気候予測を用いた水供給システム

掲載日 2021年1月20日
分野 水環境・水資源
地域名 海外(アメリカ合衆国フロリダ州)

気候変動による影響

米国フロリダ州のタンパ湾は、干ばつに加え、頻発化・激化する暴風雨や洪水、塩水の侵入等、多くの気候変動リスクに直面しています。2000年代初頭の長期にわたる干ばつにより地表水が不足した際、タンパ湾水道公社は地下水を活用することを決定しました。しかし、地下水の汲み上げにより地域の湿地や湖の水位が下がり、生態系は損なわれ、野生生物の生息地が失われました。

取り組み

タンパ水道公社は、顧客に加え、環境にも水を供給することの必要性を認識しました。この双方への供給には、地表水供給の潜在的な減少を予測するツールが必要でした。
そこで研究チームは、NOAA気候予測センター(注1)が提供する予測情報(注2)を利用して、数週間後から数か月後の気温と降水量のパターンの把握を行いました。なお、フロリダの気候に影響する特に重要な要因は、エル・ニーニョ南方振動(ENSO)(注3)であり、これはフロリダの湿潤・乾燥状況を説明する指標であることが分かっています。研究チームは、ENSOに関する研究を進めるとともに、予測情報を活用の上、予測された重要な見識を水道管理者に提供しました。これにより、地表水の不足する時期に水道管理者は助言を受け、地下水の節約や生態系保護のための判断が適時に可能となりました。
また、地表水を貯蔵するための貯水池の造成と特に乾燥する時期に淡水を補充できる淡水化工場の建設を行い、干ばつへのレジリエンスを高めました。現在、タンパ水道公社は河川と貯水池からの地表水、井戸からの地下水、タンパ湾からの海水を脱塩した淡水の3つの水源を組み合わせて利用しています。それぞれの水源にかかる費用は異なるため、水道管理者は費用と供給のバランスをとる必要があります。

効果/期待される効果等

ENSOを理解することにより、経済的・環境的に実行可能な貯水と取水、ポンプ稼働、及び淡水化工場運営が可能となりました。水道料金を低く保ちながら生活の質は高く維持するように3つの水源のバランスをとることは難しいですが、気候予測により管理が容易になりました。また、複数の水源を使用した新しい戦略により、多くの場所で自然資源の回復が見られました(図)。

図 過度な取水で枯渇したスタンフォード湖(左)と、多角的な取水で回復した同湖(右)

図 過度な取水で枯渇したスタンフォード湖(左)と、多角的な取水で回復した同湖(右)
(出典:U.S. Climate Resilience Toolkit「Climate Outlooks Help Water Supply Planning」)

脚注
(注1)NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration):アメリカ海洋大気庁
    https://www.noaa.gov/
(注2)過去の気象観測、海洋の現況及びコンピューターモデリング研究に基づく。
(注3)中部太平洋における数か月から数年にわたる暖水と冷水が変動する自然現象をいう。

出典・関連情報
U.S. Climate Resilience Toolkit「Climate Outlooks Help Water Supply Planning」
https://toolkit.climate.gov/case-studies/climate-outlooks-help-water-supply-planning
United States Environmental Protection Agency「Tampa Bay Diversifies Water Sources to Reduce Climate Risk」
https://www.epa.gov/arc-x/tampa-bay-diversifies-water-sources-reduce-climate-risk

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