各分野の気候変動影響と適応

健康

気候変動は私たちの健康にも影響を与えます。一番身近なものは気温が上がり、熱中症にかかりやすくなるということですが、それだけではありません。
本項では、すでに生じている影響や、今後どのような影響が起こる可能性があるかについて、学んでいきます。

気候変動により深刻化する健康被害

気候変動の影響によって熱中症と感染症が増加している可能性があります。これらの現状を、考えられる要因とともに紹介します。

夏の猛暑による熱中症の増加

熱中症は、これまでは高温の環境で働く方や、運動する方に多く発生していましたが、気候変動による影響により、近年、日常的な室内の環境下でも起こりやすくなってきています。夏の気温上昇や、熱中症リスクの高い高齢者の増加などの要因で、日本国内での熱中症による死者数は増加傾向にあり、近年は1,000人を超えて自然災害による死者数をも上回る年が続いています。中でも熱中症死亡総数に占める65歳以上の高齢者の割合が増えており、2020年には死亡総数の87%を65歳以上の方が占めています。高齢者の割合が増えている理由として、加齢による体温調節機能や熱放散能力の低下に加えて、エアコンの調節や水分補給といった対策が適切に取られていないことが考えられます。

年齢別熱中症死亡数
年齢別熱中症死亡数
(出典:熱中症環境保健マニュアル2022(環境省)

水や食物、蚊などの媒介による感染症の増加

気候変動により、一部の感染症リスクの増加が予測されています。
感染症には、水や食物などの媒介物を通して感染するものや、蚊やダニなどの節足動物類を通して感染するものなどがあります。例えば、海水温の上昇により、夏に魚介類に付着している腸炎ビブリオ菌[1]数が、日本各地で増えています。また、気温の上昇により食品の加工や調理などの各過程で食品の細菌が増殖することも考えられます。さらに、デング熱[2]などを媒介する蚊であるヒトスジシマカの生息域が北上していることも報告されています。

ヒトスジシマカの成虫
ヒトスジシマカの成虫
(出典:国立感染症研究所資料「デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き地方公共団体向け」

[1] 感染性胃腸炎の起炎菌の一つであり、腸炎ビブリオによる食中毒の原因食品はほとんどが魚介類です。(参照元:国立感染症研究所「腸炎ビブリオ感染症とは 」)

[2] 蚊に刺されることによって感染する疾患で、急激な発熱で発症し、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状が見られます(参照元:厚生労働省「デング熱について」)

今後さらに被害が拡大するかも

このような熱中症や感染症は、すでに増加傾向にありますが、将来さらに被害が拡大する可能性があります。
たとえば、今後のさらなる気温上昇によって、熱中症による救急搬送者数が増加し、熱中症に関連する心血管疾患による死亡者数、特に高齢の死亡者数が増加することが予測されています。また、ヒトスジシマカの分布可能域が北海道の一部にまで広がる可能性が高いと予測されており、デング熱のリスクが高まると考えられます。さらに、インフルエンザや手足口病、水痘、結核といった感染症についても、気温や湿度などの気候変動に伴い、季節性や発生リスクが変化する可能性があります。

本項では、健康について、気候変動による影響のメカニズムとともに、現在までにどのような影響があって、今後どのような影響が起こる可能性があるかについて、学んでいきます。

健康分野における影響のメカニズム

健康における気候変動による影響のメカニズムは、下図のように想定されています。

気候変動による気温上昇は熱ストレス[1]を増加させることになり、熱中症リスクや暑熱による死亡リスク、その他、呼吸器系疾患などのさまざまな疾患リスクを増加させます。特に、暑熱に対して脆弱性が高い高齢者への影響が顕著です。また、気温上昇は感染症を媒介する節足動物の分布域・個体群密度・活動を変化させ、例えば、デング熱を媒介するヒトスジシマカなど節足動物による媒介感染症の流行地域や患者発生数に影響を及ぼす可能性があります。さらに、気温の変化は、水や食物などの媒介物を通して発生する水系・食品媒介性感染症や、インフルエンザのような感染症類の流行パターンを変化させることも考えられます。


[1]ここでは、高温による健康影響の原因を総称して熱ストレスと呼んでおり、死亡・疾病リスクとなる極端なストレス状態以外に、心理・生理レベル、生活レベルの影響なども含まれます。

気候変動により想定される影響の概略図
気候変動により想定される影響の概略図
(出典:気候変動影響評価報告書詳細(環境省))

健康分野の現在の影響と将来予測

夏の猛暑による熱中症の増加

夏の気温上昇や、熱中症リスクの高い高齢者の増加などの要因で、熱中症による死者数は増加傾向にあり、1993年以前は年平均67人であったのが、1994年以降は年平均663人に増加し、近年は1,000人を超えて、自然災害による死者数をも上回る年が続いています。

熱中症の発生と気象条件の間には密接な関係があり、気温が高い日は体から外気への熱放散が減少するため、熱中症が発生しやすくなります。また、気温の高さに加え、湿度が高い場合や日射が強い場合は、より熱中症のリスクが高くなります。

下の図は、北海道、東京都、愛知県、大阪府、福岡県の熱中症救急搬送数(10万人あたり1日あたりの率)を日最高暑さ指数(湿球黒球温度、WBGT)別に示したものです。搬送数(率)との相関関係がはっきりしており、日最高暑さ指数(WBGT)が28℃(北海道は26℃)を超えるあたりから搬送数(率)が急激に増加しています。

暑さ指数(WBGT)とは、気温、気流、湿度、輻射熱の4要素の組合せによる温熱環境を総合的に評価した指標で、気温だけでは評価できない熱中症のリスクを表す指標です。具体的な算出式は、0.7×湿球温度 + 0.2×黒球温度 + 0.1×乾球温度で、いわゆる気温である乾球温度とともに、空気の湿り具合を考慮した温度である湿球温度や、日射や高温化した路面からの輻射熱の強さも含まれる黒球温度も加味された指標となります。日最高暑さ指数が33℃以上と予測された場合に、環境省と気象庁から「熱中症警戒アラート」が発表され、外出をできるだけ控える、外での運動を中止・延期するなどの注意が呼びかけられます。

日最高WBGT別熱中症搬送数(率)
日最高WBGT別熱中症搬送数(率)
(出典:環境省、熱中症環境保健マニュアル2022

将来、さらなる気温上昇に伴い、日本各地で暑さ指数(WBGT)が上昇する可能性が高く、2090年代には、東京・大阪で日中に屋外労働可能な時間が現在よりも 30~40%短縮することや、屋外での激しい運動に厳重警戒が必要な日数の増加が予測されています。また、高齢者の死亡者数が増加することも予測されています。

水や食物、蚊などの媒介による感染症の増加

昆虫やダニによって媒介される感染症は気候変動の影響を受けやすいと言えます。デング熱を媒介するヒトスジシマカの生息域の北限は1950年以降北上を続けており、2016 年には青森県に達しています。また、蚊媒介感染症の国内への輸入感染症例は増加傾向にあり、海外から輸入された感染症の国内における感染連鎖の発生が危惧されます。

さらに、海水温度の上昇により、夏季に海産魚介類に付着する腸炎ビブリオ菌数が増加する傾向が日本各地で報告されているとともに、気温の上昇により、食品の加工・流通・保存・調理の各過程において、食品の細菌汚染・増殖を通じた食品媒介性感染症のリスクの増加が想定されています。また、外気温と感染性胃腸炎のリスクの間に相関性があることが報告されており、外気温上昇により、ロタウイルス流行時期が日本各地で長期化していることが確認されています。

東北地方におけるヒトスジシマカの生息域北限の推移(2017年)
東北地方におけるヒトスジシマカの北限の推移(2018年)
(出典)ヒトスジシマカの分布域拡大について(国立感染症研究所資料を引用)

将来、水系感染症の発生数が増加すると考えられています。国外の研究事例で、大雨によって飲料水源に下水が流入することにより消化器疾患が発生する可能性が予測されており、国内でも同様の影響が現れることが懸念されます。
また、ヒトスジシマカの分布可能域について、21 世紀末には、北海道の一部にまで分布が広がる可能性が高く、気温上昇が進むと、吸血開始日の早期化や活動期間の長期化の可能性もあります。さらに、日本脳炎を媒介する外来性の蚊の分布可能域が、奄美・沖縄地方で拡大する可能性もあります。この様に、今後各種感染症のリスクが高まるかもしれません。

適応策

インフォグラフィック

健康分野における影響の種類ごとに、代表的な適応策の特徴とその進め方を、イラスト付きでわかりやすく紹介しています。

国内外の事例

健康分野の適応に向けた実際の取組事例を紹介しています。

国や自治体、その他公共機関等による適応の取組事例

事業者による適応の取組事例

インタビュー

健康分野の適応に向けて取組む方々へのインタビュー記事を紹介しています。

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