サンゴ礁の保全・再生

掲載日 2023年10月20日
分野 自然災害・沿岸域 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響

現在サンゴ礁生態系は、白化の高頻度化、台風の大型化、赤土等の流出による様々な影響により衰退傾向にある。

4℃上昇を仮定した予測では、熱帯・亜熱帯の造礁サンゴの生育に適する海域が水温上昇と海洋酸性化により日本近海から消滅すると予測されている。一方、3℃上昇を仮定した予測では、今世紀末においても生育適域が一定程度残存するとされている。

気候変動に対する順応性の高い健全な生態系を保全・再生するため、様々な目的の海洋保護区等を連携させて効果的に配置することを主体に、沿岸生態系の連続性を確保し、生態系ネットワークの形成を図るとともに、従来実施されてきた気候変動以外の要因による生物多様性の損失への対策について、気候変動適応の観点を考慮した上で、優先順位を付けて実施することが必要である。

(気候変動適応計画(2021、閣議決定)より抜粋・引用、一部CCCAにてインフォグラフィックを参考に追記)

取り組み

オニヒトデの駆除(個体数管理)1) サンゴの捕食者であるオニヒトデを潜水により駆除する。かぎ針とネットを用いて海上に引き上げる、水中で切断する、注射器による酢酸注射などの方法がある2)
食害防止カゴによるサンゴの保全 カゴや侵入防止柵でサンゴを保護することにより、サンゴ(稚サンゴ含む)の捕食者となりうる、ブダイやハクセイハギ、ガンガゼ等による食害を防ぐ3)
有性生殖によるサンゴ再生法 種苗生産により生産した大量の稚サンゴを岩盤やブロックなどに移植する3,4)
無性生殖によるサンゴ再生法 親個体から切り出した断片を育成施設で養殖し、その後移植する。その他、折れた枝やサンゴ群体を別の場所に移し替える、基質ごと移し替える方法もある(移築)3,5)

事例

国内におけるサンゴ保全・再生の取り組み

 沖縄などでは、オニヒトデの駆除や食害防止カゴによるサンゴの保全、有性生殖によるサンゴの回復にむけた取り組みを実施している。3)

期待される効果等

サンゴ礁は天然の防波堤とも呼ばれ、台風等による高波や津波などによる浸水、浸食被害を防止する効果がある。6)

また、サンゴの骨格や有孔虫の殻はサンゴ礁内の砂となり、砂浜の形成に大きく貢献し、海岸保全の役割を果たす。3)適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 多様な生息環境の創出(隠れ家・生育場)
サンゴ礁地形により、様々な生物の生息環境(波の強い外海、穏やかな海域、砕波帯等)が提供され、それぞれの環境を好む多様な生物群集が構成される。7)また、海の生物の隠れ家や産卵場所として利用される。8)
緩和策 炭素固定
サンゴは、光合成と石灰化という2つの経路によって炭素循環に関わっており、石灰化により二酸化炭素を放出する一方、光合成により二酸化炭素を吸収する。9)
ただし、サンゴが二酸化炭素の吸収源か発生源かといったところについては様々な議論がなされている。9,10,11)

ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • サンゴの移植には、遺伝的攪乱を引き起こす、ドナー群体を傷つける、密漁を助長する、病原菌などを持ち込む、生息地破壊の免罪符ともなりうる、といったマイナスの影響もあるので注意が必要である。12)また、有性生殖法・無性生殖法ともに、移植されたサンゴの3年後の生残率は40%以下であり、場所によっては10%以下になったという報告もあり13)、慎重に検討すべきである。

脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報

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