「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

温州ミカン栽培における気候変動適応策

掲載日 2023年12月14日
分野 農業・林業・水産業
地域名 近畿(和歌山県)

気候変動による影響

和歌山県では、年平均気温が100年あたり約1.5℃上昇しており(注)、真夏日(日最高気温30℃以上)の年間日数は、100年あたり14日の増加傾向にあります。また、短時間強雨の発生回数にも10年あたり1.67回の増加傾向が現れています。

そのため、温州ミカンの果皮障害である浮皮(図1)や過熟の発生による収量の低下や果実着色不良(遅延)による商品化率の低下が懸念されています。

取り組み

和歌山県では、温州ミカン栽培における気候変動適応策として以下の3点を講じています。

1. 植物生長調節剤による浮皮対策
浮皮対策として、これまで行われてきた明渠・暗渠の整備による排水性の改善や間伐・縮伐による園内の通風性の改善などに加え、植物生長調節剤による化学的な対策を行っています。この対策は、ジベレリンとプロヒドロジャスモンという浮皮を軽減する薬剤を利用するものです。薬剤の処理濃度を薄くしたり処理時期を早めると、浮皮軽減効果は低下するものの、着色遅延の影響は小さくなります。逆に浮皮軽減効果を強めると着色遅延も強く現れます。この特徴を利用することで、慣行の時期に収穫する場合と着色遅延を利用して収穫時期を遅らせる場合とで、処理時期・濃度を変化させながら使用することができます。

2. 品種育成による浮皮対策
和歌山県では、現地優良系統の選抜・育成を目的とする「枝変わり探索事業(図2)」を2004年より行っています。この事業の中で、浮皮の発生が少なく果実品質の良い中生温州ミカン「きゅうき」や、既存の晩生ミカンより樹勢が弱く比較的栽培が容易であり、浮皮が少ない晩生温州ミカン「植美」などを選抜しました。今後は、関係機関が協力し、県内での産地化、普及を進めていく予定です。

3. 耐雨性に優れたカンキツ黒点病の防除対策
慣行防除剤であるマンゼブ剤の600倍液は、散布後の累積降雨量が200~250mmに達するまで効果が持続するとされています。しかし近年、累積降雨量250mm以上の集中豪雨が増加しており、より耐雨性が優れた防除手法が求められています。そこで、耐雨性を向上させる作用があるパラフィン系展着剤(1,500倍希釈)を加用して散布する手法などを検討しています。

効果/期待される効果等

このような浮皮対策は、これまでの方法より効果が安定しているものの個別に施す場合は効果が不十分です。様々な対策を組み合わせることによって、消費者に高品質な果実を届けることが期待されます。

正常果(左)と浮皮果(右)の違い
図1 正常果(左)と浮皮果(右)の違い
(出典:和歌山県果樹試験場「わかやま果試ニュースNo.86」)
枝変わり探索事業のチラシ
図2 枝変わり探索事業のチラシ
(出典:和歌山県果樹試験場「カンキツの枝変わりを探しています」)

脚注
(注)観測期間:1880-2018

出典・関連情報