気候変動により深刻化する農林水産業への影響
米、果物、家畜、水産物など、既にさまざまなものへの影響が生じています。
米の収量変動や品質の低下
気温の上昇により、お米の品質の低下が全国で確認されています。例えば、下の写真のように、イネが発育する時期に高温になると、でんぷんが不足し玄米が白く濁った「白未熟粒」が増え、稲穂が出てくる時期に高温になると、胚乳の部分に亀裂が入った「胴割粒」が発生することが明らかになっています。

(出典:令和3年地球温暖化影響調査レポート(農林水産省))
果物の品質低下や出荷時期の変動
気温の上昇などにより、いろいろな果物の品質の低下や出荷時期の変動が確認されています。例えば、ぶどうについては、収穫する時期に高温になると、着色が良くなかったり、遅れたりするなどの現象が起こっています。りんごについては、このような着色不良・着色遅延とともに、収穫する時期の高温や少雨によって「日焼け」といった現象も起こっています。その他、かんきつでは浮皮や生理落果、にほんなしでは発芽不良など、さまざまな影響が現れています。

(出典:平成30年地球温暖化影響調査レポート(農林水産省 ))
気温上昇などによる家畜への悪影響
家畜によって暑さを感じる温度は違うと考えられていますが、気温が上昇することで、えさを食べる量や、えさを消化吸収する能力が低下し、育ちが悪くなるといった悪影響が現れています。
例えば、肉用の牛や豚、鶏では、肉の量・質の低下、繁殖機能の低下などが起こっており、乳用の牛では乳量・乳成分の低下が、卵用の鶏では産卵数の減少や卵の質の低下などが起こっています。

(出典:みどりのチェックシート(畜産)参考資料集(農林水産省))
水温上昇などによる水産物への悪影響
海水温の上昇は、世界全体の漁獲可能量を減少させた要因の1つと言われており、日本周辺の海域でも、既に主要な水産物である魚介類の分布域の変化が見られています。
養殖業においても影響が見られ、高水温により、ホタテ貝やカキが死んでしまったり、ノリの生育不良や海水温の低下が遅れることで収穫期間が短縮するといったことが起きています。

(出典:農林水産省、高水温に適応した養殖ノリの育種技術)
今後さらに悪影響が拡大するかも
ここまでお米や果物、家畜、水産物に関して、現在までの状況について触れてきましたが、これらは、将来、さらに悪影響が拡大する可能性があります。
お米の収量について、気温上昇が進むと、全国的に 2061~2080年頃までは全体として増加傾向にあるものの、21世紀末には減少に転じることや、品質の低いお米の割合が増加することが予測されています。さらに、強雨の増加により特に出穂期前後でイネの冠水頻度が増える、あるいは、融雪時期の早まりにより田植え期前の融雪水が減少して農業用水が不足するといった要因で、お米の収量が減少する可能性があります。果物は、既に生じている品質の低下や出荷時期の変動といった影響が一層強くなることや、りんごやみかんといった一部の果物は栽培が困難になる地域が広がることが予測されています。
家畜についても、さらなる気温の上昇により、成長が低下する地域が拡大することが予測されており、2060年代には、北海道の一部や標高の高い山間部を除く大半の地域で成長が低下するとされています。
水産物については、水温の上昇によって、サケ・マス類で特に夏の分布域の減少が予測されています。また、ブリでは分布域の北方への拡大が予測されている他、既存産地における品質低下が危惧されています。