「令和5年度 気候変動適応に係る国民の理解度」調査結果紹介

国立環境研究所気候変動適応センターは気候変動影響・適応に関する情報の収集・整理・分析や研究を推進し、その成果を広く提供することで、政府、地方公共団体による気候変動適応に関する計画の策定や適応策の実施をはじめ、事業者や個人を含む各主体による気候変動適応に関する取り組みを推進しています。
その一環として、「令和5年度 気候変動適応に係る国民の理解度」に関する調査を実施しました(2024年3月25日(月)~4月3日(水)に実施)。ここでは、アンケート結果の概要をご紹介します。

【調査結果のポイント】

  • 全体の傾向として、気候変動の影響や適応策に関する認知度・関心度は、前回調査と比べ着実に高まっています。中でも特に、暑熱や気象災害(防災対策)、農水産品への影響などへの関心が高まっており、この背景には、昨年夏の記録的猛暑等の影響もあると考えられます。
  • 一方で、年齢別にみると、前回調査と同様に、若年層と高齢者層の間で認知度・関心度に差が見られます(年齢層が上がるほど関心度等も高まる傾向)。
  • また、気候変動適応の認知経路については、前回調査と同様に、若年層はSNSや学校教育、高齢者層はテレビや新聞等が多い傾向であり、年代により情報源が異なることが読み取れます。特に今回調査では高齢者層でもSNSが増加しており、高齢者層でもSNSの活用機会が拡大していることがうかがえます。
  • 実践している気候変動適応の取り組み、今後実践したい取り組みについては、各種の災害対策に関連する項目が上位となり、特に熱中症対策関連の取り組みが、前回調査と比較して増加していました。

【回答者の属性】

今回の調査は、性別、居住地域、年代で割付を行い、調査を実施しています。

図1 回答者の属性

【気候変動影響の認知状況と情報提供について】

気候変動の影響について「知っていた」とする回答は、今回調査(2024年3月)では全体結果で77.1%(昨年度74.1%)となりました。前回調査(2023年2月)からの増加は3.0ポイントとなっています(有意水準5%で有意差あり)。
また、年代で比較をすると、「知っていた」とする回答率は60歳以上が最も高く、50歳代がこれに次いで高くなりました。こうした年代別分布の全体傾向は前回と変わりませんが、60歳以上を除く4つの年代で、前回から2ポイント以上増加する結果となっています(いずれも有意水準5%で有意差あり)。
地域で比較をすると、「知っていた」とする回答率に大きな地域差は見られず、この傾向は前回と同じでしたが、「中部」と「近畿」を除く5つの地域で前回から2ポイント以上増加する結果となっています(いずれも有意水準5%で有意差あり)。

図2 気象変動の影響の認知

気候変動影響の情報提供の充足度については、「十分提供されている」4.4%(前回から有意水準5%で有意差なし)、「ある程度提供されている」51.5%(前回から有意水準5%で有意差あり)の計55.9%、すなわち約半数の方が気候変動影響の情報提供に充足していると回答し、前回より4.6ポイント増加する結果となりました。
年代で比較をすると、全体としてU字型(中間の年齢層が低く、若年層と高齢層が高くなる)の傾向は前回とおおむね同じでしたが、「60歳以上」で「提供されている(計)」が62.1%と高く、前回から2ポイント以上増加する結果となっています。また地域で比較をすると、大きな地域差は見られず、この傾向は前回と同じでしたが、「中部」以外の5地域は前回から2ポイント以上増加する結果となっています。

図3 気象変動影響に関する情報提供の充足度

【気候変動影響への関心】

気候変動影響への関心については、78.0%(「とても関心がある」と「ある程度関心がある」の計)が気候変動の影響に関心があると回答しており、前回より1.8ポイント増加する結果となりました(「とても関心がある」は有意水準5%で有意差なし、「ある程度関心がある」は有意水準5%で有意差あり)。
また、年代では、60歳以上で「関心がある(計)」が88.6%と最も高くなり、昨年度と同様にして、年齢層が高くなるほど関心度が高くなる全体傾向が見られました。

図4 気候変動影響への関心

【日常生活の中で気候変動影響を感じる現象】

日常生活の中で気候変動の影響を感じる現象については、「夏の暑さ」の80.2%が前回同様最も多い結果となりました。次いで、「台風や洪水、土砂災害などの増加」(72.0%)、「雨の降り方の激しさ」(63.1%)、と続きます。地域別では、「台風や洪水、土砂災害などの増加」が「東北」「中国・四国」「九州・沖縄」で選択割合が高く、「雨の降り方の激しさ」は「中国・四国」「九州・沖縄」で選択割合が高く、「冬の寒さや雪の降り方の変化」は「北海道」「東北」で選択割合が高い傾向がありました。
「植物の開花時期や分布の変化」「夏の暑さ」は、全体的に前回より大きく増加していることがわかりました(いずれも有意水準5%で有意差あり)。
特に「夏の暑さ」については、2023年の夏季(6-8月)の平均気温が平年値を1.76℃上回り、1898年の統計開始から最も高くなったと気象庁が公表しており、その気温上昇を回答者が体感した機会が多かった可能性が影響したとも考えられます。

図5 日常生活の中で気候変動の影響を感じる現象

【気候変動の特に問題だと思う影響】

気候変動の影響の中で問題と思うものについての回答は、「気象災害の増加」(77.3%)や「農水産物等の品質・収穫量低下」(69.3%)「インフラ・ライフラインの被害」(65.5%)に対する回答が上位となりました。
前回と比較し、「熱中症の増加」「生活環境の快適さが損なわれる」「デング熱等の感染症の増加」などは大きく増加する結果となっています(いずれも有意水準5%で有意差あり)。
地域別では、「渇水の増加」が「東北」「関東」「中国・四国」「九州・沖縄」でやや選択割合が高い傾向がありましたが、その他の選択肢については、大きな地域差は見られませんでした。

図6 気候変動の影響で問題と思うもの

【気候変動適応の認知状況と知りたい情報】

気候変動適応の認知状況は「言葉も取り組みも知っていた」7.3%、「言葉は知らなかったが、取り組みは知っていた」21.8%、「言葉は知っていたが、取り組みは知らなかった」22.6%となり、いずれも前回から増加しました(いずれも有意水準5%で有意差あり)。

図7 気候変動適応の認知状況

気候変動適応の認知経路は「テレビ/ラジオ」が最も多く63.0%、次いで「インターネット」(42.6%)、「新聞・雑誌・本」(32.6%)と続きます。60歳以上は「テレビ/ラジオ」「新聞・雑誌・本」、18-29歳は「SNS」「学校などの教育機関」と回答した方がそれぞれ全体よりも10ポイント以上高い結果となりました。前回と同様、年代により認知経路(情報源)に違いがあることが分かります。ただし、前回と比べ増加幅が最も大きかった「SNS」は、低い年齢層だけでなく、高い年齢層でも選択割合が増えていました。

(※R4年度調査で選択肢自体や文言に変更あり)
注:この設問自体はR3年度調査で聴取なし

図8 気候変動適応の認知経路

気候変動の影響や適応について知りたい情報では、「日本の気候変動の影響」(57.6%)「気候変動の将来予測」(42.8%)が上位となりました。
また、「日本の気候変動の影響」「お住まいの地域の気候変動の影響」「個人が取り組める適応策の事例」は前回から2ポイント以上増加する結果となっています(いずれも有意水準5%で有意差あり)。

図9 気候変動影響や適応について知りたい情報

【実践している気候変動適応への取り組みと今後実践したい取り組み】

実践している気候変動適応への取り組みとしては、「様々な熱中症対策」が48.8%、「ハザードマップの利用など」が33.9%、「自然災害時の備蓄強化」が30.0%と、上位になりました。
また、「様々な熱中症対策」や「熱中症警戒アラートの利用」は全国的に前回から大きく(5ポイント以上)増加する結果となっています(いずれも有意水準5%で有意差あり)。

図10 実践している気候変動適応への取り組み

現在は取り組んでいないことで、今後、実践してみたい気候変動適応への取り組みの回答は、「自然災害時の水・食料の備蓄の強化」が24.6%で第1位となりました。前回から3.8ポイント増加(有意水準5%で有意差あり)しており、災害に対する備えの意識が各地域で高いことが読み取れます。

図11 今後実践したい気候変動適応への取り組み

【気候変動適応の実践への課題】

気候変動適応の実践への課題では、「経済的なコスト」が44.9%、「取り組みに関する情報の不足」が42.1%、「気候変動適応の効果が不明瞭なこと」が40.4%と、上位3項目は前回と同じ順位になりました。「気候変動適応の効果が不明瞭なこと」は、前回と比較をすると2ポイント以上増加しています(有意水準5%で有意差あり)。
気候変動が実際の生活に及ぼす災害等についての危険認識は高まり、その備えの実践や今後の取り組み意識も高まっているものの、それらに対する気候変動適応の実践活動については、むしろ課題が強まる結果になっているのかもしれません。

図12 気候変動適応の実践への課題

【気候変動適応に関して政府に期待する取り組み】

気候変動適応への取り組みについての政府への期待では、「洪水、高潮・高波などへの防災対策」(54.9%)、「農作物の品質や収穫量、漁獲量への対策」(50.3%)、「渇水対策や水資源の保全対策」(44.1%)が上位となりました。防災と食料・飲料の保全に関わる回答が高い結果となっています。
また、「まちづくりにおける暑熱対策」は昨年よりも5.2ポイント増加し、「デング熱などの蚊を媒介とする感染症対策」も3.1ポイント増加しました(いずれも有意水準5%で有意差あり)。

図13 気候変動適応に関して政府に期待する取り組み

本アンケート結果を参考に、弊所気候変動適応センターでは引き続き気候変動適応の推進に向けた取り組みを進めて参ります。アンケートにご協力いただきました皆様に改めて感謝申し上げます。

<調査の概要>

1.調査目的

  • 国立環境研究所気候変動適応センターをはじめとする適応の推進母体が、各種事業を検討・実施する上での参考とするため。

2.調査対象者

  • 居住地:全国7地域(北海道地域、東北地域、関東地域、中部地域、近畿地域、中国・四国地域、九州・沖縄地域)
  • 年代:18歳~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60歳以上
  • 性別:男性、女性、(その他)※
  • 割付:各地域×年代×性別(※その他については割付の枠外とした。)

3.調査手法

  • インターネット調査

4.調査時期

  • 2024年3月25日(月)~4月3日(水)

5.調査結果の見方

  • nは回答者数を表している。
  • 回答率(%)は小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までを表示している。このため、合計数値は必ずしも 100%とはならない場合がある。
  • 設問の回答には、単一回答と複数回答がある。複数回答の設問は、回答率(%)の合計が 100%を超える場合がある。
  • nが30未満の数値は参考値とする。

6.調査項目一覧

  • SA(シングルアンサー):単一回答
  • MA(マルチアンサー):複数回答 ※MT:マトリクス(表組)
出典・関連情報
(2024年9月2日更新)

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