干潟の保全・再生
掲載日 | 2023年10月20日 |
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分野 | 自然災害・沿岸域 / 自然生態系 |
地域名 | 全国 |
気候変動による影響
干潟の面積は全国的に減少している。特に有明海、八代海、東京湾などの内湾部においては顕著である。全国で1978年から1992年までに消滅した干潟の面積は3,857haであり、そのうちの42%が埋め立てによるものである。1) さらに、将来的に、海面水位の上昇による砂浜と干潟の侵食が予測されている。
また、海水温の上昇は、有害有毒プランクトン・魚類の発生場所や時期、藻類の異常発生にも影響を及ぼしている可能性があり、東京湾の谷津干潟では 1990 年代の気温の上昇により、アオサ類の異常増殖(グリーンタイド)が発生・拡大したとの報告がある。
干潟空間の主な環境機能としては、生物生息機能、水質浄化機能、生物生産機能、親水機能、その他、の5つにわけることができる。1) 豊かな生態系を育む機能を有し、水産資源の増殖に大きな役割を果たしている藻場・干潟の実効性のある効率的な保全・創造が課題となっている。
(気候変動適応計画(2021、閣議決定)及び気候変動影響評価報告書(2020、環境省)より抜粋・引用、一部CCCAにて参考文献を参照し追記)
取り組み
干潟の耕耘・造成等によって干潟を保全・再生し、水質の浄化や干潟固有の生物の生息環境の創出、炭素固定等の機能を発揮させる。
人工干潟造成 | 海岸の一部を、石積み、護岸などで仕切って、その岸側に捨て石、盛砂などの後、覆砂の工法を用いて新しい干潟を造成する。2) |
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作澪 | 局部的に導水部を掘ることで澪をつくり、流速や流量を増大させる。これにより、海水交換が促進され、より溶存酸素濃度の高い海水を導き、好気的な干潟や浅場環境を確保できる。2,3) |
干潟耕耘 | 人力、もしくはトラクター等により干潟を掘り返すことで、硬化した干潟面の軟化、雑藻の除去、還元層の酸化、栄養塩の溶出といった効果が期待できる。3) |
覆砂 | 悪化した底質の改善の方法として、適当な性状の土砂や砂を干潟に散布することであり、一般に底質が泥化した場合に行われる。3) |
整地 | 干潟潮間帯に生息する水産生物にとっては、海底地盤高は重要な生息環境要因である。そこで、地盤が高すぎる場合に、ブルドーザー等で排土し適当な高さまで地盤を下げる。3) |
事例
椹野川における干潟再生の取り組み
椹野川河口干潟等を自然・社会状況を踏まえて7つのゾーンに区分し、区分ごとに設定した目標に合わせた干潟の再生を行った。2004年度にはほとんど見られなかったアサリなどの稚貝やクルマエビの稚エビなどが2006年の調査でみられるようになり、2008年以降は漁獲サイズにまで成長したアサリも見られるようになった。4,5,6,7)
期待される効果等
干潟の表面には底生微細藻類による栄養塩の除去やバクテリアによる有機物の分解、二枚貝による海水中の懸濁物のろ過により水質の浄化に貢献している。干潟は陸域から流入する栄養塩の濃度の急激な変動を抑える緩衝地帯としての役割がある。8,9)
また、干潟は浜幅によって後背地への波の打ち上げを抑制することから、高潮や波浪の影響の軽減効果が期待される。10)
適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。
生物多様性 | 多様な生息環境及び干潟固有の環境の創出 地形や潮汐等に応じて多様な生息環境を提供することで、生物多様性保全に寄与 する。1,8)干潟は環境変化の激しい場所であり、干潟固有の生物が多く、種の多様性に貢献している。9) |
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緩和策 | 炭素固定 干潟には塩性植物、海水中や地表の微細な藻類を基盤に、食物連鎖でつながる多様な生き物が生息しており、それら植物や動物の遺骸が海底に堆積し、ブルーカーボンとして炭素を貯留する。11,12)海草の生育場となる(海草の藻場の海底には有機物が堆積する巨大な炭素貯留庫となっており、ブルーカーボンとして貢献する11,12))。 |
ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点
本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。
- 干潟そのものには多元的な価値(生態系の機能、水産業、景観、経済性など)が存在するため、情報の交流を通じて価値観の相違を可能な限り縮める努力が必要となる。2)
- 干潟造成を行うにあたり、地形の変化や流況・水質の変化を生じさせるため、このような変化が環境に与えるマイナスの影響を把握しておく必要がある。2)
- 干潟造成で用いる土砂・石を覆砂海域以外から持ち込む場合、土砂に含まれている様々な生物による対象地域の生態系への影響が考えられる。また、近くの山などから土砂採掘をする場合にも、土砂の跡地をどのように利用・活用するのかなどの地域環境への配慮も事前に行わなければならない。2)
脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。
出典・関連情報
- 1)運輸省港湾局監修, エコポート (海域) 技術WG 編 (1998) 【書籍】港湾における干潟との共生マニュアル,財団法人港湾空間高度化センター, 港湾・海域環境研究所刊, 東京
- 2)中村充, 石川公敏 (2007) 【書籍】環境配慮・地域特性を生かした干潟造成法, 恒星社恒生閣, 東京
- 3)水産庁 (2008) 干潟生産力改善のためのガイドライン
- 4)椹野川河口域・干潟自然再生協議会 順応的取り組み促進専門委員会 (2016) 椹野川河口域・干潟自然再生協議会の活動に関する評価及び提言書
- 5)環境省HP, 豊かな海を目指した取組の事例集(2023年2月11日閲覧)
- 6)環境省HP「自然再生」, 自然再生協議会の取組状況, 椹野川河口域・干潟自然再生協議会, 事業地紹介, 椹野川河口域・干潟自然再生協議会の概要について(2023年2月11日閲覧)
- 7)椹野川河口域・干潟自然再生協議会 (2019) 2018年度椹野川河口干潟自然再生報告書
- 8)水産庁 (2016) 藻場・干潟ビジョン
- 9)株式会社水土舎(水産庁委託事業) (2007) 平成18年度環境・生態系保全活動支援調査委託事業 沿岸域の環境・生態系保全活動の進め方(暫定指針)
- 10)JICA (2017) 生態系を利用した防災・減災(Eco-DRR)の実践 ~その効果、国際動向とJICAの取組~
- 11)桑江朝比呂, 吉田吾郎, 堀正和, 渡辺謙太, 棚谷灯子, 岡田知也, 梅澤有, 佐々木淳 (2019) 浅海生態系における年間二酸化炭素吸収量の全国推計, 土木学会論文集B2(海洋工学), Vol.75, No.1, 10-20第52巻第6号
- 12)国土交通省港湾局 (2021) 海の森ブルーカーボン CO2の新たな吸収源
- A-PLAT / 適応ビジネスの事例:沿岸情報マッピングサービス