建築物のかさ上げによる沿岸のレジリエンスの向上

掲載日 2021年1月20日
分野 自然災害・沿岸域
地域名 海外(アメリカ合衆国バージニア州)

気候変動による影響

米国バージニア州ノーフォーク市は低地の沿岸都市であり、湖と河川、チェサピーク湾に沿う144マイル以上の汀線(注1)を有しています。こうした水路は、海軍基地、海洋産業、レクリエーションなど数多くの経済的便益をもたらす一方で、降雨や高潮、ハリケーンのような暴風雨により起こる様々な洪水、及び海面上昇の影響に脆弱です。また、洪水の頻度と強度は増加しており、かつて洪水被害のない地域でも被害が生じるようになりました。ノーフォーク市近隣のヘイグでは、年間の洪水継続時間が1971年の50時間から2009年は300時間以上にまで増加しています。

取り組み

2014年、ノーフォーク市は、①公共政策と効果的な計画の策定、②不測の事態にも対応できる準備、③緩和策の検討、④政府と市民の対話、の4つのプロセスを統合した沿岸洪水管理のための「Coastal Resilience Strategy」を公表しました。この戦略の中で、ノーフォーク市の都市計画課はバージニア海洋科学研究所の海面上昇予測を用いて、洪水の緩和と住民の保護を目的として、洪水と沿岸域に関わる条例の変更を提案しました。主な変更点は、全ての新築建築物のかさ上げであり、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)が定める基準洪水位から建築物の最下部までの高さについて、従来の1フィートから、3フィート(約90cm)を確保する「フリーボード(乾舷)(注2)」が求められるようになりました(図)。また、ノーフォーク市は既存の建築物の累積的な損傷についても考慮しました。新たな規定として、建築物の市場価値の総額25%以上に相当する洪水被害が2度生じた場合、または洪水により建築物に構造的な損傷や変容が生じた場合に、この「フリーボード(乾舷)」の要件を満たすことが求められました。

効果/期待される効果等

この改正条例には、ノーフォーク市の適応の取り組みを遅らせている幾つかの懸念点があります。たとえば、市内にはすでに建物が密集しているため対象となる新築建築物が限られていること、不動産の所有者が被災後にかさ上げのためのFEMAからの補助金を何年も待つ可能性があること、そして住民の生活を支える下水道や道路などの新しい公共インフラへの影響には対応しないことが挙げられます。しかし、この改正条例は洪水問題に対する事前措置であり、市のレジリエンス向上への一歩となります。ノーフォーク市では3フィートの「フリーボード(乾舷)」にすることで、今後60~65年程度、再発する洪水に対するより大規模で包括的な解決策を検討する時間を作り出すことができると期待されています。

図 かさ上げがされた住宅

 図 かさ上げがされた住宅
(出典:City of Norfolk「COASTAL RESILIENCE STRATEGY」)

脚注
(注1)海面または湖面と陸地との境界線をいう。
(注2)一般に船舶において水面から上甲板までの距離を指す。

出典・関連情報
U.S. Climate Resilience Toolkit 「Norfolk Establishes Strategy for Coastal Resilience」
https://toolkit.climate.gov/case-studies/norfolk-establishes-strategy-coastal-resilience
City of Norfolk 「COASTAL RESILIENCE STRATEGY」

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