「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

屋敷林の保全・再生

掲載日 2023年10月20日
分野 農業・林業・水産業 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響と適応における位置づけ

日本の農村部における屋敷林は防風、防暑、防寒、防砂などの役割を果たし、農家の日常生活に必要な資材の供給源であった1)。こうした屋敷林は、居住地を厳しい自然環境から守る伝統知による適応策と言える。

しかし、農地整備などの土地利用政策、戦争用の強制伐採、圃場整備、台風被害などにより屋敷林が減少している2

取り組み

屋敷林の枝打ちや構成する樹種の選定・配置、組み合わせによって屋敷林の保全・再生を図ることで、気候調節等の屋敷林の持つ多面的機能を発揮し維持させるとともに、生物多様性保全に資する。

枝打ち 枝打ちを行うことによって屋敷林を有する屋敷内の防風効果が向上する。3
樹種の選定・配置 枝葉の細かいスギなどの常緑針葉樹を多数植栽することや、樹林密度を小さくすることによって防風効果が向上する。4,5
多様な樹種の組み合わせ 20m以上に成長する高木、10m前後に成長する中低木、4m以下の低木、芳香を発する花木・果樹、湿潤な土地を好む樹木、強い直射日光が遮られても育つ半陰樹・半陽樹、直射日光を嫌う陰樹、竹類など多様な樹種の組み合わせる。6

事例

大崎耕土 居久根

宮城県北部に位置する大崎地域は、東北の太平洋側特有の冷たく湿った季節風『やませ』による冷害や、山間部の急勾配地帯から平野部の緩勾配地帯に変化する地形が原因でおこる渇水・洪水など厳しい自然環境下で食料と生計を維持するため、「水」の調整に様々な知恵や工夫を重ね発展してきた地域であり、「大崎耕土」として世界農業遺産に指定されている。

この大崎耕土に点在する屋敷林である「居久根」は様々な樹種で構成されており、多様な生物を支える基盤となっている。水田と屋敷林を行き来するトンボ類やカエル類も数多く生息している。

期待される効果等

屋敷林は、季節風への防風効果、集落に屋敷林が点在することによる集落規模での防風効果を発揮する7)。また、散居の屋敷林の中で高木が密に植栽されている地点では、散居外の地点よりも低い気温を示すなど、気候調整機能を有する8)

適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 生物多様性の向上
農村において農地、森林、屋敷林、生垣、ため池等の多様な環境が有機的に連携することで多様な生態系が形成されており、9)屋敷林は周辺の水田や水路網とつながり、動植物の生息場として機能している。10)
屋敷林が存在することによる、樹上生活する種や林縁環境を好む鳥類の種多様性の高まり。3)
緩和策 大気の浄化
屋敷林による二酸化炭素の吸収及び二酸化硫黄などの公害物質の清浄化作用。7)

ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • 農村においては、農地や屋敷林、生け垣、用水路、ため池、畔などの多様な環境が有機的に連携し、多様な生態系を形成することで良好な景観を形成してきた。このような二次的自然の保全や回復を図ることが、良好な環境を維持、形成する上で重要である。9
  • 地権者との調整、合意が不可欠。

脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報