「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

各分野の気候変動影響と適応

水環境・水資源

気候変動が進むと、水温の上昇や水質の悪化が生じ、また、少雨が続くことにより日本各地で渇水が発生するとされていますが、具体的にどのような影響を与えるのでしょうか。
本項では、水環境や水資源に関する分野において、これまでにどのような影響が現れていて、また今後どのような影響が起こる可能性があるかについて、学んでいきます。

水温上昇や渇水による水環境・水資源への影響

気候変動が促進させる水温上昇や渇水が河川や湖などの水環境や水資源にさまざまな影響を及ぼしている可能性があります。以下に、事例とともに紹介します。

水温上昇により生じている変化

諏訪湖が全体的に凍結した際、南から北の岸へかけて氷が裂け、高さ30cmから1m80cmほどの氷の山脈のようなものができます。これは御神渡りと呼ばれ、諏訪神社上社の男神が下社の女神のもとへ通った道筋と言われています。
ただ、近年の水温上昇により、全体的に凍結しない「明けの海」となることが増えています。1980年代後半以降は4年に1回程度しか観測されておらず、直近に観測された御神渡りは2018年です。2024年も立春の2月4日に「明けの海」が宣言され、6年連続となりました。

諏訪湖の御神渡り
諏訪湖の御神渡り

水温上昇に伴って水質が悪化する河川や湖

近年、植物プランクトンの大発生により、水面が緑色のペンキを流したような状態になるようなアオコという現象が問題になっています。アオコが発生すると、やがてほとんどが死んで腐り、ダムなどに発生した場合には、そのダムの水を利用した水道の水が臭くなるほどとても嫌な臭いを出します。アオコを形成する種である植物プランクトンの成長は、気温が上昇することで大幅に増加することが確認されています。
気候変動により河川や湖などの水温が上昇することに伴って、植物プランクトンの発生が増えることなどを通じて、水質が悪化する可能性があります。21世紀末には、アオコ発生の原因となる藻の優占する(他の種よりも量が多くなる)期間が、現在よりも約2ヶ月長くなる可能性があり、アオコが問題となる期間が長期化する可能性があることが予測されています。

水面を覆うアオコ(顕微鏡写真は猛毒と言われるアオコの一種)
水面を覆うアオコ(顕微鏡写真は猛毒と言われるアオコの一種)
(出典:いま地球がたいへん!―環境を守るNIESのかつやく―(国立環境研究所))

少雨が続くことによる渇水の発生や給水制限

気候変動によって、雨が多く降る時期と少ない時期との差や、雨が集中して降る場所と、少ない場所との差が増加するなど、時期的・空間的なバラつきが大きくなっています。長期間雨が降らなかったり、降ったとしても少しだけだったりすると、水道水源であるダム湖などの水が不足することがあります。近年、日本各地で渇水が発生し、給水制限などが実施されています。
例えば、平成28年には全国的に渇水が発生しました。関東地方では群馬県や栃木県の冬の積雪量が極端に少なかったこと、中国・四国地方では夏の降雨量が極端に少なかったことなどが原因と言われています。関東の利根川水系や四国の吉野川水系などでダムの貯水量が急激に減少したことから、特にこれらの地域において、渇水への危機感が高まりました。この渇水に気候変動がどの程度影響したかはわかっていませんが、今後渇水の頻度や規模が増加するとこのような事態が発生するリスクが高まることが考えられます。

平成28年渇水における全国の渇水状況
平成28年渇水における全国の渇水状況
(出典:平成28年渇水について(国土交通省))

積雪量の減少や融雪時期の早期化による灌漑用水の不足

下のグラフに示すように、東日本の日本海側の降雪量は減少傾向にあります。気温の上昇によって冬季の降雪の頻度が減ったり積雪量が減少したり、また春先の雪解けの時期が早まったりもしています。
これらのことは、春先に河川水を農業用水として使う時期に、十分な量の水を供給できない原因にもなっています。例えば、新潟県の阿賀野川流域では、冬季に融雪した量が増加したことにより、本来積雪で蓄積されるはずの水の量が4月に減少したと報告されています。
将来、冬期の気温上昇により降雪量が減ると、例えば石川県の手取川流域では、特に早春におけるかんがい用水がさらに不足することが予測されています。また、融雪する時期がさらに早まり、必要な時期に河川流量が減少すると、農業用水だけでなく水道水や工業用水など多くの分野に影響が発生する可能性があります。

東日本 日本海側における日降雪量 20cm 以上の年間日数の変化傾向
東日本 日本海側における日降雪量 20cm 以上の年間日数の変化傾向
(出典:気候変動監視レポート 2023(気象庁))

本項では、水環境・水資源について、気候変動による影響のメカニズムとともに、現在までにどのような影響があって、今後どのような影響が起こる可能性があるかについて、学んでいきます。

水環境・水資源分野における気候変動影響のメカニズム

水環境・水資源分野における気候変動による影響のメカニズムは、下図のように想定されています。

気候変動により想定される影響の概略図
気候変動により想定される影響の概略図
(出典:気候変動影響評価報告書詳細(環境省))

気候変動による気温の上昇は、湖沼やダム貯水池、河川、沿岸域や閉鎖性海域の水温を上昇させ、水質にも影響を及ぼす恐れがあります。また、降水パターンの変化は、ダム貯水池や河川への土砂流入量を増加させ、沿岸域や閉鎖性海域では、河川からの濁質の流入増加も懸念されます。
水資源分野においては、気候変動により降水パターンが変化すると、無降水日数の増加や積雪量の減少、蒸発散量の増加などにより、河川流量の減少や地下水位の低下を引き起こします。暑い夏の時期には農業用水・都市用水等の需要量が増加しますが、冬季の降雨の増加、積雪量の減少、融雪時期の早期化などにより、需要期に水が不足する可能性が懸念されます。また、海面水位の上昇は、河川河口部や地下水において塩水遡上範囲を拡大させ、塩水化を引き起こします。
これらの影響は、農業生産基盤や自然生態系、国民生活等の他分野にも影響を及ぼします(気候変動影響評価報告書p. 81を一部改変)。

水環境や水資源の現在の影響と将来予測

水温上昇に伴って水質が悪化する河川や湖

過去30年間において、全国の河川や湖沼、海域などの4,477 地点のうち、夏季では72%、冬季では82%で水温の上昇傾向が確認されています。

地方別の過去30年間の水温変化(全地点の水温変化の平均値)
地方別の過去30年間の水温変化(全地点の水温変化の平均値)
(出典:気候変動による水質等への影響解明調査(環境省))

そのような中、例えば日本最大の湖である琵琶湖において、生物にとって必要な「溶存酸素濃度(水中に溶けている酸素の濃度)」が減少しています。
春から秋にかけては、湖水が湖面から温められていくことで、表層と深層との間に水温が急激に変わる「水温躍層」が形成されます。水温躍層が形成されると、上下方向に水が混ざらなくなり、水温躍層より下への溶存酸素の供給が滞るとともに、深層ではプランクトンの死骸の分解や生息生物の呼吸などにより、溶存酸素の消費が進みます。通常、冬にかけて表層の温度が低下すると、湖水が鉛直方向に深層まで十分に混ざり水温が表層水から深層水まで同じになる「全循環」という現象が起き、酸素を十分に含んだ表層の水が深層まで供給されます。しかし、気候変動によって暖冬になりやすくなり、表層の温度が十分に低下しないと、全循環が生じなくなってしまい、低層の溶存酸素が回復せず、酸素が不足しやすくなることが指摘されています。実際に、琵琶湖深湖底の溶存酸素濃度には減少傾向が見られ、近年では低酸素化の発生頻度が高まっています。

湖における「全循環」とその変化(暖冬においては全循環が十分に行われない)
湖における「全循環」とその変化(暖冬においては全循環が十分に行われない)
(出典:気候変動による湖沼の水環境への影響評価・適応策検討に係る手引き(環境省))
琵琶湖深湖底の溶存酸素濃度年最低値
琵琶湖深湖底の溶存酸素濃度年最低値
(出典:深湖底の溶存酸素濃度減少(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター))

将来、水温上昇に伴う水質の悪化は、さらに顕著になることが予測されています。
例えば、荒川の上流にある浦山ダムでは、将来、表層・中層・低層いずれにおいても水温の上昇が予測され、生物に必要な溶存酸素濃度(DO)が低くなると予測されており、それ以外も、水質悪化の原因物質である浮遊物質量(SS)や全窒素(TN)、全リン(TN)などが増加することも予測されています。

浦山ダムの表層・中層・底層における現在値と将来値の平均値とその変動範囲
浦山ダムの表層・中層・底層における現在値と将来値の平均値とその変動範囲
(出典: 浦山ダムにおける気候変動に伴う長期間の将来水質予測(崔貞圭ら、2014))

少雨が続くことによる渇水の発生や給水制限

近年、短時間強雨や大雨が発生する一方、年間の降水の日数は逆に減少しており、少雨が続くことによって、毎年のように給水が制限される渇水が生じています。最近30年間において、渇水に伴う上水道の減断水が全国的に発生しており、特に、四国の一部地域では30年間に8年以上発生していることが分かります。

最近30か年(1992~2021年)で渇水による上水道の減断水が発生した年数
最近30か年(1992~2021年)で渇水による上水道の減断水が発生した年数
(出典: 水資源を巡る情勢の変化(国土交通省))

気候変動が進むと、今世紀末には北海道や東北地方日本海側、九州西部などでは水資源量が増加する一方で、紀伊半島東部や中部山岳地域、伊豆半島などで大幅に水資源量が減少するという予測もあります。これは、降水量から蒸発散量を差し引いた水資源量を、河川流域ごとに予測シミュレーションした結果に基づくもので、河川流域によって、水資源量が増加基調、減少基調、増加と減少を繰り返す紆余曲折型など、さまざまなパターンが予測されています。結果として、水資源量の増加が予測される地域と減少が予測される地域が混在していており、将来のさまざまな地域における水資源量の変動が危惧されています。

2099年における水資源量と現在の水資源量との差
2099年における水資源量と現在の水資源量との差
(出典: 超高解像度気候モデルと将来土地利用変化を用いた日本の水資源量の長期変化予測(田中賢治、2021))

積雪量の減少や融雪時期の早期化による灌漑用水の不足

多雪地域である北陸などでは、冬季の気温上昇により、雪が雨に変わりやすくなることで、降雨の増加とともに積雪量の減少や、融雪時期の早期化が生じ、冬季における融雪量が増加することが報告されています。それらにより、春先の灌漑用水が不足することが懸念されています。例えば、代かき期(種まきから30日程度後に、田に水を入れて土を砕いてかきならす時期)などの水の需要期に河川流量が減少し、従来の水利用パターンとのミスマッチが発生するとことが示されています。日本全国336流域を対象とした農業水利用への影響評価によると、2081~2100年の代かき期で、東北や北陸地域などの北日本においてはRCP2.6シナリオでも利用可能な水量が減少するとともに、RCP8.5シナリオでは近畿や中国地域などの西日本や北海道でも減少することが予測されています。

3つのRCPシナリオにおける代掻き期の10年間の干ばつ流量に関する全国的な評価結果
3つのRCPシナリオにおける代掻き期の10年間の干ばつ流量に関する全国的な評価結果
(出典: Nationwide assessment of the impact of climate change on agricultural water resources in Japan using multiple emission scenarios in CMIP5(Kudo et al、2017))

適応策

インフォグラフィック

水環境・水資源分野における影響の種類ごとに、代表的な適応策の特徴とその進め方を、イラスト付きでわかりやすく紹介しています。

国内外の事例

水環境・水資源分野の適応に向けた実際の取組事例を紹介しています。

国や自治体、その他公共機関等による適応の取組事例

事業者による適応の取組事例

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