに、コーヒーの抽出カスを使った素材の強度はコンクリートの倍です。
しかし、食品廃棄物を使った建材がコンクリートの代わりになるかというと、コストの面でまだ難しい部分があります。ですから建材として使うのであれば、現実的なのは先ほど申し上げた天井の板などですね。そのほか、最近は家具メーカーとコラボレートしてスツールの試作も始めました。大型家具は小物に比べて多くの食品廃棄物を使いますし、問い合わせも増えています。
このお仕事をされるうえで、大事にしていることはなんですか。
廃棄物をどうにかしよう、という事業はいわゆる静脈産業といわれていて、プロセスに目が当てられがちです。つまり「リサイクルすることに意味がある」とされている。それはもったいないな、といつも感じています。
モノを売るときの根幹は、製品の価値だと思うんです。たとえばケーキ屋であれば、おいしいケーキをつくることに意味がある。でも、静脈産業もそういうものづくりをすることが大事だと思っていて、環境にいいモノを買うことがモラルや文化として定着すれば、あえてプロセスにフォーカスしなくても、純粋にいいものだけが売れていく世の中になるはずです。プロダクト本来の価値で勝負する。それが、私たちの目指すべき姿です。
2021年に会社を立ち上げて、お仕事のやりがいをどのようなところに感じていますか?
自分が開発したものを実装していく作業というのは、やはりすごく楽しいです。社会に対してまっすぐ向き合えているところも好きですね。
もともと、社会課題にはずっと関心がありました。社会課題とつながらないビジネスはないと思うのですが、そういったものに直球で関われていることはもちろん、さまざまな業界の人たちとお話ができるのも面白いです。そういう意味でも魅力的な仕事だと思いますね。
この記事は2024年6月1日の取材に基づいています。
(2024年11月8日掲載)