アマモ等の海草藻場の保全・再生

掲載日 2023年10月20日
分野 自然災害・沿岸域 / 自然生態系
地域名 全国

気候変動による影響

日本沿岸域の生態系では海水温の上昇などにより、魚類・底生動物が大きな影響を受けることが予測されている。沿岸域の魚類・底生動物には漁獲対象種も多く、気候変動影響は水産業や観光業など多岐に及ぶ可能性がある。

アマモ等の海草は、沿岸生態系の基盤を構成する重要な要素である。しかしアマモ場は全国的に減少している。一方、アマモ場は炭素固定などを通じて気候変動緩和に重要な役割を果たしうることが指摘されている。そのため、アマモ場の保全・再生は、気候変動への適応と緩和の両面に貢献できる可能性がある。

取り組み

アマモ・コアマモ等の海草を保全・再生し、海岸浸食の抑制や水質の浄化、水産生物の生息環境の創出等の機能を発揮させる。

ゾステラマット法
(アマモのみ)
目合いの異なる2種類のヤシ繊維を金網で挟みこんだマット(50cm四方) の間にアマモの種子を約300-500個はさみこみ、海底に設置する。1)
播種シート法
(アマモのみ)
アマモ種子をヤシマットや生分解性不織布等で挟んだ「播種シート」(10mなど大型)を海底に設置する。1)
自然繁殖工法
(アマモのみ)
天然のアマモ場に移植用のマットを設置し、マット状に自然落下し、発芽したアマモを移植地へ移設する。1)
ガーゼ団子法
(アマモのみ)
アマモ種子と泥と砂の混合物を団子にし、ガーゼで包んで船上から海中に投入する。1)
中間育成法
(アマモ・コアマモ)
天然のアマモ場から採取した親株を陸上水槽で大量育成し、生分解性のヤシ繊維マットに播種し、定着させたものを海底に設置する。なお、この手法のみコアマモでも利用可能である。1)

事例

横浜におけるアマモ場再生の取り組み

2000年頃から金沢湾等横浜市内において、市民団体等によるアマモ場再生の試みが始まった 。2)

期待される効果等

藻場には波や流れの作用を弱め、海岸浸食を抑制する効果がある。3)
また、栄養塩類(窒素・リン)を吸収することによる水質の浄化を行う。4)ほか、アマモは高い二酸化炭素固定能力を有しているため、気候変動緩和に貢献しうる。5,6,7)

適応策以外の分野において期待される効果については下表のとおり。

生物多様性 多様な生息環境の創出(隠れ家・生育場)
水産生物の産卵場所や幼稚仔魚等の生息場所、アワビ・サザエなどの海藻を食べる水産生物や海藻表面や藻体間の餌料生物を捕食する水産生物にとっての餌場となり、生物多様性を維持する。6)また、希少種であるジュゴンやアオウミガメの餌として、これらの種を支える役割も果たす。6)
緩和策 炭素固定
海草の生育場となる(海草の藻場の海底には有機物が堆積する巨大な炭素貯留庫となっており、ブルーカーボンとして貢献する8,9))。

ネイチャーポジティブ(注)に貢献するための留意点

本対策の実施に当たり、気候変動への適応と生物多様性の保全を同時に実現するために必要な留意事項は以下のとおり。

  • アマモは多年生アマモが主流であるが、地域によっては一年生アマモも生息しているため、同一海域や周囲にアマモ場が分布している場合でも、生活史の異なるアマモを混在させない。10)
  • アマモ場を再生する際に導入する移植種苗の採取地(ドナーサイト)を選定する際は、地域個体群の持つ遺伝的な多様性を保全するため、既存知見、過去も含めたアマモの分布状況、生態特性、流れ等による輸送状況などの状況を総合的に検討し、合理的に判断する必要がある。10)

脚注
(注)ネイチャーポジティブとは、 「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」 をいう。2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」において2030年までに達成すべき短期目標となっており、「自然再興」との和訳が充てられている。

出典・関連情報

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