温暖化と獣害軽減に対応した新たな飼料作物生産体系
掲載日 | 2023年7月24日 |
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分野 | 農業・林業・水産業 |
地域名 | 関東(群馬県) |
気候変動による影響
群馬県前橋市の年平均気温は、この100年で2.0℃程度上昇しています。気温上昇は、農作物の種類や作付け・収穫時期の変化、その他地域固有の動植物種の変化など、様々な分野に影響を及ぼします。群馬県においても、米の白未熟粒やりんごの日焼け果等、強い日射・高温による農作物被害が確認されています。
取り組み
飼料作物については、温暖化により二毛作等が可能になる地域が拡大する場合もある一方で、獣害により作付けを行う意欲の減退が生じており、飼料作物生産の減少要因の一つとなっています。 そこで群馬県では、高温条件下で生育良好であり、これまでの研究成果等から獣害を受けにくいことが分かっている「ソルガム(注1)」を活用して、夏季に高温となる温暖地中山間地域の気候に適した新たな飼料作付体系を確立しました。
これは、スーダン型ソルガム新品種「涼風(図1)」の2回刈りと、イタリアンライグラス「優春(注2)」の1回刈りを組み合わせて年に3回刈取を行う、群馬県内農耕地の大部分で導入可能な生産体系です(図2)。「涼風」は、従来の獣害対策で利用されるソルゴー型ソルガムと比べると、収量の年次間差が小さく安定栽培が見込めることや、牧草用収穫機械を用いた省力的な栽培・収穫が可能であること等の利点があります。
群馬県では、セミナー等によりこれらの情報を提供し、獣害等で飼料用トウモロコシの作付けが困難な地域での普及を進めています。
効果/期待される効果等
この飼料作付体系を活用することで、クマやイノシシ等の獣害により、トウモロコシの栽培が困難になった地域や、トウモロコシの収穫・調整が難しい農家でも、栄養価が高く発酵品質が良好な飼料を省力かつ安定的に生産できることが期待されます。また、高温条件下でも生育が良好な品種を選定しているため、今後の気候変動下においても安定した収量が期待されます。
脚注
(注1)ソルガム(Sorghum bicolorMoench)は、飼肥料作物として全国的に栽培されている作物である。岩手県から沖縄県にかけて栽培されており、飼料用トウモロコシと並ぶ、重要な飼料作物として位置づけられる。
(注2)後継品種は「タチユウカ」となる。
群馬県飼料作物奨励品種一覧(2023年3月28日現在)
出典・関連情報
- 群馬県畜産試験場 飼料環境係「温暖化と獣害軽減に対応した新たな飼料作物生産体系」(2017年11月10日)
- 農研機構 畜産研究部門・中央農業研究センター、農研機構 西日本農業研究センター、長野県畜産試験場、群馬県畜産試験場、新潟県農業総合研究所畜産研究センター、茨城県畜産センター、神奈川県畜産技術センター「スーダン型ソルガム新品種「涼風」および「峰風」を活用した粗飼料生産マニュアル(関東甲信越地域向け)<2016年度版>」(2017年1月27日)
- 群馬県「群馬県地球温暖化対策実行計画 2021-2030」(令和3年3月)
- 清沢 敦志「ソルガム類の近年の品種育成の動向」日草誌61(3):177-183(2015)