「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

各分野の気候変動影響と適応

自然災害・沿岸域

気候変動が進むと雨が強くなり、自然災害が起きやすくなると言われていますが、具体的にどのような影響を与えるのでしょうか。
本項では、自然災害について、現在までにどのような気候変動による影響が現れていて、今後どのような影響が起こる可能性があるかについて、学んでいきます。

気候変動により深刻化する自然災害

気候変動の影響によって、河川氾濫や高潮被害・土砂災害の規模がこれまでよりも拡大してきている可能性があります。以下に、事例とともに紹介します。

大雨などによる河川氾濫などの被害

気候変動によって大雨が増えたことで、河川氾濫などの被害が深刻になっています。
2019年の水害被害額は統計開始以来最大となりましたが、同年に発生した「令和元年東日本台風」は1つの水害として過去最大の被害額を記録しました。この台風による豪雨で、多くの河川氾濫が発生し、土砂の堆積による河床の上昇や、橋に流木が積み上がるなどさまざまな被害が確認されました。また、この豪雨は近年の気候変動と強い関係があると考えられており、1980年以降の約1℃の気温上昇によって、総降水量が約10%増加したものと評価されています。

令和元年東日本台風による被害(福島県での阿武隈川の氾濫)
令和元年東日本台風による被害(福島県での阿武隈川の氾濫)
(出典:国土交通省、令和元年東日本台風の発生した令和元年の水害被害額が統計開始以来最大に

海面水位上昇や台風などによる高潮被害

高潮とは、台風などの強い低気圧の通過時に、気圧の低下で海面が吸い上げられるように上昇する「吸い上げ」と、強風により海水が海岸に吹き寄せられる「吹き寄せ」によって、海面が異常に上昇する現象のことです。さらに、気候変動に伴って平時から海面水位が上昇していることで、今後高潮による被害が増える可能性があります。また、気候変動は台風の数、強度、経路等の特性を変化させる可能性がありますが、高潮をもたらす直接の原因の多くは台風であり、そうした台風の特性が変化すれば、高潮の発生動向に影響を及ぼすことが考えられます。
平成30年の台風21号によって、近畿地方では猛烈な風が吹き、記録的な高潮が発生しました。関西空港連絡橋にタンカーが衝突し、滑走路が浸水するなど大きな被害をもたらしました。

平成30年台風第21号による被害(関空島の橋梁への船舶衝突)
平成30年台風第21号による被害(関空島の橋梁への船舶衝突)
(出典:気象庁、平成30年(2018年)台風第21号

大雨などによる土砂災害被害

大雨の回数や範囲などの増大によって、土砂災害についても頻度の増加や規模の拡大、発生形態や発生地域の変化が生じています。
「平成30年7月豪雨」では、上流部で発生した土砂災害による大量の土砂が、降り続く雨により河川内に流入し続け、河川が土砂で埋まるといった大きな被害をもたらしました(土砂・洪水氾濫といいます)。こういった豪雨は近年の気候変動と強い関係があると考えられており、50年に1度の規模とされていた大雨の発生確率が、約3.3倍になったと評価されています。

平成30年7月豪雨による被害(土石流の発生)
平成30年7月豪雨による被害(土石流の発生)
(出典:国土交通省、令和元年東日本台風の発生した令和元年の水害被害額が統計開始以来最大に

今後さらに被害が拡大するかも

ここまで、3つの自然災害に関して、現在の状況について触れてきましたが、これらの自然災害による被害は、将来さらに拡大する可能性があります。
河川氾濫について、洪水を起こしうる大雨が、日本の代表的な河川流域で今世紀末には現在に比べて増加することが予測されています。
高潮被害について、将来、一定の海面上昇は避けることはできず、台風の強度や経路の変化などによっては高潮の発生が増える可能性があります。
土砂災害被害について、今後大雨がより強く、長く、広い範囲に降るようになると、さらに被害が大きくなることが予測されています。

関連情報

本項では、自然災害について、気候変動による影響のメカニズムとともに、現在までにどのような影響があって、今後どのような影響が起こる可能性があるかについて、学んでいきます。

自然災害における影響のメカニズム

気候変動による大雨や台風といった極端な気象事象の発生頻度や強度の増加、海面水位の上昇など、気候や自然的要素の変化によってさまざまな影響が生じ、河川の洪水や内水、土砂災害の発生頻度を増加させたり、高潮・高波の頻発化や激甚化を引き起こしたりします。また、波高・周期・波向の変化が砂浜を堆積・侵食させることにもなります。これらの影響は、さまざまな産業や経済活動、国民生活など他の分野にも波及することになります。

気候変動により想定される影響の概略図
気候変動により想定される影響の概略図
(出典:環境省、気候変動影響評価報告書詳細

それぞれの自然災害の現在の影響と将来予測

大雨などによる河川氾濫などの被害

近年、大雨による河川氾濫などの被害が深刻になっており、下図に示すように、2019年の水害被害額は全国で約2兆1800億円と、津波を除いた1年間の水害被害額としては統計開始以来最大となりました。その他、大雨の発生頻度が経年的に増加傾向であることや、氾濫危険水位を超過した洪水の発生地点数が増加していることなど、河川氾濫などの被害に関わる報告がされています。

水害被害額の推移
水害被害額の推移
(出典:国土交通省、~令和2年の水害被害額(確報値)を公表~

将来、気温の上昇が進むと、全国的に降雨量が増えることが予測されています。降雨量の増加に伴って、河川流量や洪水発生頻度も増えることが考えられ、例えば気温が2℃上昇した場合には河川流量が約1.2倍、洪水発生頻度は約2倍、気温が4℃上昇した場合には河川流量が約1.4倍、洪水発生頻度は約4倍増加することが予測されています。

将来の降雨量、河川流量、洪水発生頻度の予測
(出典:国土交通省、気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言 改訂版【概要】

海面水位上昇や台風などによる高潮被害

下図に示すように、日本沿岸の海面水位は経年的に上昇しており、そのことにより高潮による浸水リスクが増える可能性があります。また、気候変動によって高潮の主要な原因である台風の数や強度、経路などの特性が変化する可能性があり、気圧の低下による海面の「吸い上げ」や、強風による海水の「吹き寄せ」など高潮のリスクが増大する可能性があります。さらに、冬季に発達する低気圧の強度が増すことも、高潮のリスク増大につながると考えられています。実際に、極端な高潮位の発生が、1970年以降全世界的に増加している可能性が高いことが指摘されています。

日本沿岸の海面水位変化
(出典:気象庁、日本沿岸の海面水位の長期変化傾向

将来、気候変動が進むと、1995~2014年と比較して、21世紀末までに0.38~0.77mの範囲で海面水位が上昇すると予測されています。これにより、現在と比較して高潮による被災リスクが高まると考えられます。また、台風の強度や経路の変化などによって高潮のリスクがさらに増大する可能性もあります。
また、気候変動による海面水位の上昇によって、海岸が侵食される可能性が高く、21世紀末には、日本沿岸で8割以上の砂浜が消失するという予測もあります。

大雨などによる土砂災害被害

気候変動に伴う大雨の発生頻度の上昇や、大雨の頻発地域の拡大、一回一回の大雨の広範囲化などは、崩壊や土石流、地すべりなどによる土砂災害の発生頻度の増加、発生規模の増大、発生形態の変化、発生地域の変化などをもたらすと考えられています。下図に示すように、実際に土砂災害発生件数は増加傾向にあります。

土砂災害発生件数の推移
土砂災害発生件数の推移
(出典:国土交通省、令和3年の土砂災害

将来、大雨が増加することに伴い、集中的な崩壊・がけ崩れ・土石流などの頻発など、土砂災害の被害が激甚化することが予測されています。

適応策

インフォグラフィック

自然災害・沿岸域分野における影響の種類ごとに、代表的な適応策の特徴とその進め方を、イラスト付きでわかりやすく紹介しています。

国内外の事例

自然災害・沿岸域分野の適応に向けた実際の取組事例を紹介しています。

国や自治体、その他公共機関等による適応の取組事例

事業者による適応の取組事例

インタビュー

自然災害・沿岸域分野の適応に向けて取組む方々へのインタビュー記事を紹介しています。

ページトップへ