新しいブランド養殖魚「若狭まはた」
掲載日 | 2024年9月30日 |
---|---|
分野 | 農業・林業・水産業 |
地域名 | 中部(福井県) |
気候変動による影響
2016年までの約 100 年間にわたる日本近海の海域平均海面水温(年平均)の上昇率は +1.09℃であり、世界全体で平均した海面水温の上昇率(+0.53℃/100 年)よりも大きくなっています。
また、海域別にみると、日本海中部および日本海南西部における海面水温の上昇率は、世界全体や北太平洋全体で平均した海面水温の上昇率(それぞれ+0.53℃/100 年、+0.50℃/100年)のおよそ 2~3 倍です。その中でも日本海中部の海面水温の上昇率は、+1.70℃/100 年と日本近海で最大となっており、日本の気温の上昇率(+1.19℃/100 年)よりも大きいことが分かっています。
福井県の水産業でも、海水温の上昇に伴い、サワラの漁獲量増加や藻場の減少など、魚種や海藻等の組成や資源量の変動が発生しています。将来的に海水温の上昇が進むと、こうした変化はさらに進行することが予測されます。
取り組み
福井県水産試験場は、暖海性養殖用魚種である「マハタ(注1)」を新たなブランド養殖魚「若狭まはた(図1)」として、2015年度から養殖業者とともに、稚魚の生産技術の開発や養殖試験を行ってきました。2019年度に稚魚の生産施設が完成し、2020年5月には、県産の稚魚を初出荷しました。
また水産試験場では、マハタに寄生すると衰弱・へい死する原因となる「ハダムシ(注2)」の寄生数増減の実態調査や、安全で効果的なハダムシ対策について調査しています。マハタのハダムシ対策としては、淡水浴(1/6海水を用いた低塩分水浴)を実施しますが、ハダムシのライフサイクルの1周に要する時間は水温が高いほど短いため、夏季には頻繁な駆虫作業を炎天下で行う必要があります。一方、冬季は淡水の温度が海水温に比べて低く、淡水浴における慎重な温度調節が必要となります。そこで、淡水浴よりも作業に係る負担が少ない『過酸化水素製剤を活用した薬浴』の効果と安全性の試験等も行っています。水産試験場では、このような養殖業に役立つ情報・研究成果や、福井県周辺海域の水温分布などの情報を、「水試だより」として月に1回発刊しています。
また、マハタの養殖指導やイベントにおけるマハタ稚魚の展示等、メディアを通じた広報活動も実施しています。
「若狭まはた」は、福井県各地の料理店や旅館などで提供されており、提供店の最新情報は福井県のウェブページから確認することができます。さらに福井県では、「若狭まはた」のブランディング戦略として、ロゴマーク(図2)やキャッチコピー【知られざる、食感のヌシ。】を作成し、流通・消費拡大に努めています。
効果/期待される効果等
暖海性養殖用魚種である「若狭まはた」の種苗を量産し漁業者へ供給することにより、養殖漁業の振興と漁村地域の発展が期待されます。
脚注
(注1)マハタは、クエやキジハタ(アコウ)と同じハタ科の魚で、暖かい海を好む。福井県でも一本釣り等でわずかに漁獲されているが、全国的に流通量が少なく市場単価が高い高級魚。
(注2)ハダムシは、魚の体表に付く寄生虫で、吸盤状の固着器を使って魚の体表に吸着し、粘液や体表組織を食害する。マハタに寄生するハダムシとしては、Neobenedenia girellae と Benedenia epinepheli の 2 種が知られている。このうち、N. girellae は高水温期に発生し、福井県内の養殖魚種ではトラフグ、ブリ、マサバ、マダイ等で発生が確認されている。一方、B. epinepheli は周年寄生が見られ、水産試験場や養殖業者が実施したマハタの試験養殖時には冬季から春季に被害が出るという特徴がある。マハタにおいてハダムシの寄生数が増加すると、摂餌不良や粘液の過剰分泌、緩慢遊泳が見られるようになる。症状が進行すると、鰭や体表にびらんが生じて斃死に至る。
出典・関連情報