「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」は、気候変動による悪影響をできるだけ抑制・回避し、また正の影響を活用した社会構築を目指す施策(気候変動適応策、以下「適応策」という)を進めるために参考となる情報を、分かりやすく発信するための情報基盤です。

氾濫原湿地の再生

掲載日 2021年1月29日
分野 自然災害・沿岸域 / 自然生態系
地域名 海外(イギリス)

気候変動による影響

英国のノースフォーク州を通るグレイヴン川は、水車の設置など工業目的で改修されてきた歴史を有しています。近年、水車はほとんど利用されていませんが、残った堰や水門が自然な川の流れを阻害していました。また、農地を守るために河川の土砂の堀削や盛り土が行われており、氾濫原の大部分が主な河川システムと分断されていました。このような地形は、気候変動により豪雨が激化し頻発すると、洪水のリスクが高まると懸念されています。

取り組み

英国環境庁が2017年に公表した報告書「自然との協働-実践事例集」では、「氾濫原湿地の再生」を事例の1つとして挙げています。これは、河道に近接する氾濫原湿地を復元または創出することによって、増水時の貯留効果による洪水リスクの低下と、生態系便益を期待するものです。洪水の水を氾濫原に留めて高水位の際に貯水できるよう、河川と氾濫原を連続させることを目的としており、この連続を阻害する堤防等の撤去も行っています(図)。グレイヴン川では、2009年に河川と牧場を区切る盛り土を400mにわたって取り除き、河岸を周囲の牧場と同じ高さにしました。2010年には、河川内の生息環境や生態系及び氾濫原との連続性の改善を目的に、土地所有者や環境団体、環境庁、研究機関が連携し、より狭く多様に蛇行する水路を作りました。

効果/期待される効果等

堤防を撤去したことにより、小規模の洪水時における隣接河岸地域の浸水を促進し、グレイヴン川の増水時(1.7m3/s 以上)に氾濫原の貯留が広範囲で見られるようになり、洪水ピーク(洪水発生時における最も高い流量水準)が最大で5%減少しました。また、洪水時の浸透による地下水位の上昇効果や、牧場の洪水頻度の上昇による植物の多様性向上という環境上の効果が見られました。

図 堤防の撤去作業
(出典:Mark Wilkinson他「Case study 5. River Glaven, North Norfolk」)

出典・関連情報
Mark Wilkinson他「Case study 5. River Glaven, North Norfolk」
https://www.therrc.co.uk/sites/default/files/projects/5_glaven.pdf
Environment Agency「Working with Natural Processes-Evidence Directory」
https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/681411/Working_with_natural_processes_evidence_directory.pdf
国土技術政策総合研究所「水技術政策に関する海外最新情報【H30-1 号】」
http://www.nilim.go.jp/lab/kikou-site/data/info_data/mail/h30-1_20180330.pdf