気候変動による影響
岐阜県飛騨地域のモモ産地では、近年幼木が主幹部に胴枯れ様の症状を示し、その後枯死する障害が発生しています。モモの枯死障害の発生には様々な要因がありますが、3~4年生の幼木で発生が多く、障害が主幹の南西側で地上10~30cmの部位に多く発生していることなどから、障害の原因は凍害であると報告されています。このため、現地では主幹部へのわら巻きや白塗剤塗布を行っていますが十分な効果が得られておらず、新たな対策技術が求められていました。また、凍害の発生は全国各地のモモ産地で増加しており、その要因として近年の気候温暖化による暖冬の影響といわれています。
取り組み
リンゴやブドウでは、樹体の耐凍性は使用する台木品種により大きく異なることが知られていたため、モモにおいても数品種の台木を用いた耐凍性に関する比較試験が行われました。この結果、使用する台木により凍害による枯死障害の発生に大きな差があり、耐凍性台木による凍害回避の可能性が示されました。
岐阜県中山間農業研究所は、枯死障害の防止に有効な台木を育成するため、1996年に岐阜県高山市国府町在来の観賞用ハナモモの自然交雑実生の中から有望系統を選抜し、2006年3月に宮代隆夫氏と岐阜県の共同で品種登録出願しました。2008年3月に「ひだ国府紅しだれ」として品種登録されました。この「ひだ国府紅しだれ」は、実生の樹高や幹径などの揃いは良く、根量が多く深根性で、台木に使用した場合には、主要品種との接ぎ木親和性が高いという特徴があります。実生台(注)に使用した場合、「おはつもも」や「長野野生桃」などの一般的な台木(慣行台木)に比べて若木の凍害による枯死や主幹部障害の発生が大幅に軽減されることが分かっています(図1)。
一方で、「ひだ国府紅しだれ」の種子は休眠が深く、慣行の低温貯蔵では発芽率が非常低いことから、効率的な苗木生産に支障をきたすという問題点もありました。このため、種子の休眠打破に有効な貯蔵方法が研究されました。金槌や万力などを使って核を割り中から種子を取り出し、吸水紙を敷いた底が平らな容器で十分に湿らせた後、湿潤状態を保持しながら恒温器で30~35℃の温度に2~3日遭遇させる前処理を行うことが有効であることが分かりました(図2)。
効果/期待される効果等
現在、「ひだ国府紅しだれ」は、岐阜県のみならず国内のモモ産地に普及しつつあります。今後は、老朽園の改植や新品種への更新が進み、高品質果実の安定生産が可能となり、生産者の所得向上や産地の維持発展につながることが期待されています。