気候変動適応法の位置付け

気候変動適応法成立の背景

気温の上昇、大雨の頻度増加や、農作物の品質低下、動植物の分布域の変化、熱中症リスクの増加をはじめとした気候変動やその影響が全国各地で確認され、さらにこうした影響は今後長期にわたり拡大するおそれがあるとされています。

日本においては、京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)での京都議定書の採択を受け、地球温暖化対策推進法を制定し、地球温暖化対策、つまり主に気候変動の緩和に取り組むための枠組みを定めました。

この法律の下で、温室効果ガスの排出削減対策など、緩和について着実な取組が進んできましたが、その一方で、気候変動の影響による被害を回避・軽減する気候変動の適応に関する政策は法的に位置付けられていませんでした。

同法の下においても適応の取組は進められていましたが、気候変動の影響が今後さらに深刻化する懸念から、適応がより一層重視されることとなり、気候変動適応法が2018年6月に公布、同年12月より施行されました。

気候変動適応法の効果

気候変動適応法の成立によって、政府による気候変動適応計画の策定、環境大臣による気候変動影響評価の実施、国立環境研究所による気候変動適応を推進するための業務の実施、地域気候変動適応センターによる気候変動適応に関する情報収集及び提供などを実施することが定められました。

これにより、気候変動への適応が法的に位置づけられることになり、国、地方公共団体、事業者、そして私たち国民一人ひとりが連携・協力して適応策を推進するための枠組みが整備され、法的根拠に基づく取組が実施しやすくなりました。

気候変動適応法の概要

ここまで、気候変動適応法が成立した背景を見てきました。
次は、この「気候変動適応法」がどのようなことを定めた法律なのか、その内容について見ていきましょう。

適応の総合的推進

気候変動適応法は、気候変動適応推進のために、国、地方公共団体、事業者、国民のそれぞれに期待される役割を明確に示しています。
国は、気候変動適応計画を策定し、その進捗を把握・評価するとともに、気候変動影響評価をおおむね5年ごとに行い、その結果などを勘案して計画を改定することとしています。(第3・7~10条)

また、適応策を推進するにあたっては、防災や農林水産業振興、生物多様性保全など多様な分野の施策に適応の観点を組み込む必要があります。そのため、国及び地方公共団体において、これらの施策間での連携を図るよう努めることとされています。(第15条)
加えて、国際間の情報共有や、開発途上地域に対する技術協力など、国際協力に関しても努めることとされています。(第18条)

情報基盤の整備

適応策を推進するためには、前提として気候変動の影響や適応に関する情報が広く提供されていることが重要になります。

そのため、国立環境研究所(以下、研究所)が適応に関する情報基盤の中核を担い、気候変動影響及び気候変動適応に関する情報の収集、整理、分析及び提供、また地方公共団体等への技術的助言・援助等を行うこととされています。(第11条)
あわせて、気候変動適応法では、私たち国民一人ひとりの日常生活での気付きや知恵を有用な情報として捉えています。そのため、研究所においてもこうした情報を集約することが定められています。(第11条)

地域での適応の強化

地方公共団体においても気候変動適応の推進が求められています。(第4条)
そのための取組の一つとして、地方公共団体に、地域気候変動適応計画策定の努力義務が課されました。気候変動の影響は、地域の気候や地理などの自然環境、産業・経済・社会状況によって異なるため、その地域ならではの計画を策定することが重要になります。(第12条)

また、その実行にあたっては、適応の情報収集・提供等を行う拠点として、地域気候変動適応センターを設置し、適応策を推進する体制を確保するよう努めることとされています。(第13条)
加えて、地方公共団体においては、その地域の事業者に対し、適応に資する事業活動を促すため、適応に関する情報提供を行うことも定められています。(第4条)

事業者の適応の促進

事業者においては、気候変動の影響が事業活動にも大きな影響を及ぼしうることをふまえて、リスク管理という観点で、事業内容に即した適応策の取組や国・地方公共団体の適応策に協力するよう努めることが定められています。
また、事業分野に応じては、減災・防災に資する技術開発、高温耐性品種の開発などの事業分野に応じた適応ビジネスへの取組も期待されています。(第5条)

国民の適応に向けた期待

私たち国民については、適応の重要性に対する理解関心を深めること、国や地方公共団体の適応策に協力することが期待されています。(第6条)
気候変動の影響は、私たち一人一人の生活に及ぶものです。そのため、私たち自身が気候変動の影響を自らの問題として捉え、適応について関心を持つことが期待されています。

気候変動適応法の概要
気候変動適応法の概要
(出典:環境省「気候変動適応法概要」

最近の法改正

最近の動向として、2023年2月の閣議決定により気候変動適応法の一部が改正され、2023年5月に公布、2024年4月に施行されました。
これは、気候変動の影響により、国内の熱中症死亡者数は増加傾向が続いており、近年では年間千人を超える年が頻発していることから、今後起こり得る極端な高温も見据え、熱中症対策を一層推進するためのものです。

法改正により、主な取組として、政府による熱中症対策実行計画の策定、熱中症特別警戒情報の発表及び周知、指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)の創設、熱中症対策普及団体の指定が進められています。