「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

サンゴ礁を救うための魚類の保護

掲載日 2021年1月20日
分野 自然生態系 / 農業・林業・水産業
地域名 海外(アメリカ合衆国ハワイ州)

気候変動による影響

米国ハワイ州マウイ島の西海岸沖に広がる熱帯地方のサンゴ礁は、数々の魚や様々な生物の生息地であり、観光及び地域住民の水産業に大変重要な役割を担っています。しかし、カアナパリ・ビーチのサンゴ被度(注)は1994年から2006年の間で40%減少するなど、気候変動はサンゴ礁に悪影響を及ぼしています。

取り組み

藻類の過度な成長と同時に起こるサンゴ礁の生息地の減少は、藻類の成長を促進する要因(廃水や肥料による汚染)と阻害する要因(草食性魚類やウニ)のバランスの喪失が原因と示唆されています。サンゴにとって好ましい競合的なバランスを取り戻すためには、藻類の繁茂の抑制する必要がありました。
ハワイ州土地天然資源局は、対策の1つとして、藻類を食べる魚類やウニなどの草食性生物を守るための漁業規則の変更を提案しました。これは、草食性生物が増えると、藻類の過度な増殖を抑制することが出来ると考えられるからです。まず、マウイ島のサンゴ礁の現状と傾向、ならびに草食性生物の保護計画の詳細を取りまとめました。そして、16回にも及ぶプレゼンテーション等を通じて、800人以上の州住民に情報提供を行いました。また、規則の影響を最も受ける先住民や関係者の支持を得るための取り組みを行いました。その結果、保護計画について住民たちの理解を得ることが出来ました。
草食性生物の保護計画試行に際し、特別な管理策や保護策も存在しない北カアナパリ・ビーチやカヘキリビーチパーク沖合のサンゴ礁の減少を食い止めるため、2009年にカヘキリ草食動物漁業管理地域(KHFMA)が指定されました。KHFMAでは、ニザダイやブダイ、メジナ等の生物の殺傷、保持及び駆除することを違法としました。また、全てのウニ類の捕獲及び魚の給餌も禁止されました。

効果/期待される効果等

2015年時点で、KHFMAにおけるブダイとニザダイのバイオマスはそれぞれ139%と28%増加しています(図)。さらに、サンゴの幼生の定着と成長に適した石灰藻の被度は、2009年の2%から2015年の15%に増加しました。一方、大型藻類の被度は、この期間内で低く抑えられています。
また、草食性生物の保護計画に対する地域の理解は必ずしも肯定的ではありませんでしたが、特にサンゴの衰退を目の当たりにしていた刺突漁師を含めた漁業者は、地域のサンゴ礁とその生態系サービスの維持に資する当計画の将来性を認識し、計画を強く支持しました。また、先住民の漁師も当計画が次世代のための資源の維持という目的に役立つと捉えました。
KHFMAは、州機関と地域コミュニティが協働する優れた例であり、将来のサンゴ礁の回復力を高めるものと期待されています。

図 ブダイ(A)とニザダイ(B)の生物量の変化

 図 ブダイ(A)とニザダイ(B)の生物量の変化
(出典:Ivor D. Williams、Darla J. White、Russell T. Sparks、Kevin C. Lino、Jill P. Zamzow、Emily L. A. Kelly、Hailey L. Ramey 「Responses of Herbivorous Fishes and Benthos to 6 Years of Protection at the Kahekili Herbivore Fisheries Management Area, Maui」)

脚注
(注)サンゴ被度とは、海綿動物や藻類などの生物ではなく、生きたイシサンゴによって覆われているサンゴ礁表面の割合の尺度をいう。

出典・関連情報
U.S. Climate Resilience Toolkit 「Protecting Fish to Save Coral Reefs」
https://toolkit.climate.gov/case-studies/protecting-fish-save-coral-reefs
Ivor D. Williams、Darla J. White、Russell T. Sparks、Kevin C. Lino、Jill P. Zamzow、Emily L. A. Kelly、Hailey L. Ramey 「Responses of Herbivorous Fishes and Benthos to 6 Years of Protection at the Kahekili Herbivore Fisheries Management Area, Maui」
https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0159100&type=printable