COP31 | Antalya Türkiye

COPと適応の歩み

COPとは、Conference of Parties(締約国会議)の略で、多くの国際条約が、その加盟国が物事を決定するための最高決定機関として設置しています。気候変動問題の文脈でCOPといえば、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国会議のことを指します。1997年第3回目の会議(COP3)で採択された京都議定書では2020年までの目標が定められ、2015年第21回の会議(COP21)では、2020年以降の取り組みを決めるパリ協定が採択されました。ほぼ毎年、その実現のために、必要に応じた追加の議論や取り組みの進捗確認が行われています。

当初は締約国の国際会議でしたが、世界共通の課題である気候変動の取り組みに全てのステークホルダーを巻き込む重要性から、近年は地方自治体やNGO、民間企業などの非国家アクターの参加も促され、活発な参加が見られるようになりました。COP30時点では、3,907のNGOがUNFCCCのオブザーバー組織として承認されています。

気候変動への適応に関する取り決めとしては、パリ協定第7条において、「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation:GGA)」が、世界で目指すべき適応の目標として定められました。2023年UAEのドバイで開催されたCOP28では、GGAを具体化するため、「グローバルな気候レジリエンスのためのUAEフレームワーク」が採択され、7つのテーマ別目標と4つの適応政策プロセス別目標が設定されました。2025年にブラジルのベレンで開催されたCOP30では、2年間の指標に関するUAE-ベレン作業計画の成果として、59の「ベレン適応指標(Belém Adaptation Indicators)」が採択されました。

COP30ではさらに、ベレン適応指標を今後運用していくための2年間の「適応に関するベレン・アディスビジョン」が設けられるとともに、COP29で設置された「バクー適応ロードマップ(BAR)」について、GGAの実施をより広く促進することを目的に、2026~2028年を第1フェーズとして進めることが決まりました。2026年のCOP31では、こうした枠組みの下で、採択された指標をどのように改善・活用し、GGAの実施を具体的な適応行動につなげていくかが主要な論点となります。

パリ協定第7条1項

締約国は、第2条に定める気温に関する目標の文脈において、持続可能な開発に貢献し、及び適応に関する適当な対応を確保するため、この協定により、気候変動への適応に関する能力の向上並びに気候変動に対する強靱性の強化及びぜい弱性の減少という適応に関する世界全体の目標を定める

⇒ より詳しくは:「ココが知りたい地球温暖化 気候変動適応編:Q8. 適応に関する世界全体のとりきめはあるのでしょうか?」へGo!

COP31開催概要とスケジュール

トルコとオーストラリアが担う、新たな開催体制

COP31は、2026年11月9日(月)から20日(金)まで、トルコ・アンタルヤのAntalya EXPO Centerで開催されます。COP31の大きな特徴のひとつが、開催国・トルコとオーストラリアが役割を分担してCOPを運営する新たな体制です。通常のCOPでは、COP議長が会議全体と交渉プロセスを主導しますが、COP31では、トルコが開催国としてCOP31議長(COP31 President)を務める一方、オーストラリアの代表が交渉議長(President of Negotiations)として政府間交渉を主導します。この体制はCOP30で正式に歓迎されたトルコ・オーストラリア間の合意に基づくものです。

トルコは、COP31議長国・開催国として、アンタルヤでの会議全体や11月11~12日に予定される世界首脳サミット(World Leaders’ Summit)を主催するとともに、グローバル気候行動アジェンダ(Global Climate Action Agenda)を主導します。気候行動アジェンダは、政府間交渉と並行して、企業、自治体、市民社会、国際機関などの非国家主体による具体的な気候行動を加速させる取組です。COP31議長国であるトルコは、COP30で強化された交渉から実施へという流れを引き継ぎ、COP31をパリ協定の約束を具体的な成果につなげるための「実施」に重点を置くCOPとして位置づけています。

一方、オーストラリアの気候変動・エネルギー大臣Chris Bowen氏がCOP31交渉議長(President of Negotiations)に任命され、COP31期間中の政府間交渉を主導します。両国間の合意では、交渉議長にはCOP31の交渉を主導する権限が委任されることが明記されています。オーストラリアは太平洋島嶼国とも連携しながら、各国との協議や交渉プロセスを進める役割を担います。

COP31運営における主な役割分担
主体 COP31における主な役割
トルコ COP31開催国・COP31議長。アンタルヤでCOP31および世界首脳サミットを開催し、グローバル気候行動アジェンダを主導。
オーストラリア 交渉議長としてCOP31の政府間交渉を主導。トルコと協議しながら各国との交渉プロセスを進める。
フィジー・ツバル等の太平洋地域 COP31に先立つPre-COPをフィジー、リーダーズイベントをツバルで開催し、太平洋地域の課題や解決策をCOP31プロセスに反映。

COP31に先立ち、10月5~8日には、Pre-COPとして、フィジーとツバルでリーダーズイベント、フィジーで閣僚級準備会合やステークホルダー向けプログラムが開催されます。オーストラリアと太平洋島嶼国とのパートナーシップを通じ、1.5℃目標、気候資金へのアクセス、海洋と気候の関係、太平洋地域の声とリーダーシップなどが主要テーマとして掲げられています。こうした準備プロセスを経て、11月のアンタルヤでは、トルコが主導する気候行動アジェンダと、オーストラリアが主導する政府間交渉という二つの柱を軸にCOP31が進められることになります。

適応、損失と損害の交渉議題およびスケジュール

アンタルヤでは、11月9日にCOP31(国連気候変動枠組条約第31回締約国会議)、パリ協定第8回締約国会合(CMA8)、京都議定書第21回締約国会合(CMP21)、科学上及び技術上の助言に関する補助機関第65回会合(SBSTA65)、実施に関する補助機関第65回会合(SBI65)が開会し、政府間交渉が開始されます。SBSTA65・SBI65は11月14日に作業を終え、その成果をCOP31やCMA8等に送付する予定です。COP31、CMA8、CMP21は、11月20日の閉会に向けて最終的な合意形成を進めます。

本会議での交渉議題は、適応分野では、適応に関する世界全体の目標(GGA)をはじめ、適応委員会(AC)の報告・レビュー、国別適応計画(NAP)、適応コミュニケーション(ADCOM)、後発開発途上国(LDC)に関する事項、などが挙げられています。損失と損害については、気候変動影響に伴う損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム(WIM)とサンティアゴ・ネットワーク(SN)の共同年次報告がSBSTA・SBIの双方で扱われるほか、COP31・CMA8でもWIMが議題となります。また、COP31では損失と損害対応基金(FRLD)に関する報告・ガイダンスも正式議題に含まれています。

COP31交渉議長のChris Bowen氏とトルコのCOP31議長候補Murat Kurum氏は、COP31を「実施」に重点を置く会議と位置づけ、交渉についても包摂的、透明、締約国主導のプロセスを通じて、実施の加速と具体的成果につなげる方針を示しています。特に適応については、GGAの実施を強固な科学・技術的基盤の下で進め、損失と損害では基金の初期資金プロセス、SN、WIM執行委員会の取組を通じて具体的な進展を目指すとしています。

多様な主体による気候行動の促進

前述のグローバル気候行動アジェンダ(Global Climate Action Agenda)では、COP30で打ち出された2026~2030年の5か年ビジョンを引き継ぎ、新たな約束を増やすことよりも、既存の目標や取組を具体的な実施につなげることに重点が置かれています。トルコ議長国は、この取組を10の優先テーマに整理するとともに、会期中の各日にテーマ別デーを設定しています。

COP31のテーマ別デー
日程 テーマ
11月9日 食料・農業・健康
11月10日 エネルギー・交通
11月11日 廃棄物ゼロ(Zero Waste)/世界首脳サミット1日目
11月12日 レジリエントな都市・建築環境/世界首脳サミット2日目
11月13日 資金・貿易
11月14日 子ども・若者・教育・スキル
11月15日 A Breath in Antalya(社会・文化プログラム)
11月16日 科学・産業・技術
11月17日 海洋・海・自然・土地利用:リオ3条約のシナジー
11月18日 人間・社会開発
11月19日 İmece:実施の強化
11月20日 最終交渉

適応の観点からは、とりわけ11月12日の「レジリエントな都市・建築環境」が注目されます。都市のレジリエンス、災害リスク管理、地方自治体、自然を活用した解決策(NbS)、レジリエントなインフラなどが扱われる予定です。また、11月17日には沿岸レジリエンス、海洋・沿岸生態系、生物多様性、生態系再生などが扱われ、11月18日には脆弱な人々、伝統・地域知、生計など、適応と密接に関係する社会的側面が議論されます。11月19日の「İmece:実施の強化」では、トルコ語で共同体による協働・共同作業を意味する「İmece」の考え方のもと、制度・技術能力、投資可能なプロジェクト、資金アクセスなど、各国の気候計画を具体的な実施につなげるための課題が取り上げられる予定です。

グローバル気候行動アジェンダ自体も、適応との関係が強くなっています。COP31議長国が掲げる10の重点テーマには、「気候レジリエントな都市」のほか、「海洋と海」「食料安全保障」「強靱で機動的な保健システム」、各国のNDCやNAP等を投資・実施につなぐ「気候行動実施への橋(Climate Implementation Bridge:CIB)」などが含まれています。

また、交渉や首脳級会合が行われる会場のブルーゾーン(Blue Zone)※内では、各国政府や国際機関等が設置するパビリオンでも多くのイベントが開催されます。日本政府も、COP31会期中に「Solutions to The World」をテーマとするジャパン・パビリオンを設置し、脱炭素化や気候変動への適応に資する日本の技術・製品・サービス等を現地およびオンラインで発信します。
※この他、主に民間企業やNGOなど一般参加者も参加できる公開エリアのグリーンゾーン(Green Zone)があります。

さらに、適応・レジリエンスに特化した国際的な連携の場として、Resilience Hubも11月9~20日にBlue Zoneで開催されます。COP31では「ALL IN Pavilion」として他のパートナーと共同展開し、「実行につながる資金(finance that delivers)」を中心テーマに、適応・レジリエンスの優先課題に必要な資金をいかに確保するかを議論します。具体的には、①国別適応計画(NAP)等の優先課題を資金戦略や投資可能な事業パイプラインにつなげること、②目的や地域の状況に応じた適切な資金・金融手段を組み合わせること、③レジリエンスの成果を示すためのエビデンス、測定、健全性を高めること、という3つの柱を中心にプログラムが展開される予定です。

適応:目標と計画から実施加速へ

適応に関する世界全体の目標(GGA)の実施とバクー適応ロードマップ(BAR)

パリ協定第7条1項で定められた「適応に関する世界全体の目標(Global Goal on Adaptation:GGA)」は、各国の適応能力の向上、気候変動に対する強靱性の強化、脆弱性の低減を世界全体で目指すものです。COP28では、このGGAを具体化するため、「グローバルな気候レジリエンスのためのUAEフレームワーク」が採択され、7つのテーマ別目標と4つの適応政策プロセス別目標が設定されました。その後、これら11の目標に向けた進捗を把握するための指標づくりが進められ、COP30では59の「ベレン適応指標」が採択されました 。これにより、GGAの達成に向けた進捗を評価するための基本的な枠組みが整い、議論の焦点は、採択された指標をどのように実際の進捗評価に用いるかという段階へ移っています。

一方、ベレン適応指標は完成した最終的な仕組みではなく、メタデータや算定方法、各国の状況に応じた適用、既存の報告制度との関係など、さらに技術的な整理が必要です。また、指標は各国を比較・評価するためのものではなく、各国主導の適応を尊重しつつ、GGAに向けた世界全体の進捗を把握するために用いられることが想定されています。こうした指標の運用・改善を進めるため、COP30では2年間の「適応に関するベレン–アディスビジョン」が設けられました。2026年6月のSB64では、指標の技術的作業を支援するタスクフォースの構成や役割などについて合意に至らず、COP31で引き続き検討されることとなっています。COP31では、ベレン適応指標をGGA達成に向けた世界全体の進捗評価にどのように用いるか、そのための技術的作業を誰が、どのような体制と方法で進めるかが重要な論点となります。

これと並行して、GGAの実施をより広く促進するプロセスとして「バクー適応ロードマップ(Baku Adaptation Road Map:BAR)」が進められています。BARはCOP29で立ち上げられ、COP30では2026~2028年を第1フェーズとして、年2回のワークショップ等を通じてGGAとUAEフレームワークの実施を促進することが決定しました。2026年6月の第1回ワークショップでは、UNFCCCの既存の適応制度の連携や、資金・技術・能力構築などの「実施手段(MoI)」へのアクセスが議論されました。9月の第2回ワークショップでは、UAEフレームワークの4つの適応政策プロセス別目標に沿って、リスク評価、適応計画、実施、モニタリング・評価・学習(MEL)等について議論が行われました。とりわけ、異なる温暖化水準を想定したリスク評価をNAPや具体的な適応行動にどう反映するかが取り上げられ、温暖化の進行に応じて必要な適応や支援も変化し得るという論点が示されました。

COP31では、ベレン–アディスビジョンの下でベレン適応指標をどのように改善・運用していくかに加え、BARを通じてGGA全体の実施をどのように促進するかが重要な論点となります。これまでGGA交渉では、目標や指標を具体化する作業に大きな比重が置かれてきましたが、今後は、ベレン適応指標を用いてGGA達成に向けた世界全体の進捗をどのように評価し、その結果を2028年の第2回グローバル・ストックテイク(GST2)にどのようにつなげるかが重要になります。そのうえで、こうしたグローバルな進捗評価を各国の適応政策サイクルにどのように還元していくかも課題となります。COP31では、「何をどう測るか」という指標の議論に加え、世界全体の適応をどのように実施・加速していくかという議論が、これまで以上に重要になると考えられます。

国別適応計画(NAP)の実施加速と支援

COP30では、2024年から続いていた国別適応計画(National Adaptation Plan:NAP)の策定・実施プロセスに関する進捗評価(アセスメント)が完了し、NAPを「策定する」段階から「実施する」段階へ移行していく方向性が改めて確認されました。COP30結果記事でも紹介したとおり、途上国によるNAPの策定・提出は着実に進展している一方、資金、技術、能力、データ等の不足や、承認された資金が実際に提供されるまでの遅れなどが、実施上の課題として残されています。COP30では、次回のNAPプロセスの進捗評価を2030年に行うことが決定されるとともに、NAPがUAEフレームワークの目標を達成するための主要な経路の一つであることも確認されました。

COP31では、実施に関する補助機関会合(SBI65)の正式議題として「国別適応計画(NAP)」が引き続き扱われます。COP30決定では、先進国から途上国に提供されたNAP関連支援の状況を整理し、2026年のSBI65で検討することが要請されました 。COP31では、2030年までのNAP実施という目標を見据え、実施上のギャップやニーズを確認するとともに、NAPの実施を支える資金・技術・能力構築等を、この議題の中でどのように扱うかが引き続き注目されます。

NAPは、同じSBI65で扱われる「後発開発途上国(Least Developed Countries:LDC)に関する事項」とも密接に関係しています。これは、LDCが特に高い気候脆弱性や実施能力上の制約を抱えることを踏まえ、2001年に設置されたLDC専門家グループ(LEG)が、現在もLDCのNAP策定・実施に関する技術的ガイダンスや支援を主要な役割の一つとして担っているためです。LEGのマンデートはCOP36まで延長されており、COP31はその中間レビュー年に当たります。このため、LEGの現在の役割がLDCのニーズに十分対応しているかが検討される予定です。COP31では、NAPの実施段階へ移行するLDCに対してLEGがどのような技術支援を提供すべきか、その役割と他の支援・資金制度との関係も論点となる可能性があります。

こうした正式なUNFCCC交渉とは別に、NAPの実施を後押しする実施志向の取組として、Belém Mission to 1.5も進められています。これはUNFCCCの交渉議題ではなく、COP29、COP30、COP31の議長体制を担うアゼルバイジャン、ブラジル、トルコ、そしてCOP31で交渉議長を務めるオーストラリアが共同で主導するイニシアティブです。COP30の「グローバル・ムチラオ決定(Global Mutirão Decision)」(いわゆるカバー決定)を受け、各国のNDCとNAPの野心・実施を加速するとともに、国際協力や投資を強化するための機会、障壁、解決策を整理することを目的としています。COP31では、このような交渉外の取組と、NAP・LDC議題の下で進む正式な交渉の双方を通じて、各国がNAPで特定した優先課題を具体的な適応行動や必要な支援へどのようにつなげていくかが注目されます。

適応情報の国際報告と、適応コミュニケーション(ADCOM)・パリ協定第13条に基づく強化された透明性枠組み(ETF)・グローバル・ストックテイク(GST)

パリ協定第7条では、各国が自国の適応の優先事項、計画、実施状況、支援ニーズ等に関する情報を、「適応コミュニケーション(Adaptation Communication:ADCOM)」として、各国の事情に応じて定期的に提出・更新することとされています。ADCOMは、各国の適応行動やニーズの可視性と透明性を高め、国際的な情報共有を促進するための仕組みであり、独立した文書としてだけでなく、国別適応計画(NAP)、国が決定する貢献(NDC)、隔年透明性報告書(BTR)等の一部として提出することもできます。ADCOMの作成・提出に関する現在のガイダンスは、2018年のCMA1で採択された決定9/CMA.1に基づいています 。

ADCOMは、パリ協定第13条に基づく強化された透明性枠組み(Enhanced Transparency Framework:ETF)やグローバル・ストックテイク(Global Stock Take: GST)とも密接に関係しています。ETFの下では、各国が原則2年ごとにBTRを提出し、その中で適応に関する情報を報告することができます。ADCOMをBTRの一部として、またはBTRと併せて提出することも可能です。こうして各国から提出された適応情報は、5年ごとに行われるGSTでも考慮され、世界全体の適応行動を強化するための材料となります。第1回GSTは2023年に完了しており、現在はETFの本格運用が進むとともに、2028年に予定される第2回GSTに向けて、適応に関する情報をどのように収集・整理し、活用していくかが重要になっています。

COP31では、ADCOMの作成・提出に関するガイダンスの見直しを、いつ、どのように進めるかが引き続き議論されます。現行ガイダンスは、2025年にガイダンスの適用状況を踏まえてレビューし、必要に応じて改訂することとされていましたが、SB62では見直し自体を延期することでは一致したものの、その時期について合意に至らず、議論が持ち越されました。今後は、ADCOMとBTRを含む既存の報告制度との重複を避けつつ、ETFの報告ルールや2028年のGSTとの整合性をどのように確保するかが重要になります。COP31では、各国の報告負担にも配慮しながら、ADCOMが適応に関する情報共有とGSTへのインプットとして有効に機能するためのガイダンスのあり方について、どのような議論が行われるかが注目されます。

海洋・山岳・農業分野における適応の議論

COP31では、海洋と気候変動の関係にも高い関心が集まる見込みです。交渉議長を務めるオーストラリアは、太平洋島嶼国と進めるCOP31 Pacific Partnershipや海洋特使(Ocean Envoy)の任命等を通じ、海洋・沿岸域のレジリエンスを重視しています。一方、UNFCCCでは毎年「海洋と気候変動に関する対話(Ocean and Climate Change Dialogue)」が開催されており、2026年8月に公表された共同ファシリテーター報告書では、海洋関連の取組をNDC等の国の気候政策に組み込むこと、資金・技術・能力構築へのアクセスを改善すること、気候・海洋・生物多様性政策の連携を強化すること等がCOP31に向けた主要メッセージとして整理されました。この報告書自体が独立した交渉議題として採択されるものではありませんが、COP31における海洋関連の議論や取組を検討する際の重要なインプットとなります。

山岳については、COP30のマンデートに基づき、2026年6月のSB64で「山岳と気候変動に関する対話(Dialogue on mountains and climate change)」が開催されました。対話では、氷河融解や水循環の変化などの影響が山岳地域にとどまらず、下流域の水資源、農業、エネルギー、生計等にも波及することや、山岳地域特有の適応ニーズ、科学・観測、実施手段へのアクセスなどが議論されました。現時点では対話のサマリーレポートはまだ公表されていませんが、COP30決定に基づき、その内容はCOP31への報告に反映される予定です。COP31では、山岳課題をUNFCCCの下で今後どのように継続して扱うか、特に新たな対話等を設けるのか、既存の適応・研究・GST等のプロセスに組み込むのかが注目されます。

海洋・山岳に関する議論が主として対話や既存の作業枠組みを通じて進められているのに対し、農業・食料安全保障はCOP31の正式な交渉議題です。気候変動は、干ばつ、高温、洪水等を通じて農業生産や食料安全保障に直接影響するため、「農業と食料安全保障に関する気候行動の実施に向けたシャルム・エル・シェイク共同作業」の下では、適応とレジリエンスの強化を含め、農業・食料システムを国の政策・計画にどう組み込み、必要な資金・技術・能力構築につなげるかが検討されています。COP31のSBSTA65・SBI65では、2025~2026年のワークショップ報告等を踏まえ、共同作業の進捗と成果をCOPに報告することになっており、農業・食料安全保障分野の適応ニーズを具体的な実施と支援にどう結びつけるかが主要な論点となります。

損失と損害:制度設計から本格運用へ

適応の限界と、損失と損害を支える3つの国際制度

気候変動対策は、温室効果ガスの排出を減らす「緩和」、気候変動の影響に備える「適応」、そして適応によって回避しきれない「損失と損害(Loss and Damage)」という3つの領域に大きく整理することができます。しかし、気候変動の影響が大きくなるにつれ、適応策を講じてもリスクを十分に回避できなくなる場合があります。IPCCでは、このような適応によって許容できないリスクを回避できなくなる境界を「適応の限界(adaptation limits)」として整理してきました 。適応の限界には、資金・技術・制度などの制約を克服できれば対応の可能性が残る「ソフトな限界」と、いかなる適応策を講じてもリスクを回避できない「ハードな限界」があります。特にハードな限界に達する場合には、従来の適応策だけでは対応が困難となるため、計画的移転や非経済的損失への対応なども検討する必要が生じます。

パリ協定第8条は損失と損害に関する協力を定めた条項ですが、パリ協定と合わせて採択された決定1/CP.21第51項では、第8条は法的責任や補償(liability or compensation)の根拠とならないことが確認されています 。そのため、誰がどこまで補償するかという問題とは切り分けて、実際に生じている損失と損害にどのように対応し、支援を届けるかという観点から、UNFCCCの下で制度整備が進められてきました。

損失と損害への対応を進めるため、現在は、政策・知見の蓄積と調整を担う気候変動影響に伴う損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム(WIM)、技術支援を担うサンティアゴ・ネットワーク(SN)、資金支援を担う損失と損害対応基金(FRLD)という、役割の異なる3つの国際的な制度・枠組みが整備されています。

損失と損害への対応を進めるため、現在は、政策・知見の蓄積と調整を担う気候変動影響に伴う損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム(WIM)、技術支援を担うサンティアゴ・ネットワーク(SN)、資金支援を担う損失と損害対応基金(FRLD)という、役割の異なる3つの国際的な制度・枠組みが整備されています。

損失と損害に対応する3つの国際制度
制度 設立・制度上の位置づけ 主な機能
気候変動影響に伴う損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム(WIM) COP19(2013年)で設立 政策調整、知見の蓄積・共有、実施支援
サンティアゴ・ネットワーク(SN) COP25(2019年)にWIMの下に設置 途上国からの要請に基づく、機関・組織・ネットワーク・専門家(OBNEs)による技術支援の仲介
損失と損害対応基金(FRLD) COP27(2022年)で設立、COP28で運用枠組みを決定 特に脆弱な途上国への損失と損害対応の資金支援
損失と損害の英語表記

日本語ではいずれも「損失と損害」と訳されますが、英語では文脈に応じて表記が使い分けられることがあります。例えば、UNFCCCの制度や政策枠組みを指す場合には大文字の “Loss and Damage”、実際に生じる被害や残余リスクを指す場合には小文字の “loss and damage”、複数の損失や被害を表す文脈では “losses and damages” という表現が用いられることがあります。こうした表記の違いには、損失と損害をどのような文脈で捉えるかという交渉上・制度上のニュアンスが反映されています。

気候変動影響に伴う損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム(WIM)をめぐるベレンからアンタルヤへの交渉の軌跡

2025年11月のCOP30(ベレン)では、WIM第3次定期レビューが完了し、WIM執行委員会(ExCom)の今後の機能や作業の強化に関する決定が採択されました。2026年6月のSB64(ボン)では、WIMに関する独立した交渉議題は設定されず、関連する論点は11月のCOP31(アンタルヤ)で引き続き議論されることになりました。

COP31ではトルコが議長・開催国を務め、オーストラリアの交渉議長が政府間交渉を主導します。損失と損害における主要な論点のひとつとして、WIMのガバナンスをめぐる議論が引き続き注目されます。WIMのガバナンスをめぐる議論はCOP22以降続いており、途上国側はCOP(気候変動枠組条約)とCMA(パリ協定)の双方によるガバナンスを支持する一方、先進国側はCMAのみの下に位置づける立場を示しています。

損失と損害対応基金(FRLD)の本格運用と資金ギャップ

損失と損害対応基金(FRLD)は、COP28決定に基づき、当面4年間、世界銀行がホストする金融仲介基金(FIF)として運用されています。世界銀行は、事務局のホストおよび暫定受託者として拠出資金の受入れ・管理・運用・移転などの金融・管理業務を担い、資金配分や支援対象の決定はFRLD理事会が行います。

FRLDは、制度設計の段階から実際の資金供与を行う段階へと移行しています。その第一歩として、FRLD理事会は2025年4月に開催された第5回会合で、「バルバドス実施モダリティ(BIM)」の設置を決定しました。BIMは、2025~2026年に最初の支援案件を実施するとともに、FRLDの長期的な運用方法の確立に向けて、アクセス方法や資金供与の仕組み等を試行・検証するための初期実施枠組みです。BIMでは、政府への直接予算支援を含む直接アクセスや、既存の気候基金の認定機関等を通じたアクセスなど、複数の資金アクセス方法が用意されています。また、初期資金の少なくとも50%を後発開発途上国(LDCs)や小島嶼開発途上国(SIDS)向けに確保する配分下限(allocation floor)が設けられているのも特徴のひとつです。BIMの下で、FRLDは2025年11月のCOP30で初の資金要請公募を開始し、2025年12月から2026年6月まで申請を受け付けました。その結果、119か国から176件、総額約28億ドルの資金要請が提出されました 。こうした需要を受け、FRLD理事会はBIMの初期配分額を2.5億ドルから3.5億ドルに拡大しました。2026年7月にマニラで開催された第9回理事会では、申請案件の審査や最初の資金供与決定に向けた準備が進められました。なお、同年8月の洪水後にはネパール政府がFRLDに緊急支援を要請しており、FRLDは9月3日に同要請に関する声明を公表しています。

一方、FRLDに対する各国等からの拠出表明は約8.23億ドルで、このうち世界銀行の受託基金に払い込まれた額は約4.86億ドルとなっています 。こうした資金規模に対し、気候変動に伴う損失と損害の将来的な経済的規模については、現在のFRLDへの拠出額を大きく上回る推計も示されています。例えば、Markandya and González-Eguino(2019)は、途上国における損失と損害の規模について、2030年には年間2,900億~5,800億ドルに達する可能性があると推計しています 。FRLDでは、こうした資金ニーズを背景に、今後の資金動員の規模や、無償資金、直接アクセス、その他の資金源をどのように組み合わせるかについて、引き続き議論が行われています。

サンティアゴ・ネットワーク(SN)による技術支援の本格運用と日本の関与

国連防災機関(UNDRR)と国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)が共同で事務局機能を担うサンティアゴ・ネットワーク(SN)は、気候変動に伴う損失と損害への対応に必要な技術支援を、途上国からの要請に基づいて提供するための仕組みです。SNでは、途上国から技術支援要請を受け付けるとともに、ネットワークに参加する機関、組織、ネットワーク、専門家(organizations, bodies, networks and experts:OBNEs)を通じて支援を実施する仕組みが本格的に運用されています。2025年にはバヌアツで最初の技術支援が実施され、20件を超える国別要請がパイプラインに入りました 。2026年には、フィジー、パラオ、ルワンダ、ネパールなど複数国からの要請に基づく技術支援案件について、OBNEsを対象とした公募が進められています。

COP31では、WIM執行委員会とSNの2026年共同年次報告がSBSTA65およびSBI65の正式議題として審議され、同報告に基づき、SNの運用や今後の取組について検討が行われます。SNが制度構築から本格的な技術支援の実施段階に移る中、技術支援のさらなる拡大、増加する要請に対応するための持続可能な資源の確保、OBNEsネットワークの拡充、地域レベルでの支援体制の強化などが、今後の運用上の課題となっています。また、WIMやFRLDを含む損失と損害に関する他の制度との補完性・整合性をどのように高めるかも、SNの今後の実施に関わる重要な論点となっています。

SNによる技術支援の拡大と並行して、損失と損害に関する情報を国際的に蓄積・共有するための取組も進められています。パリ協定第13条に基づく強化された透明性枠組み(ETF)の下では、各国が隔年透明性報告書(BTR)に損失と損害に関する情報を自主的に記載することができ、現在そのための技術的なガイダンスがWIMで整備されています。こうした情報は、各国の損失と損害の状況把握や、将来のグローバル・ストックテイク(GST)等における評価の基礎情報として活用されることが期待されています。

日本政府はFRLDに対し、2024年以降、累計2,000万ドルを拠出しています 。また、日本は早期警戒システム(EWS)や防災の分野における支援や能力開発など、損失と損害の回避・最小化・対応に関連する国際協力にも取り組んでいます 。

SNでは、研究機関、国際機関、NGO、民間企業、専門家などがOBNEsとしてネットワークに参加し、途上国からの技術支援要請に応じることができます。こうしたSNの技術支援には、日本の主体も参加することができます。日本からは、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が2024年12月にOBNEとして登録されています。OBNEsは、各国から寄せられた技術支援要請に対する公募に応募し、専門的知見や技術を提供することができます。

このように、SNは途上国から示される具体的なニーズと、国際的に蓄積された専門知識や技術をつなぐ仕組みとして、本格的な実施段階に入っています。SNの技術支援は、SN自身の資金を用いて実施される場合もあり、FRLDの資金を前提とする仕組みではありません。一方で、SNは、WIMの下で蓄積・共有される知見や政策的取組、FRLD等による資金支援と相互に補完することが想定されており、SNを通じた技術支援によって明確化されたニーズや具体化された取組を、必要に応じて資金支援につなげるための連携のあり方も検討されています。今後、こうした制度間の連携がどのように具体化されるか、また、日本を含む各国の研究機関、国際協力機関、NGO、民間主体、専門家等がSNを通じて損失と損害への技術支援にどのように関与していくかも、実施段階における注目点の一つです。

参考:

開催現地レポート

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結果概要

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各セクターから見たCOP31気候変動適応分野の調査報告

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