アップルレザーで、ファッションを通じてやさしい世界に
取材日 | 2024/6/2 |
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対象 | ラヴィストトーキョー株式会社 代表取締役 唐沢海斗 |
アップルレザーとはなんですか?
これまで廃棄されていたりんごジュースの搾りかすを乾燥させて、樹脂と混ぜ合わせることで生まれたバイオレザー(合成皮革)です。
動物原料を用いない合成・人工皮革は「ビーガンレザー」や「フェイクレザー」と呼ばれていますが、樹脂層と呼ばれる表皮に100%石油由来の樹脂を使用していたため、動物にはやさしくても環境にはやさしいといえるか疑問でした。そんななか、「アップルレザー」のように廃棄されていたローカルの資源をアップサイクリング(捨てられるはずのものに新しい価値を与えること)して、より環境に配慮したバイオレザーが誕生したんです。 バイオレザーの中には、キノコやパイナップル、グレープなど、さまざまな種類があります。
唐沢さんがアップルレザーに興味を持ち、起業するまでの流れについて教えてください。
私自身のキャリアのスタートであるアメリカの西海岸では、ビーガンという考え方への理解や、日常にプラントベースを取り入れたライフスタイルが浸透していました。またそういった選択が広がっている理由には、動物愛護だけでなく、畜産業由来の温室効果ガス(社会課題の解決)があることに気がついたんです。こういった課題はまだ知らない人も多く、自分が日本に持ち帰って伝える意義があると感じました。
ビーガンやプラントベースと聞くと、食をイメージするのが一般的だと思うのですが、まずはカジュアルに伝えていきたいと思い、ファッションを切り口に事業化しました。いきなり自分でブランドを作るというより、海外のビーガンアパレル製品をインポートして販売するセレクト型で始めたのですが、私の力不足で廃業してしまったんです。しかしまだ諦めきれなかったので、2020年現ラヴィストトーキョー株式会社を立ち上げ、自社のブランド事業として再スタートを切りました。
いままでは製品をインポートしていたのが、自社で製品を作る方向にシフトしたのですね。
そうなんです。実はもともと製品の仕入れ先だった海外のブランドがりんごやパイナップルを原料にしたバイオレザーを使って製品化を始めていて、これは面白いなと思ったんです。
そこで最初はイタリア製のアップルレザーを仕入れて、企画した商品を販売することからスタートしました。しかし、そのうちにお客さまから「いつか日本のりんごでもアップルレザーを作ってほしい」という要望を受け取ることが多くなり、最終的には国産のアップルレザーを青森県のJAと国内の老舗のメーカーと一緒に企画し、製品として展開できるまでに至りました。
アップルレザーの原料として使用しているのは、主にリンゴジュースを作るときに出る残渣だそうですね。
日本で一番多くのリンゴジュースを生産する工場が青森にあり、その製造工場の方とのご縁をいただきました。リンゴの搾りかすは乾燥、発酵を経て飼料や堆肥に転用していたそうですが、それでも使いきれない部分があり、これまで余ったものはお金を払って廃棄してきたという背景があったんです。その活用方法を見出したいという趣旨から、青森県庁の方にJAアオレンをご紹介いただきました。
老舗の合成皮革メーカーに対しては、企画書を作って熱心に説得を試みたことで、プロジェクトを推進することができました。やはり新しいことなので最初はビジネスの持続性などの懸念点もあり、私たちが継続的に想いを伝えていくことで、ようやく賛同いただきました。大変光栄なことです。
アップルレザーを作る工程について教えてください。
まず搾りかすを乾燥させるのですが、JAアオレンにはすでに乾燥済みのものがあるためそれを購入し、合皮メーカーでさらに細かいパウダーにしてもらって、ポリウレタン系の樹脂と合成して製造します。
25%ほどのりんごパウダーを入れてもらっています。できるだけ多く入れたいところですが、入れすぎるとリンゴの糖分が出てベタついてしまうなど、天然原料だからこその課題もあるんです。また、今後はウレタン系の樹脂も植物由来の樹脂に少しずつ置き換えていけるよう改良を重ねていきたいと考えています。
やはりそこは環境のことを考えつつ、すぐれた品質のものを作ろうというこだわりなのですね。
そうですね。素材の品質の話でいうと、一般的な合成皮革は2~3年でポロポロと劣化してきてしまうイメージを持たられがちですが、国産のアップルレザーに関しては加水分解に対して、10年以上の耐久性を専門機関の試験を通して実証することができたんです。
動物のレザーにも劣らない耐久性を有しているのであれば、より環境にも配慮したものを選びたいですよね。ものづくり企業として、やはり長く愛着を持って使ってもらうことこそ本質的なサステナブルだと信じています。
アップサイクルが環境保全につながるのは言うまでもありませんが、今後気候変動が進み、廃棄作物が増えたときに生産者の収入を助けるひとつの方法にもなります。アップサイクルを広めていくうえで、唐沢さん自身の苦労やそこから生まれるアドバイスなどがありましたら教えていただけますか?
この事業を始めてから、たくさんの生産者から相談をいただきました。しかし正直、私たちだけの力だと限界があります。
ファーストステップとして、出てしまった廃棄物を保存しておけるか、というところがポイントだと思います。JAアオレンのようにプラント内に乾燥機を設置していれば、乾燥物として二次利用が可能です。たとえば自治体がそのような設備投資を行い、地域で共有することができれば各社の課題が解決できアップサイクリングの可能性が広がっていくかもしれませんね。
また、最も重要なのは出口の設計だと思います。アップサイクリングといっても生産するわけですから、その商品が売れなくてはまた無駄になってしまうかもしれません。アップサイクリングのアイデアだけではなく、デザイン性や機能性などを含めた付加価値設計を前提に企画を進めていくことが大切だと思っています。
今後の展望について教えてください。
私たちのヴィジョンは「日本一優しい会社」になることです。環境や動物に優しいだけではなく、違いを受け入れる「優しさ」から新しい付加価値を創造していきたいと考えています。 そして事業活動の中で、冒頭でお話ししたような「畜産業由来の社会課題」の解決に寄与できれば、それが私たちのたしかな存在意義になると思っています。
この記事は2024年6月2日の取材に基づいています。
(2024年11月14日掲載)