「SDGsを共通言語に地域の人々を繋ぎたい」長野県辰野町で気候変動適応のミステリーワークショップが開催されました

2015年9月の国連サミットで採択された国際目標SDGs(Sustainable Development Goals)。持続可能な世界を目指して、最近よく日本でも耳にするようになりました。長野県辰野町で地域おこし協力隊の一員として働いている都筑さんは、地域の人々をつなぐ手段としてSDGsをテーマにすることを思いつき、気候変動適応センターA-PLATで提供している体験型学習コンテンツ気候変動適応のミステリーを利用して、ワークショップを開催しました。今回のワークショップを通して、ミステリーは授業の教材としても活用できると感じている都筑さん。そこで気候変動適応センターでは、ワークショップ開催のきっかけやワークショップで工夫されたことなどをお伺いしました。

関係人口の創出に力を注ぐ長野県辰野町。ふと目に留まった募集に心惹かれて

ある日辰野町の地域おこし協力隊の募集が目に止まり、そのミッションになんとなく心惹かれて応募したという都筑さん。地域おこし協力隊の仕事は多岐に渡り、それぞれが多種多様なミッションを持ち活動しているそうです。

「辰野町では現在関係人口の創出に力を入れています。そのため、多くの隊員は、ワーケーションの誘致や、地域外の社会人や学生と一緒に事業をするなどの活動に従事しています」

辰野町の地域おこし協力隊として活動する都筑さん

「ある日、辰野町が募集していた地域おこし協力隊の募集が目に留まり、面白そうだったので応募しました。私のミッションは、『地域と学生をつなぐコーディネート活動』です。私自身が以前理化学研究所で働いていたことなども影響して、辰野町の産官学を繋げたいという思いを持って、コーディネート活動しています」

地方創生のためにみんなで同じ方向を向くことができる目標、それがSDGs

地域おこし協力隊として、地方創生に貢献する都筑さん。どうしてSDGsをテーマにしようと思ったのでしょうか。

「地方創生というものを考えたとき、そもそも10年以上昔から推進されているのに、なかなか成功事例が出てこないですよね。どうしてなのか考えた時に、みんながそれぞれ違うスパン、違うフェーズで、理想の未来を語っていて、コミュニティがまとまらないからではないかと思いました。そういう時に、SDGsという目標を持ってくると、180度違う方向を見ていた人たちも、少なくとも90度くらいにはベクトルを近づけて、みんなで同じ方向を向いて進んでいけるんじゃないかな、と考えました」

天然記念物のシダレグリ自生地

国立環境研究所一ノ瀬 俊明先生とのご縁。気が付いたら6時間も気候変動について話し合っていた

気候変動適応センターで提供している気候変動適応のミステリーについて知ったのは、辰野町ご出身の一ノ瀬俊明先生とお話ししたことがきっかけだったそう。

「国立環境研究所の一ノ瀬 俊明先生が、辰野町のご出身でいらっしゃり、お正月に先生が帰っていらしたときにお話しすることができました。一緒に気候変動と適応について話をしていたら、夢中になって気が付いたら6時間ほど経っていました!その中で先生から気候変動適応のミステリーというのがあるよと教えていただき、これは是非やってみたいとなりました」

人集めが一番大変だった

ワークショップ開催にあたって苦労したことを伺ってみました。

「こうした学習プログラムで大変なのが集客です。SDGsもそうなのですが、気候変動や適応など、『勉強しなくてはならない』という雰囲気が出ていると、なんだか難しそうだなと参加者が減ってしまいます。SDGsにしても気候変動にしても、やっぱり最初から少しでも興味がないと、なかなか最初の一歩を踏み込んでもらえない。なんとか今回のワークショップをそのきっかけにしてもらいたいと思って、チラシを作り、行政、商工会、学校に配りながら、たくさん声をかけました」

当日のワークショップのチラシ

気候変動適応のミステリーを「ゲーム」として楽しんでもらうために

今回のミステリーに限らず、ゲームを通して楽しくSDGsを知ってもらうワークショップを開催してきた都筑さん。これまでの経験を活かして、ミステリーを楽しんでもらうために、ご自身でもさまざまな工夫を凝らされたようです。

「今回ミステリー実施にあたって私が工夫したことが2つあります。
1つ目は、見やすいカードづくり。参加者の中には高齢の方も居て、あまりに小さい字で書かれたカードでは読む気力がなくなってしまうと思いました。そこで思い切って、言葉の定義などゲームには必要なさそうな箇所などを大幅に削って、字を大きくしました。
2つ目は、よりゲーム性を高めてミステリーを楽しんでもらうための、『スパイタイム』の導入。ワークの中で参加者が行き詰まってしまう時間がありました。そこでグループの中の誰かがスパイになって、他のグループのワークを偵察に行く時間を作りました。そうすると、他のグループとの交流で、個々のグループワークがスムーズに進むようになりましたし、スパイが偵察に来るというゲーム要素が加わって、場がより和んだのがわかりました」

当日のミステリーの様子。カードも都筑さんがラミネート加工して、耐久性を持たせています。

自然災害を経験した辰野町。ミステリーと講演が気づきのきっかけになれば

当日は最初の2時間でミステリーを実施して、その後残りの1時間を気候変動の専門家の方々からお話をお伺いするというプログラムになりました。どちらも参加者の方には好評だったそうです。

「当日は、大変ありがたいことに、一ノ瀬先生、信州大学横山俊一先生、信州気候変動適応センターの浜田崇先生が来てくださり、気候変動に関する講演会を実施することができました。ミステリーと講演会、どちらもとても好評でした。辰野町は昨年の豪雨で被災しているので、特に今回専門家から、気候変動や防災について話を聞けたことは、とても有意義だったと感じた人が多かったと思います。先生方には本当に感謝しております。
当日参加した人たちからは、 『とても興味深い話ばかりだった』『楽しく気候変動や防災について学ぶことができた』『今後も勉強して、気候変動について考えたり、自分達の仕事に活かしたりしたい』、など良いご感想が聞けました。参加者の方々の何らかの気づきに貢献できるというのは、こうしたワークショップを主催する人間の喜びだと感じています」

SDGsの他の目標とのシナジーを考えることが、気候変動対策の推進と教育には必要

気候変動対策を推進していくために、近年必要だと言われていることの一つが、対策を実施する際に生じうるシナジー(一つの解決策が複数の問題解決に作用する)やトレードオフ(一方を尊重すればもう一方が成り立たなくなってしまう関係)についての検証です。
たとえば、電気自動車用のリチウム電池に必要なレアメタルを採掘するために、鉱山で児童労働が横行すれば、それは国連の掲げる持続可能な発展と言えるのか。そう強く意識して、都筑さんは日々教育に携わっているそう。

提供:辰野町観光協会

「SDGsのファシリテーターをしていて、強く思っているのは、社会課題に興味を持つのは素晴らしいことだけれども、特定の社会課題だけを知り、それにだけ取り組めばいいというのではないということ。課題を解決するために何かを推し進めると、そこでトレードオフが起こる可能性がある。自分達の取り組みが、どこかでは悪い影響になって連鎖してしまうかもしれないという視点を欠いたまま、いいことに取り組んでいるんだよとなってしまうと、それはかなり問題だなと思います。社会課題をまずはマクロな視点で、SDGsの枠組みを利用しながら分析した上で、ミクロに足元から行動していく— その点を今後も意識していきたいですし、同じく社会課題に取り組む行政、事業者、個人にも考えてほしいと願っています」

王城山頂からは、南と中央アルプスに挟まれた伊那谷が一望できるそうです。

東京や千葉で暮らしていた期間が長かったという都筑さん。辰野町で暮らし始めて、アルプスが身近になり、雲の低さや自然の美しさに何年経っても驚くそうです。辰野町では毎年ほたる祭りが開催されていて、コロナ前は、住民の数よりも蛍の数が多いと言われるくらいたくさんの美しい蛍の姿を求めて、地域外から観光客が訪れていたそうです。そんな町を誇りに思い、蛍が住み続けられる環境を守りたいと願う住民がたくさんいると都筑さんが教えてくれました。これから辰野町でも気候変動への意識が高まっていくのではないかと思います。

今回実施した気候変動適応のミステリーワークショップ
開催日:2022年5月28日(土)
開催地:長野県/辰野町 辰野町民会館

(2022年8月22日掲載)

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