水資源:豪雨が増えているのに水が足りない?国立環境研究所・花崎 直太室長に聞く、2025年の気候と水資源のこれから
国産のお米は国内外で高く評価されており、海外での需要も増え続けています。一方で、地球温暖化や極端な暑さが国内の米作り、特に品質面に影響を及ぼしつつあります。
今回のインタビューでは、高温耐性品種の研究に取り組む国立環境研究所の増冨 祐司室長に、気温上昇がお米に与える影響、研究者や農業分野における対応、そして日本の農業の未来を守るために何が必要かについてお話を伺いました。
水管理と米の品質の関係を調べる圃場調査。
Q1: 国産のお米は世界的に高く評価されており、2025年の輸出量は約4万8000トンに達しました。一方で、地球温暖化や異常気象が国内の米作りを脅かしているとも言われています。極端な暑さは、具体的にお米にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
最も大きな影響は、お米そのものの品質に現れます。登熟期(米粒にデンプンが蓄積されていく時期)に高温にさらされると、「白未熟粒」と呼ばれる、白く濁った未成熟な米粒が発生します。
白未熟粒は一般に食味が悪いとされ、さらに砕けやすいです。その結果、収穫量全体が減少することもあります。また、一等米の比率が大きく低下し、取引価格の低下など、生産者にとって大きな経済的損失につながる可能性があります。
白未熟粒(左)と整粒(右)。白未熟粒は白く濁っているように見える。
Q2: それは安定した米作りにとって深刻な状況ですね。研究者や農業分野では、この課題にどのように対応しているのでしょうか。
水稲生産における効果的な適応策の一つが、高温下でも良好に生育する高温耐性品種の導入です。高温耐性品種の作付け割合は徐々に増加していますが、まだ十分とは言えません。
そこで私たちは、生産者が自らの圃場で直接実践できる現実的な適応策として、特に「水管理」に着目しています。具体的には、地球温暖化によるお米の品質低下を軽減するための水管理技術の開発を目指して研究を進めています。
この取り組みの一環として、滋賀県近江八幡市および和菓子メーカーである「たねや」と共同研究を行っています。たねやは自社の菓子製品に使用するもち米の一部を有機栽培していますが、温暖化が進む中、高品質なお米を安定的に生産することが大きな課題となっています。
「ClimoCast」で表示した滋賀県。(注1)
脚注
(注1) 「ClimoCast」は温室効果ガス排出シナリオおよび気候シミュレーションモデルを用いて、2100年までの気候予測を可視化する気候予測ツール。
Q3: この研究で行っている具体的な実験方法について、詳しく教えていただけますか。
田んぼに計測器を設置し、水位と水温を計測しています。これにより、水位と水温の関係を解析しています。水温が高くなると、お米の品質は低くなることがわかっており、仮に水位を調整して水温を下げることができれば、お米の品質を上げることができるのです。実際、水温は田んぼごとに大きく異なり、気温が同じでも2℃程度の違いが生じることがわかっています。
田んぼに設置された計測器からデータを取得する様子。
Q4: 高温耐性品種の開発に加えて、水管理など現場レベルでの取り組みも、生産者が自ら実践できる重要な適応策になるということですね。最後に、日本の食文化を長期的に守っていくために重要なことは何か、教えていただけますか。
温暖化が進む中で日本の食文化を守っていくためには、研究者、生産者、政策立案者、流通業者、そして消費者など、さまざまな関係者の連携が欠かせません。
お米が生産され、消費者の食卓に届くまでには、多くの人々が関わっています。まずは、今回のような研究を通じて、気候変動が米作りに与える影響や、それに対する適応策について、人々に「知ってもらう」ことが重要です。
また、研究成果が現場で効果的に活用されるためには、生産者の方々が直面している課題やニーズを丁寧に把握し、得られた知見をわかりやすくフィードバックしていくことも大切です。例えば、水管理のように、生産者が自ら実践できる適応策を科学的に検証し、その成果を現場で活用しやすい形で共有していくことが、今後ますます重要になるでしょう。
そのうえで、それぞれの立場で新たな知見や取り組みを「受け入れ」、そして実際の行動として「適応する」ことにつなげていく必要があります。
社会全体でこうした理解と行動を積み重ねていくことこそが、日本の農業と食文化を未来にわたって支える大きな力になると考えています。
おわりに
極端な暑さは、もはや米作りにとって遠い将来の脅威ではありません。すでに、日本にとって最も重要な作物のひとつであるお米の品質、価値、そして生産の安定性に影響を及ぼしています。高温耐性品種や水管理をはじめとする実践的な適応策に関する研究を通じて、CCCAは農業分野における気候変動適応に貢献し、未来の世代のために日本の食文化を守り、支えていくことを目指しています。
CCCAは今後も、各地域における環境モニタリングや将来予測を含む研究活動に関する情報発信を続けていきます。
取材日:2026年8月21日