気候変動による害虫増殖から果樹を守る<w天>防除体系の開発

掲載日 2023年7月20日
分野 農業・林業・水産業
地域名 全国

気候変動による影響

近年の地球温暖化の影響によって、ハダニの発生期間が長くなる傾向にあり(注1)、爆発的な被害の拡大が懸念されています。ハダニは、葉の表面を吸汁加害し、これが多発すると果樹は早期落葉を引き起こし、果実の品質低下や秋季の二次伸⾧による樹体の衰弱を招きます。また、カンキツ類に対しては果実表面も加害し、果面のかすり症状を引き起こします。

取り組み

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構では、ハダニ防除のため、土着天敵(注2)と天敵製剤(注3)を活用したハダニ防除法「<w天>防除体系」を開発しました。

「<w天>防除体系」は、ハダニの天敵を主体とした新しい果樹ハダニ類管理技術で、経済性に優れた「土着天敵の保全的利用」と、使い勝手の良い「天敵製剤による放飼増強法」を基本とし、殺ダニ剤への依存を大きく減らしたハダニ類管理を実現しています(図1、図2)。また、<w天>防除体系は、①天敵に配慮した薬剤の選択による天敵保護、②天敵にやさしい草生管理による天敵の住処や餌を提供、③補完的な天敵製剤の利用によるハダニ類の急増を抑制、④協働的な殺ダニ剤の利用による防除効果の安定化から構成され、ハダニ類の発生を安定して抑制することができます。

最低限の農薬の使用でハダニを抑制できることを検証した結果、秋田県のリンゴ園での事例では、薬剤防除法では年 3 回以上の散布でもハダニの増殖を抑制できなかったのに対し、<w天>防除体系を導入することで薬剤散布を年 1 回に減らしながら、ハダニ密度を要防除水準以下に抑えることができました。

効果/期待される効果等

<w天>防除体系の導入で、、ハダニに対する薬剤散布回数(あるいはコスト)の大幅削減、ハダニ被害軽減による生産者の増収が見込まれます。また、天敵が自発的に分散する天敵製剤を利用する<w天>防除体系は、重労働である薬剤散布作業を減らし、生産者の負担を軽減できます。産業的には、体系化された使用法を提示することで、天敵製剤の市場拡大が期待されているほか、減農薬栽培による安心・ 安全な農作物の安定供給に貢献できます。

ハダニを捕食する天敵カブリダニ
図1 ハダニを捕食する天敵カブリダニ
(出典:農研機構「気候変動による害虫増殖から果樹を守る<w天>防除体系の開発」)
土着天敵と天敵製剤を活用したハダニ防除法
図2 土着天敵と天敵製剤を活用したハダニ防除法
(出典:農研機構「気候変動による害虫増殖から果樹を守る<w天>防除体系の開発」)

脚注
(注1)ハダニは、発育・増殖が極めて早い。ナミハダニは、25℃なら約10日で卵から成虫へと発育し、雌は生涯で約170個を産卵する。つまり、2週間後には約70倍に増殖する能力を有する。30℃では増殖スピードはさらに上がり、1週間で約20倍、2週間で約400倍に増殖する能力を持つ。
(注2)土着天敵とは、もともと園内外に生息する天敵(類)を示す。農業生態系の中で土着天敵がある程度害虫の発生抑制に働いていることが明らかになってきた。野菜のハウス栽培において、積極的に土着天敵をハウス内で活用する取り組みも行われている(例:タバコカスミカメなど)。
(注3)天敵製剤とは、農業害虫の天敵を害虫防除目的で農薬取締法上の農薬として登録し、製剤化したもの。アブラムシ類に対する寄生蜂類やテントウムシ類などが含まれる。ハダニ類に対してはカブリダニ類を使用した天敵製剤が上市されている。

出典・関連情報

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