おいしく、夏の暑さでもきれいに実るお米「いちほまれ」

掲載日 2024年6月17日
分野 農業・林業・水産業
地域名 中部(福井県)

気候変動による影響

福井県の気温は上昇傾向にあり、100年あたりの年平均気温は福井市では1.6℃、敦賀市では1.7℃上昇しています。さらに、21世紀末における福井県の年平均気温は、厳しい温暖化対策を取った場合でも約1.4℃、厳しい温暖化対策を取らなかった場合は約4.4℃上昇すると予測されています。

福井県が発祥のお米「コシヒカリ」は、気温上昇によって種まきから幼穂分化までの期間が短くなり、1990年代以降、出穂期が早くなる傾向が見られています。5月初旬植えの場合、7月下旬の出穂となり、高温期と重なります。その結果、白未熟粒などの発生を増加させ、「コシヒカリ」の一等米比率の低下につながっていると考えられています。

取り組み

福井県では、2011年5月に福井県農業試験場に「ポストコシヒカリ開発部」を新設し、以下の3つの明確な育種方針の下、「コシヒカリ」を超える新たな「福井の新しいブランド米」の開発プロジェクトを開始しました(下表)。

  1. 消費者の好みに合った味わいのある『おいしい』品種
  2. 夏の暑さでもきれいに実り、おいしい味を実現し、倒れにくい品種
  3. 病気に強く、有機質肥料で安定して栽培でき、農薬や化学肥料の使用を減らし、ふるさと福井の自然に負荷が少ない『環境にやさしい』品種
実施年 実施内容
2011年 ◎手作業での選抜

「コシヒカリ」を生んだ福井県農業試験場が、60年以上にわたり蓄積してきた水稲育種の経験と交配により育成した「福井の新しいブランド米」の候補20万種を1本1本田んぼに植え付けました。草丈、穂が出る時期、耐病性、収量などを丁寧に調べ、収穫した玄米の見た目を一粒ずつ確認することで1万2千種まで選抜しました。

2012年 ◎「DNAマーカー」による選抜

稲の遺伝子により性質を識別する「DNAマーカー」による選抜を(独)農業生物資源研究所との共同研究により、全国に先駆けて取り組みました。これにより、高温に強い味を持つ米の性質を正確かつ、効率的に選抜しました。

2011年~2014年 ◎食味調査

消費者目線の『おいしい』を反映させるため、都市圏を中心とした消費者やプロの料理人の方々を対象とした米の「食味調査」を実施し、消費者の好みの分析研究を行いました。そして、その結果を踏まえた食べ比べや、ごはん粒一つ一つの硬さや粘りの測定、米のデンプン成分の構造分析などにより、ごはんの粘り、硬さ、成分などを科学的な裏付けを行い、それをもとに更なる選別を行う事で、「コシヒカリ」を超えるおいしさを持つお米を選抜しました。

2015年~2016年 ◎栽培試験

県内各地で農業者による栽培試験を行ってもらい、その結果を選抜に生かしました。

2016年



2016年12月2日
◎最終選抜

「福井の新しいブランド米」に福井県民自らが愛着と誇りを持てるよう、県民による4品種の食味評価を行い、その結果と専門家の意見を踏まえて、県が最終的な1品種を決定しました。

こうして、県内農業者、消費者、農業団体等の力を集結して、「福井の新しいブランド米」水稲品種「いちほまれ(越南291号)」が誕生しました(図)。

表 「いちほまれ」開発プロジェクトの流れ

「いちほまれ」は2018年に本格デビューを果たし、全国へ流通されています。

効果/期待される効果等

2023年度の「いちほまれ」は「コシヒカリ」と比較して、一等米比率が97%(コシヒカリは81%)と高品質生産となりました。また、食味ランキング(注)では、2022年度、2023度と2年連続で特A評価を獲得しています。
さらに福井県では、「いちほまれ」の栽培マニュアルの拡充やスマート農業技術の推進などにより、高品質で良食味米の生産拡大を図ります。

いちほまれの栽培の様子
図 いちほまれの栽培の様子(於2023年9月14日大野市富嶋)
(出典:ふくいブランド米推進協議会ウェブページ「いちほまれ栽培情報 2023」)

脚注
(注)一般財団法人日本穀物検定協会が、主な産地品種銘柄の供試試料を食味試験した結果に基づいて評価するもの。
(出典:一般財団法人日本穀物検定協会ウェブページ「食味試験」https://www.kokken.or.jp/ranking_area.html

出典・関連情報

ページトップへ